通帳廃止の流れに見る銀行の意図と注意喚起
最近、銀行が通帳のサービスをやめたり、顧客に電子的なサービスへの移行を促したりする動きが加速しています。こうした中で、「銀行は顧客が亡くなった後にその預金を乗っ取ろうとしているのではないか」、「銀行が国民の預金を狙っているのでは」といった声が一部で聞かれるようになっています。この記事では、そうした疑問について解説したいと思います。
通帳廃止の動き
最近の銀行では、通帳の発行を停止し、全てのサービスをオンラインに移行しようという動きが広がっています。これに対して一部の人たちが主張しているのが、「高齢の預金者が亡くなった際、通帳がなければ相続人がどこの銀行に預金があるか分からない」、「その結果、相続手続がされないまま放置され、最終的に銀行がその預金を手に入れるのではないか」という懸念です。
確かに、ネット銀行を利用している場合などで、遺族がその存在に気づかなければ、相続の手続きは難しくなります。実際、こうしたケースが今後増えてくる可能性はあります。
休眠預金
では、仮に口座が放置されたとして、銀行がその預金を自由に使えるのかというと、それは違います。日本では「休眠預金等活用法」という法律があり、2009年以降、10年以上取引のない預金は「休眠預金」とされ、預金保険機構に移管される可能性があります。

ただし、10年経過したからといってすぐに移管されるわけではありません。あくまで、その口座の所有者が不明で、連絡が取れないなどの要件を満たした場合に限り、休眠預金として扱われます。そして、移管された後もそのお金は銀行の自由になるわけではなく、民間の公益活動に活用されるというのが建前です。
休眠預金等活用法に基づき、2009年1月1日以降のお取引から10年以上、その後のお取引のない預金等(休眠預金等)は、民間公益活動に活用されます。
つまり、「銀行が預金を乗っ取る」という主張は、やや拡大解釈と言わざるを得ません。
銀行の意図
では銀行は何を狙っているのか。それは「手間とコストのかかるサービスを減らすこと」です。通帳、窓口、ATMといった対面サービスを減らし、オンラインやAIによる効率化を進めることで、業務コストを下げていこうというのが銀行の本音でしょう。
特に最近の銀行は、一般大衆向けのサービスにはなるべく人手をかけず、その分のリソースを富裕層向けのサービスに投下するという戦略をとるようになってきています。証券会社でも同様の動きが見られます。
小口預金者の相続手続
私は以前、証券会社で個人営業をしていた経験がありますが、相続手続は営業担当者にとって「最悪の仕事」でした。大量の書類を用意してもらう必要がある上、手続きには時間がかかり、その割に利益にはほとんどつながらない。
私自身もかつて証券マンとして勤務していた経験があり、その際に多くの顧客宅を訪問しました。その経験を通じても感じたことですが、証券会社の営業マンが顧客の自宅を訪問することは、顧客の家庭や生活に多くの情報を得る機会を与える行為に等しいものです。
大口顧客の場合はそうならないよう、あらかじめ関係を構築しておいたり、積極的に営業したりと対応が異なりますが、小口顧客の相続手続については、なるべく手を出したくないと考えているのが金融機関の実情ではないかと思います。
不誠実に見える変化の背景
表向きに金融機関が「小口の相続はやりたくない」とは言いませんが、現場を知っている人間としては、今のオンライン化・AI導入・業務の効率化という大義の裏に、そうしたコスト回避の意図があると見ています。
そして、それによってサービスを受ける側、つまり顧客が一定の不利益を被る可能性があるにも関わらず、銀行はそれを特に説明することもなく「当然のように」進めている。この点は非常に不誠実であると感じます。たとえ預金額が少なくても、顧客にとっては大切な資産であるはずです。
世界で進む支店閉鎖と富裕層への集中
こうした流れは日本に限らず、世界中で起きています。イギリスでは2010年代から銀行の支店閉鎖が進み、6,000店舗以上が閉鎖されたと言われています。アメリカでも同様で、富裕層向けのサービスに資源を集中させるという流れが止まりません。
銀行ごとに異なる経営課題はありますが、世界中の銀行が合理化により支店削減を進めています。
不誠実に見える部分もありますが、この動き自体を止めるのはほぼ不可能な状況にあります。
自己責任の時代に備えて
こうした環境下で重要になってくるのが、「資産の所在と権利を明確にしておく」ということです。銀行が親切に手助けしてくれる時代は終わりつつあり、相続などの重要な手続きも、自分で管理しなければいけない「自己責任の時代」がきています。
それは預金に限らず、証券、保険なども同様です。たとえば、保険の契約内容をきちんと把握していない人も多く見られますが、今後はそうしたことまで含めた「金融リテラシー」がますます求められてくるでしょう。
まとめと金融業界の方向性
最後にまとめますと、銀行は「顧客が亡くなった後の預金を奪おう」としているわけではありません。しかし、彼らは「なるべく面倒な業務からは手を引きたい」と考えているのは事実です。
だからこそ、我々の側も「黙っていてもサービスを受けられる」という考えは捨て、自分で自分の資産を管理し、必要な手続きは能動的に進めていく必要があります。
先日ある大手証券会社に勤務している個人営業の方から、「これから日本の金融個人営業の世界はどうなっていくのか」という質問をいただきました。金融業界は富裕層に狙いを定めてビジネスを拡大し、人的リソースを集中させていく方向に動いています。このあたりについても、また機会があれば私の見方を解説したいと思っています。今後ともよろしくお願いいたします。
ご参考
現場の牽制が効いていないことは明確です。支店長代理が交代して以降、貸金庫を利用する顧客の苦情が多い、貸金庫システムの切電など、現場レベルで気付かないはずがないというのが感想です。
サイトマップ(目的別)はこちら
いいなと思ったら応援しよう!
この記事は noteマネー にピックアップされました

