行方しれず 第五話 佐々木光子のこと その1
彼女が今日もまた自転車に乗って現れた。
(そんなはずはない)
「おはようございます」
「あ、おはよう・・ございます」
先週の金曜日の夜に高架下のおしゃれなワインバーに呼び出して、昔話に花を咲かせて、店を出てから口論っぽくなった。彼女は倒れて頭をちょうど置いてあった資材に頭を打った。後頭部から血を流して動かなかったので、脈も確かめずにその場を去った。
もともと手段は選ばないと考えていたが、自分で足を踏み外して、私が手を下すことなく死んだ、はずだった。
その後、ニュースばかり気にしていたが、そんな些細なことは記事にも出てこない。この週末ずっとそわそわしていた。
ところが、月曜になって、私が庭の花に水やりをしていると、いつものように彼女が通りかかったのである。
どういうことかわからなかった。
もしかしたら、死んでなかったのかもしれない。
暗がりではっきり見えなかったが黒い液体が後頭部の下に水たまりのように広がっていたのをはっきりと覚えている。
それなのに今朝の彼女は私にいつも通りの微笑みすら浮かべて挨拶してくれていた。
じゃあ、金曜日に私といたのは高橋でなかったのか。一体、誰なのか。
家に入るとネットのニュースを片っ端から調べた。
新聞をとっているご近所さんに頼んで金曜以降の新聞ももらって隅々まで目を這わせた。
だが、そのような記事は見つからない。
買い物に行くついでに高架下の現場に通りかかった。
いつも通り、何も変わりなかった。
店の裏に資材のようなものが積んであったのもそのままだった。高橋は確か、あの角に頭をぶつけたんだった。
資材の一部に黒い汚れが付いているようにも見えなくもない。自転車に乗った警官が通りかかり、私はそばによって確かめることもなく帰ってきた。
私は、高橋のことを最近頻発している失踪事件の犯人だと睨んでいた。
彼女は昔からああゆう絵を描くのが好きだった。普段は知的で温厚だが、酒癖が悪い。別人のように暴れて出禁になった店もいつか知っている。
高橋はどういう稼ぎがあるのか、最近、都内に別邸を購入したと話していた。事件の起こった日時にはたいていその別邸に行っていた。
それだけではない。家族のいないはず高橋は、最近になって朝会うと、子供の話をする時がたびたびあった。
別邸に監禁して架空の家族を作っているようにしか思えなくなっていた。そんなことはもうやめさせたかった。
問い詰めて自主させるためにワインバーに誘ったんだった。
だが、いくら聞いても証拠は掴めなかった。
行方不明になった人の遺留品には必ず、幾何学模様のような絵が描かれていることを知っていた。
だから、あの日、彼女のバッグの中に私の考えた意味不明な模様を書いた絵を忍び込ませていた。だから、あの一連のニュースだと認識されていると思っていたが、高円寺の地名すらニュース記事からは見つけられなかった。
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