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街クジラ #シロクマ文芸部

 街クジラは都会のビル群の合間を悠然と泳ぐ。

 『街クジラ』というのは、この街の学者がつけた名前、というのは本で読んだり人から聞いた知識だ。どうやら『クジラ』という生物が海に生きていた時代があったらしい。
 海に生きるクジラと街に生きるクジラ。環境が違うため、生態も別物であるので『クジラ』という呼称はどうかという意見もあった。しかし見た目は同じなので、結局は住む場所を名前にしたのだ。
 リクガメとウミガメの違いみたいなものだろうかと私は解釈している。ちなみに両者も本で知った。

 リクガメの存在を知ったときに、私は疑問に思ったことがある。
 『リククジラ』ではだめだったのか? 陸上に住むカメを『リクガメ』と呼ぶのなら、陸上に住むクジラは『リククジラ』でもいいはずだ。
 小さかった私は、ママに聞いてみた。ママは少し考えたあと、困ったような悲しいような顔をして「それだとね、意味が、少し違ってしまうから」と答えた。どうしてママはそんな顔をしたのかも、ママの言っていることも、そのときの私には理解ができなかった。


 私にとって街クジラは当たり前の存在で、見た目は同じクジラは図鑑の中の存在でしかない。リクガメもウミガメもそうだ。
「ウミ、リク、街、ウミクジラ、街クジラ、リクガメ、ウミガメ——、」


 独り言を呟いて、海を見下ろす。遠くに見える一面の青。ガラスにおでこをくっつけたところで、少しも近くはならない。青い色はここからでもよく見えるのに、触れたことはない。
 そして、あの青の下には『リク』があるらしい。


 『リククジラ』の呼称が採用されなかった理由。学者ではない私にも、今ならわかる。

 この街は、空に浮いているのだから。




#シロクマ文芸部 企画に参加させていただきました。

初参加。ドキドキ。
(なにか不備があれば教えてください)


読んでいただきありがとうございます。

2023.06.30 もげら

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