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コストプッシュインフレの中で利上げを行う理由


 コストプッシュインフレの中でなぜ日銀は利上げをするのか、よくいただいている質問です。今週の日銀の金融政策決定会合では、利上げが見送られる見通しですが、夏までには次の利上げが行われるとの見方が強まっています。
 物価上昇に対して賃金の上昇が追いついていない中、なぜ日銀は利上げを急ぐのか。国民生活が苦しくなる状況では、むしろ金融緩和を維持すべきではないかという声も多くあります。この記事では、こうした環境の中で日銀が利上げを進める理由について考えたいと思います。

コストプッシュインフレと利上げの関係

 まず、コストプッシュインフレとは何かについて簡単に説明します。コストプッシュインフレとは、需要が特に伸びていない中で、供給側の問題によって物価が上昇する状況を指します。例えば、エネルギー価格の高騰や原材料費の上昇が主な要因となります。このような状況では、物価が上がることで消費が抑えられ、結果として景気が悪化するため、「悪いインフレ」とも呼ばれます。

ディマンドプルインフレ

 一方で、需要が拡大し、人々が消費や投資を活発に行うことで物価が上がる状況は「ディマンドプル型インフレ」と呼ばれます。この場合、景気が良くなりすぎて過熱するのを防ぐために、金融引き締め(利上げ)が行われるのが教科書的な対応です。

 コストプッシュインフレの場合、物価上昇の原因は供給側にあるため、金融政策による利上げでは対応が難しく、むしろ景気を悪化させる可能性があります。そのため、一般的にはコストプッシュインフレの際には利上げを避けるべきだと考えられています。

日銀の考えの考察

 本来であれば、コストプッシュインフレ下では利上げは避けるべきとされるのに、日銀はなぜ利上げを進めようとしているのでしょうか。その理由として、日銀のインフレ認識の変化が挙げられます。

日銀のインフレの認識の変遷

 日銀は、2024年初め頃までは「現在のインフレはコストプッシュ型であり、金融緩和を続けるべき」として、マイナス金利政策やイールドカーブコントロールを維持していました。この認識は、金融政策決定会合の議事録や、日銀が公表する「金融システムレポート」でも確認できます。

金融システムレポート
本レポートは、(1)わが国金融システムの安定性について包括的な分析・評価を示し、(2)金融システムの安定確保に向けて関係者とのコミュニケーションを深めることを目的として、年2回公表しているものです。

日本銀行

 しかし、その後日銀は「インフレを支える要因が変化してきている」との見方を示し始めました。具体的には、コストプッシュ型の要因(第1の力)に加えて、景気の回復や労働需給の引き締まりを背景に「賃金と物価の好循環(第2の力)」が生まれつつあると説明しています。

 つまり、以前は「コストプッシュ型」としていたインフレを、現在は「コストプッシュ型にとどまらず、ディマンドプル型の要素も加わっている」と見ているのです。
 この見解には批判も多くあります。実質賃金(賃金の上昇率から物価上昇率を引いたもの)は、一時的にプラスになったものの、多くの期間でマイナスが続いています。国民の生活が厳しい状況の中で「賃金と物価の好循環が起こりつつある」という日銀の説明に対して、「そんなわけがない」という反論も多く聞かれます。

日銀の課題

 日銀の説明には建前的な部分もあるかもしれませんが、実際には「物価水準と景気のどちらを優先すべきか」という問題に直面していると考えられます。
 日銀は、物価の安定と金融システムの安定を政策目標としています。

 日本銀行の目的は、「物価の安定」を図ることと、「金融システムの安定」に貢献することです。

日本銀行

 米国のFRB(連邦準備制度理事会)のように雇用拡大を目標に含めてはいませんが、賃金や雇用の状況も無視しているわけではありません。そのため、「賃金と物価の好循環」を強調しながら、雇用や賃金の増加を伴う物価安定を目指していると説明しています。

FRBの金融政策
 アメリカの中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)の使命として「雇用の最大化」と「物価の安定」の2つがあります。これは連邦準備法で決められているものです。

今さら聞けない米雇用統計の基礎

 しかし、コストプッシュインフレが進む中では、物価安定と景気の維持を両立させることが非常に難しくなります。利上げを行えば景気を悪化させる可能性がありますし、金融緩和を続ければ物価がさらに上昇し、経済の混乱を招くリスクが高まります。

 結局、物価を政策目標に置いている日銀としては、景気よりも物価水準の安定を重視せざるを得ない状況になっていると考えられます。

 この点については、過去に著名なエコノミストと議論したことがありますが、日銀内部では「物価水準と景気のどちらをどの程度重視するのか」というバランスを決めている可能性が高いものの、それが公表されることはありません。結果として、国民から見れば「実質賃金が上がっていないのに利上げを行う」という状況が生じるわけです。

政治的要因と為替の影響

 物価水準と景気どちらを重視するか、どのように比重置くかというのは政治的な面にも影響されている可能性があります。
 例えば、2022年の米国ではバイデン大統領が中間選挙を控え、急にインフレ抑制を重視し始めたことでFRBが急速な利上げを行いました。1980年代のボルカー議長時代も、景気を犠牲にしてでもインフレ抑制を優先する方針が取られました。最近では、2024年のトルコ大統領選後に中央銀行の政策スタンスが大きく変わったことも、インフレが政治に与える影響の一例です。

為替の影響

 日銀の政策には為替の影響も大きいと考えられます。日銀は公には「円安だから利上げを行う」とは言いませんが、実際には円安が進むと日銀幹部が「利上げに前向き」な発言をするケースが増えています。為替市場の動向も、日銀の金融政策に影響を与えていることは間違いないでしょう。

総括

 本来、コストプッシュインフレ下では利上げは逆効果とされています。しかし、日銀は「物価水準と為替の安定」を重視する中で、利上げを進めています。こうした本音と建前を使い分けながらも、必ずしも十分な対応ができているとは言い難いのが現状です。日銀の動きを正しく理解するためには、こうした背景を押さえておくことが重要でしょう。


ご参考①

 多くのメディアでは、起こった出来事を伝えるだけで、その背景を詳しく解説することは少ないです。特に、ニュースには時間的な制約もあるため、なぜそれが起こったのかという要因やその背後にある歴史的な経緯について触れることは稀です。

情報収集の具体例と分析の方法、そして分析の実践

ご参考②

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