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日本国債利回り5%の正体と業界の特殊取引慣行


 先日、国債利回りが大きく上昇する中で、あるメディアが「日本国債の利回りが5%に達した」という記事を掲載し、話題になっていました。10年債は1.9%、30年は3.4%、40年は3.7%といった水準だと報じられている状況で、突然5%という数字が出てくれば多くの人が「なぜ?」と思うのも無理はありません。

 私も実際に記事を見て、改めて日本の債券市場は相変わらず独特だと感じるところがありました。この記事では、日本の債券市場のややこしさと、裏側にある慣行や構造について解説します。

 日本の10年国債利回りが約17年ぶりとなる1.88%まで上昇し、30年国債利回りは過去最高の3.41%を記録するなど、長期金利が大きく動いています。

日本の10年国債利回り、17年ぶりの高水準に

国債の利回り5%の正体

 当然ですが、10年債や30年債の利回りが5%に達したわけではありません。では何が5%に達したのかというと、40年13回債という特定の銘柄を、単利という日本独自の計算方法で見た場合に5.05%という数字が出ている、というだけの話です。

 一般に債券の利回りは複利で考えるのが世界の標準であり、日本でも専門家は複利を基準に分析しています。複利で見た場合、この40年債の利回りは3%台であり、特段おかしな動きをしているわけではありません。しかし単利という計算では、クーポンと償還差益を単純に割り戻すため、債券価格が大きく動いた局面では利回りが極端に高く見えることがあるのです。

複利と単利のイメージ

 複利より単利のほうが数字が低く見えるという感覚のほうが自然かもしれません。複利効果という言葉が示すように、複利のほうが「効いていく」イメージが強いからです。
 しかし債券の世界では、利回りの定義が複数あり、その違いによって数字が大きく変わってしまうというややこしさがあります。

債券には複数の利回り概念が存在する

 債券の利回りには、複利や単利以外にも多くの概念があります。海外では複利ベースで利回りを把握するのが一般的で、さらにそこからスポットレートやパーイールドといった、より精緻な利回りを導き出して分析するのが当たり前になっています。

 一方、日本でしか使われていない利回り概念として「直利」と「単利」があります。直利はクーポンを購入価格で単純に割ったもの、単利はそこに償還差益・差損を加味したものです。ただしキャッシュフローの発生タイミングまでは考慮しません。複利はそのタイミングまで反映して利回りを計算するため、実態把握には複利のほうが適しています。そのため、イールドカーブを見る場合、単利より複利を使うほうが市場の実態に近いとされています。

単利で見ると「逆イールド」に見える

 40年債のイールドカーブを複利で見ると、最長40年18回債が3.74%、40年13回債が3.3%程度となっており、ごく自然な上昇カーブになっています。期間が長いほど利回りが高くなる、一般的な形状です。

 ところが単利で見るとどうか。40年18回債は3.74%のままですが、40年13回債は単利計算だと5.05%となり、利回りが逆転してしまうのです。これは、債券価格が大きく動いた銘柄に対して単利が過度に反応しやすいという特徴によるものです。
 複利で見れば何の問題もないのに、単利で見ると「逆イールドが発生している」と勘違いされかねません。これが先ほどの「日本国債が5%」という記事につながってしまったということでしょう。

日本ではなぜ単利が今も使われるのか

 世界の債券市場では複利が標準であるにもかかわらず、日本ではなぜ単利が取引慣行として残っているのか。これには歴史的な背景があります。

 日本の債券市場が発展した当初、主要な投資家は銀行や保険会社などの金融機関でした。これらの金融機関では、簿価ベースでの収益率を重視する文化が強く、単利はその考え方と相性が良かったのです。結果として、日本の債券市場は取引を単利ベースで行うという慣行が残り続けてきました。
 しかし本来、市場分析に単利を使うのは不適切です。そのため、実務の現場では単利から複利を変換し、さらに精緻な利回りを求めて分析を行っています。非常に手間のかかる作業ですが、そのようなやり方が今でも続いているのが実情です。

単利が残り続ける現実的な理由

 私は、単利を使う取引慣行が残っているのは、日本の証券会社が市場をあえて不透明にしておきたいという思惑があるからだと考えています。

 国債市場は取引所で売買されているわけではなく、相対取引が中心です。しかも取引データのほとんどは公開されず、投資家はリアルタイムで債券価格を知ることができません。見えているのは業者間市場のごく一部、それも代表的な銘柄だけです。そのため、投資家と証券会社の間には大きな情報格差が存在します。証券会社はこの非対称性を利用して利益を得ることができます。
 例えば、10億円分の10年債を、投資家に対して市場より0.01%低い利回りで売れば、それだけで90万円の利益が出ます。0.02%なら180万円、0.05%なら450万円です。

情報の非対称性
 ある事柄(商品やサービス)について、その性格上、当事者間で情報知識に格差が生じてしまう性質をいう。特に、金融取引のような専門性が高い分野においては、その商品について消費者(投資家)が供給者(運用機関)と同程度の情報を取得し理解するのは非常に困難であり、このような問題が生じてくる。

企業年金連合会

 情報が透明化されすぎれば証券会社が儲からなくなり、市場に流動性を供給するプレイヤーが減るという問題もあります。透明性をどこまで高めるべきかは本来非常に難しい問題ですが、証券会社側が進んで透明化を進める理由はありません。

単利慣行はすぐには変わらない

 単利が情報の非対称性を大きく生むとまでは言いませんが、自ら複利に一本化しようとする動きは市場側からは起きないでしょう。電子取引が増えたことで証券会社の利幅も徐々に縮小しているとは考えられているものの、依然として相対取引中心の構造は変わっていません。
 現状では、この複雑で扱いづらい単利ベースの慣行が当面続くことになるだろうと私は見ています。単利と複利の違いによって見える景色が大きく変わること、そして日本の債券市場がいかに特殊な構造のもとに運営されてきたのかが、少しでも伝われば幸いです。後ともどうぞよろしくお願いいたします。


ご参考

もしAI関連投資の収益化が遅れれば、資金繰りが悪化する企業が出てくる可能性もあります。特に40年、50年といった超長期債は、金利変動や信用不安の影響を強く受けやすく、価格変動が大きくなるリスクを抱えています。

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