行方しれず 第十二話 ドーマ③
母は誰もいない家にいるのが嫌だった。
やつれた顔のまま、近くのファミレスでドリンクバーだけ頼んで過ごした。ドーマのことばかり考えてしまう。夕方になり、会計をして、出口に向かう。
食器の割れる音。
「失礼しました」
音がした厨房の方を見ると、トイレから出てくる背の高い男に目が釘付けになった。
無精髭を生やしていたが、紛れもなく蒸発した夫だった。
母は、彼が席に座るのを目で追った。
連れの女がいるわけではない。双子の片割れの女の子も、今は6歳のはずだが、いない。
ふうっと息を大きく吐いてから、彼の席に向かって歩いた。
と、彼が急に立ち上がり、ぶつかりそうになった。
「すみません」
彼がじっと母を見た。母は、気付かれたら逃げられると思っていたが、違った。
「もしかして」
彼は母の名前を呼んだ。
母は、うなずくと、涙をこぼしていた。
「あの時は悪かった。こういうのもなんだけど、僕は君を探していたんだ。今、時間ある?」
母は男の前に座った。
「何かあった?」彼は首を横に振った。「いや、この六年苦労させたことを謝るのが先だな」
「それより、ドーマが、行方不明なの」
「ドーマって、双子の男の子のことか」
母は頷いた。
「あなたが男の子だったらドーマがいいって」
「覚えてる。その名前にしてくれたんだね」
「いつかあなたに会えるようにと思って」
「ドーマは会いたいと思わないだろう。こんな父親に」
「彼には父親が必要だった。でも、今、あなたを責めている場合じゃないの。3日前に、ドーマが急にいなくなったの」
「それって最近の連続行方不明事件と関係あるのか」
「警察はあると言ってる。例の絵があったから」
「絵?ごめん、ニュースとかあんまり見てなくて」
「行方不明になった人のもとに絵が残されているの。それが、ドーマの部屋から見つかったの」
母はスマホを見せた。
「それと、これがドーマの絵」
「やっぱり、双子なんだな、ジュリも、双子の女の子の方、もこんな絵を描いている」
「ジュリちゃんっていうのね」
男は何かいうのをためらうように、小刻みに頷いた。
「ジュリちゃんには、いるの?その、母親が」
「いや、それはいない」
「隠さなくていいのに」
「本当にいなんだ。ジュリはまだ6歳なのに、自立していて、俺なんかいなくても1人で生活していけそうなくらいしっかりしていて、賢いんだ。ドーマは?」
「ドーマは、なんていうか、なんでもできるわけではないけど、彼の世界があって、それを私は理解することができないし、私に入ってきてほしくないみたいなの。」
「わかるよ、ジュリもよく1人にしてっていう。絵のことを聞くと極端に嫌がる」
「ドーマは、見えるって言ってた」
「見える?」
「ドーマとジュリちゃんは双子だから、何か繋がっているんだと思うの。もしかしたらなんだけど」話の確信を築こうとした時に、夫が顔を歪めた。
「ごめん、耳鳴りが」そうえいば、嫌な予感がする時、夫は耳鳴りがするんだった。「ジュリのことが心配になってきた。悪いけど、ちょっと帰る。あの、連絡先、教えて」
「ええ」
「また必ず連絡する」
夫はそう言って、急いで帰って行った。
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