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日替わらない #シロクマ文芸部

 目覚めるときに抱いた違和感は、夜になっても消えなかった。
 それは決してはっきりとしたものではなかったけれど、静かに、血液に混じって流れているなにかのように、さらりと存在していた。

 なんだかデジャブみたいだ、と寝起きの頭で思ってもそれはいつものことだ。同じことが繰り返される毎日。いちいち気にしていられない。
 ベッドから抜け出してテレビを点けると朝のニュースはすでに聞いたことのある話題ばかり。毎日どこかで起きる事件、芸能人の不倫だ結婚だ離婚だ。ニュースを伝えるアナウンサーやコメンテーターも、同じ表情、同じ声。
 家から出て、同じ道を歩いて、同じ電車に乗る。
 スマートフォンに流れてくる情報も同じ。今では自分の好みに合わせて勝手に流れてくるのだから当たり前だ。
 オンラインストアから送られてくる広告メールも同じ。代わり映えしない内容で、内容をじっくり見るなんてことすらしない。
 同僚と交わす挨拶も会話も仕事も、別段に「つまらない」ということもないけれど、同じようなもの。
 会社の窓から眺める景色も同じ。さすがに季節の移ろいくらいは感じることもあるが、毎日の風景が劇的に変わることはない。

 さらさらと流れる日常の中に、気づくことなんてない。

 仕事帰りに馴染みの定食屋へ入った。ここだけは、「いつもと違う」を教えてくれるようなものだった。
「おっ、お疲れさん! いつものでいいかい?」
 店主が声をかけてくれる。
「うん、お願いしまーす」
 いつもの、とは日替わり定食。この定食屋ではきちんと毎日メニューを変える。これだけが、「今日は違う日だ」と感じさせてくれるのだ。ぼんやりと眺める店内のテレビに映し出される映像がやはりどこか同じだと感じたとしても。


「お待たせしましたー」
「ありが……」
 思わず言葉が詰まった。
「……珍しいですね、昨日と同じなんて」
 つい出てしまった感想に、店主はきょとんとした顔を返してきた。
「えぇ? なに言ってんの! 昨日はトンカツだったでしょう?」
 昨日はトンカツ……?
 いや、違う。
 喉の奥がきゅっと締まるような感覚がする。
 トンカツだったのは、一昨日だ。昨日は、焼き鮭。
 今、目の前に出されたのも、焼き鮭。昨日、食べたものと、同じ。

 急速に今朝目覚めてからの風景が回りだす。
 情報。広告。動画。会話。風景。
 どれもこれも同じものばかり。昨日と、まったく同じ。なにもかもが、昨日と、同じ。
 そのことに気づいているのは自分だけなのか。淀みなく流れる時間の中で、自分だけが異物であるようだ。

 客の一人が大きなくしゃみをした。
 昨日と、同じ。


 どうやって家にたどり着いたのか。いや、おそらくいつもと同じように帰ってきただけのことだろう。
 そう思うことでしか落ち着かせられない。
 昨日と同じにシャワーを浴びて、昨日と同じにベッドに入る。
 眠ってしまえばどうなるのだろう。


 明日は来るのだろうか。
 今日がもう一度始まるのだろうか。
 あるいは——、昨日が。




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2025.12.23 もげら

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