見出し画像

アルゼンチンペソ急落と為替制度改革の影響


 このところアルゼンチンペソが不安定な動きを見せており、投資家や国際社会の間でも注目を集めています。最近では「ミレイ政権は大丈夫なのか」といった声が出始め、アメリカのベッセント財務長官がアルゼンチンを支援する姿勢を打ち出すなど、国際的な反応も出ています。2023年に大統領に就任したミレイ氏は、当初は大胆な改革を進め、インフレと財政赤字の改善に成果を上げたことで高く評価されました。

 しかし、ここにきて状況が揺らいでいるのはなぜなのか。この記事ではアルゼンチン経済の現状について解説します。

ミレイ政権の財政改革
 今回のIMF融資が実現した背景には、ミレイ政権による徹底した財政改革があります。2023年末に就任したミレイ大統領は、財政赤字の解消を公約に掲げ、2024年には黒字化を実現しました。

アルゼンチンペソ急落の背景、改革の代償

アルゼンチンペソ急落の背景

 2025年に入ってからアルゼンチンペソは急落しています。昨年末の時点で1ドル=1,031ペソだったものが、9月19日には1,475ペソにまで下落し、わずか9か月でおよそ4割もの下落となりました。

 この急落の一因とされるのが、9月7日に行われたブエノスアイレス州議会選挙で、ミレイ氏のリバタリアン党が敗北したことです。選挙結果をきっかけに、政権が掲げてきた改革路線の先行きが不透明になるのではないかという見方が広がり、為替市場にも影響を与えたと考えられています。

アルゼンチン共和国首都ブエノスアイレス
出所)外務省

ミレイ政権の海外の評価と国内の反発

 確かにミレイ政権の政策は、資金を貸し付けている海外の国や国際機関から見ると、極めて「優等生的」な対応と評価されています。ミレイ政権は就任後、財政赤字の削減に力を入れ、GDP比で5%近くあった財政赤字を黒字化しました。

 要は大規模な緊縮財政を断行したわけです。

 その効果もあって、インフレ率は2024年4月に前年比289%に達していたものが、2025年7月には37%まで落ち着いてきました。これは数値としては劇的な改善であり、IMFや各国からも「よくやっている」との評価が寄せられています。しかし、国内では必ずしも同じように受け止められてはいません。緊縮財政によって当然ながら国民生活は苦しくなり、多くの人がその影響を受けています。インフレ率は改善したものの、生活実感としては依然として苦しい状況が続いているのです。アルゼンチンの失業率はミレイ政権発足直前の5.7%から、2025年6月には7.6%にまで悪化しました。背景には、公務員を3万5,000人以上削減するなど、国民にとって厳しい改革があったことが指摘されています。
 GDPがプラス成長に転じても、恩恵を実感できる人は一部に限られ、大多数の国民にはその果実が届いていないのが現実です。

選挙とスキャンダルの影響

 さらに9月の州議会選挙では、ミレイ氏の妹であるカリーナ・ミレイ氏に関するスキャンダルも影響したと見られています。
 カリーナ氏は大統領府事務総長として政権運営の中枢にいましたが、製薬会社からワイロを受け取っていたとされる音声データが出回り、ミレイ氏への批判が強まりました。もともとミレイ氏の支持者は「汚職まみれだった左派政権を終わらせる」という期待を込めて投票していたのに、その側近が同じような疑惑を持たれたことで失望感が広がったのです。ただし、このスキャンダルが10月の中間選挙を控えた時期に浮上したことから、政治的な思惑も指摘されており、見方は分かれています。

為替制度改革とペソ急落

 アルゼンチンペソ急落の要因は政局不安だけではありません。2025年4月に為替制度がクローリング・ペッグ制からバンド制へと移行されたことも大きな影響を与えています。

 アルゼンチン中央銀行は4月14日、為替相場制度をクローリング・ペッグ制から為替バンド制へ移行した。中銀はこれまでインフレ抑制を目指し、公式為替レートと非公式の闇レート、いわゆるブルーレートの乖離幅が広がるのを防ぐため、公式為替レートを毎月1%切り下げるクローリング・ペッグ制を採用していた。

ジェトロ【2025/4/16】

 クローリング・ペッグ制は、通貨を一定のペースで切り下げることで安定を保つ仕組みでした。ところが、これをより自由度の高いバンド制へ移行したことで、市場原理による変動幅が拡大し、結果としてペソが下落しやすくなったのです。これまでは抑制されていた下落圧力が一気に解き放たれた形と言えるでしょう。

クローリングペッグ制:インフレ率など特定の経済指標の変化に合わせて為替相場を調整するものです。

公益財団法人国際通貨研究所

 バンド制移行は、ミレイ政権の経済改革の一環です。為替変動を抑えてきたことが輸出競争力を阻害してきたという問題意識があり、最終的には完全変動相場制への移行を目指しています。IMFからの支援を受けながら進められている改革のひとつであり、決して短期的な通貨安だけを目的としたものではありません。

外貨購入規制の撤廃

 加えて、4月には国民による外貨購入の上限が撤廃されました。それまでは月200ドルまで、しかも30%の税負担が課せられていましたが、これがなくなったことで国民がドルを買いやすくなり、ペソ売り圧力が一段と強まりました。

今後の焦点

 通貨安は進んだものの、これも改革の一部であり、長期的には資本規制の緩和や市場の透明性向上につながると期待されています。
 確かに輸入物価の上昇を通じてインフレ再燃のリスクはありますが、今のところ急激なインフレ再加速は見られていません。したがって、現在の通貨安は単なる混乱というよりも、改革の副作用として生じている側面が強いと考えられます。悲観的にとらえる必要は必ずしもないものの、ミレイ政権にとって重要な局面であることは間違いありません。
 特に10月の中間選挙で与党が大敗するようなことになれば、改革推進力が大きく削がれる可能性があります。そうなればペソ相場やアルゼンチン経済全体の先行きにも影響が及ぶでしょう。

私の考え

 為替相場の動きは一見すると不安定でリスクが大きいように見えますが、その裏には構造改革や制度変更といった大きな流れがあります。中間選挙を含め、今後の政治の行方が改革の持続性を大きく左右することになるでしょう。アルゼンチン経済の動向は、引き続き注視していく必要があると言えます。


ご参考

投資家へのアドバイス
 今、保有しているメキシコペソが下落していて不安に思っている個人投資家の方もおられるかもしれません。そういう方は、取引している証券会社が今の状況についてどう考えているか、レポートなどを出していないか、YouTubeなどで情報を発信していないか確認してください。
 もし何の情報も出していない、出していたとしても、内容が乏しいと感じたら、その証券会社とは取引しない方がいいでしょう。

メキシコペソの下落要因と投資家へのアドバイス

サイトマップ(目的別)はこちら

いいなと思ったら応援しよう!

この記事は noteマネー にピックアップされました

noteマネーのバナー