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日本国債CDSの上昇と財政懸念との連動の誤解


 日本国債のCDSについて解説してほしいというリクエストが非常に多く寄せられています。日経新聞などで日本国債のCDSが「上昇加速」といった表現で報じられることが増えたため、多くの方が何が起きているのか気になっているのだと思います。
 ただ、私自身の見解としては「加速」という表現はやや言いすぎなのではないかと感じています。このあたりには少しミスリードと言えるような報じ方が存在していて、必要以上に不安を煽ってしまう面もあるかもしれません。そこでこの記事では、CDSにまつわる誤解も含めて、私なりの考えを整理して解説します。

 CDSとは、クレジット・デフォルト・スワップといい、債券がデフォルトした時のための保険のような金融商品です。デフォルトする可能性が高いと、CDSの価格が上昇する仕組みになっています。

イスラエルとヒズボラの紛争とCDSの価格上昇

CDSとは

 まず、CDSというのはクレジット・デフォルト・スワップの略称で、企業や国家が破綻したときに損失を補填してもらう権利を取引する金融商品です。保険に例えられることが多く、たとえば保証料率が1%であれば、債券の額面に対して1%を支払うことで、もし発行体がデフォルトしたときに補償を受けられるという仕組みです。

 信用リスクは、広義では株式、債券、ローン、売掛金などを含む企業の倒産リスク全般を指します。従来、企業の信用リスクは、債務保証や倒産保険などの契約形態でヘッジされてきましたが、これを国際的に統一化し流通可能な取引形態にしたものがクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)です。言い換えれば、CDSは企業の信用リスクを取引するための商品です。

日本取引所グループ

 そのうえで、2025年12月10日の日経新聞の記事では、日本国債CDSの保証料率が上昇し「2年ぶりの高さ」と表現されていました。確かに2年ぶりの水準に戻っているのは事実ですが、これを懸念すべき水準かというと、まったくそのようには思いません。記事に掲載されていたグラフを見るとわかりますが、足元の日本国債CDSは0.17%から0.26%程度まで上昇したというだけです。

過去の水準との比較

 2010年頃から2021年頃までの各国CDSの推移を見てみると、もっとはっきり状況がわかります。日本国債のCDSは2010年頃には1.5%を超えていた時期もありました。つまり、今になって0.17%から0.26%に上昇したことを「加速」と表現するのは、かなり独特な感性と言っていいでしょう。

出所)ファイナンシャルスター【主要国のCDS推移】

 2011年には東日本大震災があり、同じ頃には欧州債務危機も起きていました。この時期は日本だけでなくドイツなどのCDSも大きく動いたタイミングで、金融市場全体に不安が渦巻いていた時期でした。それでも日本国債が本当にデフォルトの危機に瀕していたかといえば、そんなことはなかったわけです。そう考えると、CDSが過去比で1/5程度にとどまっている現状で過度に心配する必要はないと考えるのが自然でしょう。

CDSと信用不安

 ここからはCDSそのものについて少し踏み込んでお話しします。CDSの保証料率が大きく上昇すると「大丈夫なのか」と騒がれることがありますが、CDSは必ずしも発行体の信用状況を正しく反映しているとは限りません。

 その理由のひとつが、債券投資家は基本的にCDSをヘッジに使わないという点です。債券投資家はデフォルトリスクを分析した上で投資しているわけで、ヘッジしてしまうとリターンを得られなくなります。さらに重要なのは、日本国債CDSなのに取引はドル建てで行われていて、国内の債券投資家が必ずしも扱いやすい商品ではないという点です。
 
では誰がCDSを取引しているのかというと、主にヘッジファンドなどの投機的な投資家です。したがって、必ずしも債券市場との連動性が高くない場合が多く、CDSが上昇したからといって信用危機が近づいているとは言えません。

CDS市場のプレイヤー心理

 もう一つ見落とされがちなポイントとして、CDS市場の多くのプレイヤーは「CDSが上がった方が得をする」という構造があります。
 例えば、ある国のCDSを購入したヘッジファンドは、その価格が上がってくれた方が評価益が出ます。一方、売り手である投資銀行も、その国が実際にデフォルトしなければ保証料を受け取るだけで利益となり、さらに価格上昇局面で別の投資家へ高値で売ることさえできます。

 欧州債務危機のときも、結局イタリアもギリシャもデフォルトしませんでした。つまりCDSを買っていた投資家はコストを払い続けただけで、売り手の投資銀行は保証料収入を得続けたわけです。この構造を理解すると、CDSの動きに一喜一憂する必要がないということがわかります。

日本の財政懸念とCDSの連動

 もちろん、日本の財政に懸念がまったくないと言っているわけではありません。国債発行を増やして財政政策を続ければ、円安やインフレ率上昇を通じてイールドカーブがスティープ化する可能性はあります。ただし、これとCDSが連動して動くとは限らないという点は理解しておくべきでしょう。

私の考え

 日本国債CDSが「上昇加速」と報じられている件について、その背景や誤解されがちなCDSの仕組みを踏まえながら説明しました。CDSは必ずしも信用不安のシグナルではなく、むしろ投機的な動きが大きく影響する市場です。
 
過度に不安を煽る報道に振り回されず、冷静に状況を見ていくことが大切だと考えています。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。


ご参考

新聞では、国の借金はGDPの2倍を超え、先進国でも突出して悪いと述べられ、テレビの経済特集では、「このままでは国債の利払いが国の予算を圧迫し、社会保障も維持できない」という論調で語られる場面が恒常的に見られます。こうした報道が積み重なり、日本の財政が深刻な状態にあるというイメージが日本国民の間に根付いています。

日本の財政は本当に危機か

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