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行方しれず 第十五話 佐々木光子のこと その3


「ねーさん、何やってんだよ」

佐々木光子の家に突然弟夫婦が怒鳴り込んできた。

「永太郎、久しぶりに来てくれたんだね」

「何度鳴らしても出ねーじゃないか」

「あら、呼び鈴が電池切れかしらね。まあまあ、座って」

ぶっきらぼうな弟にも光子は笑顔で迎え入れた。

「ご無沙汰してます。突然すみません」

永太郎の妻・正枝が手土産を差し出してきた。

「まあ、気を遣わなくていいのに」

そう言いながら光子はずっしりとした羊羹の入った紙袋を受け取った。

「この家もボロくなったな」

永太郎はあぐらをかいてタバコを取り出した。

「ねーさん、この家、建て直さないか」

「今更、そんなことしなくても」

「いやね、ちょっとした金が入ったんだよ」

「あの、」正枝が身を乗り出して話そうとしたのを永太郎は一瞥した。

「正枝、お前は黙ってろ。悪いことをして手に入れた金じゃあねえ。きちんと手続きも済んでる」

「それなら、永太郎が自分のために使いなさいよ」

「だから言ってんだよ。俺たちがここに住む」

「一緒に住むには手狭だよ」

「だから建て替えようってわけさ」

「永太郎と一緒には住めないよ」光子はキッパリと言って、お茶をすすった。

「ちっ、ケチだなあ、ねーさんは。昔からそうだよな」

「正枝さん、いただいた羊羹、みんなでいただこうかしら」

2人が立ち上がり、台所に向かうと、

「話は終わってねーんだよ」

永太郎が光子の襟をつかみかかってきた。

「やめて」

正枝が羊羹を切ろうと持っていた包丁を取り上げ、光子に向けた。

「この家を俺によこせ」

包丁の先を首に押し付けてきた。

「わかった、わかったから、永太郎落ち着きなさい」

「それから、さっきからそのねーさんヅラした言い方気にくわねえから、二度と俺に命令するな」

永太郎が手を離すと、どさっと光子の体が落ちた。

「お姉さん、大丈夫ですか」

震える光子の体を抱えて畳の上に寝かせた。

「永太郎!」正枝が声を荒げて睨んだ。

「お前だって、ここに住みたいって言ったじゃないか。埼玉の田舎なんか早く出て、東京に住みたいって。それでねーさんの家を乗っ取ろうって」

「乗っ取ろうだなんて。光子さんに謝りなさい」

「それで、ねーさんが邪魔だから、年も年だから、老人ホームにでも入れて2人で住もうって言い出したのはお前だろう」

正枝は唇を噛み締めているだけで言い返せないでいた。

「家は譲るよ。私は人をあやめてしまったからその罪を償わないといけないから、この家にはいずれ住んでいられなくなる。2人が好きなように建て替えでもリフォームでもして住んでくれて構わないよ」

タバコを吸う永太郎の手が止まった。

「人をあやめたって、殺したってことか」

「光子さん、何言ってるの。光子さんがそんなことできるわけないじゃない」

光子は旧友の高橋と飲みにいった帰りに口論になり、高橋が足を滑らせて近くに置いてあった資材に頭をぶつけて、そのまま怖くなって逃げたことを話した。

「高橋さんはどうなったの」

「わからない」

「な、その話、まだ誰にもしてねーよな」

「今、初めて話したよ」

「絶対誰にも喋るな。高橋ってやつはきっと死んでない。仕返しをしにくるかもしれない。いや、違うな。何かの幻想だよ。ねーさん、いい施設があるから紹介してやる。そこで、ほとぼりが覚めるまで身を隠しな」

「高橋さんのことは、私、調べてみます」正枝が光子の手を握ってきた。

横になっている光子は2人に覗き込まれて、もう最期のような心持ちがしてきた。そうなると、いつも乱暴者の永太郎でさえ頼もしく見えてきた。

「ありがとう」

そういうと、光子は抗えない睡魔に襲われて、その後、気づいた時には、違う部屋にいた。ここが永太郎のいう施設だろうか。

「あら、光子さん、目を覚ましたのね。おはようございます」

「おはようございます」

「ご気分どうですか」

「はい、いつも通りです」

「私が光子さんの担当の高橋です」

「たかはし…」

「はい、みなさん、かんなちゃんって呼んでくれてるので、光子さんもかんなちゃんと呼んでくださって結構ですからね」

「はあ。よろしくお願いします」

高橋かんなはにっこりと笑った。そういえばこのやいば、あの高橋と似てるなと思った。

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