見出し画像

福岡県宗像市に見る自治体の債券運用と含み損



 福岡県宗像市が長期国債の含み損を46億円も抱えているというニュースが話題になっています。この件は2月頃から報道されていましたが、その後も含み損は拡大しているようです。
 なぜこのような事態になったのか。 そして、同様の問題を抱えている自治体は他にもあるのか。この記事では自治体の債券運用と含み損の問題について解説します。

出所)宗像市

 動画公開後に宗像市の議員の方からご指摘をいただきました。それを踏まえての追記情報を最後の段落「動画公開後に指摘を受けて」にまとめています。是非ご覧いただけますと幸いです。今後ともよろしくお願いいたします(TeamモハP)。

はじめに

 まずはじめにお伝えしておきたいのは、私は特定の地方自治体と直接のつながりがあるわけではありません。金融市場でさまざまな運用担当者を見てきた経験をもとに解説します。

宗像市の含み損

 宗像市が46億円の含み損を抱えていることで、市は市民に対して説明を行い、謝罪をしています。自治体として責任を果たすためには当然の対応ですが、一方で市の担当者を過度に責めるべきではないとも考えています。なぜなら、問題の本質的な原因は、過去の日銀の極端な金融政策にあるからです。
 では、なぜ宗像市を含む自治体がこのような事態に陥ったのか、その経緯を説明します。

自治体の資金運用の仕組み

 宗像市が運用している資金は、市への寄付や過去の運用収益などを基金として管理しているものです。こうした基金を持つ自治体は少なくありません。自治体は、これらの資産を安全に運用し、できるだけ安定した収益を確保しようとしています。
 ただし、市民のお金を運用する以上、リスクの高い金融商品に投資するわけにはいきません。そのため、運用対象は国債などの低リスク資産が中心となります。
 また、自治体の運用担当者は、専門的な金融知識を持っているわけではなく、財務部門の職員が前例を踏襲しながら運用しているのが実情です。そのため、運用の選択肢は限られていました。

 しかし、2016年に日銀がマイナス金利政策を導入したことで、こうした運用の枠組みが大きく揺らぐことになりました。

自治体が含み損を抱えた経緯

 宗像市をはじめ、多くの自治体が含み損を抱えることになった原因は、過去の日銀の金融政策にあります。2016年、日銀はマイナス金利政策とイールドカーブ・コントロール(YCC)を導入しました。その結果、10年国債の利回りがマイナスになるという異常な状況が生まれました。

 自治体の運用担当者は、市民のお金を運用しなければなりません。しかし、従来通り10年国債を購入すると、利回りがマイナスになってしまう状況に直面しました。「市民の大切な資金をマイナス利回りで運用するのは適切なのか」という疑問が生まれ、運用方針の見直しを迫られました。

当時の自治体の選択肢

 当時の自治体には、以下の3つの選択肢がありました。

1.マイナス利回りの10年国債への投資を継続
2.国債ではなく社債に投資
3.20年、30年国債へ投資

 結果として、多くの自治体は3の「超長期国債の購入」を選択しました。

 なぜなら、社債を購入する場合は、企業の信用リスクを分析する必要があります。しかし、自治体にはそのような専門知識を持つ人材がいません。

社債のリスク分析の難しさ
 社債のリスクを分析するには、財務分析が必要です。具体的には、決算において損益計算書よりも貸借対照表を重視して見る必要があります。

注意喚起、社債の個別銘柄への投資のリスク

 さらに、市民の資金でリスク資産を購入することには政治的な批判も伴います。そのため、「超長期国債を購入する」ことが、消極的な選択肢として最も合理的と判断されたのです。

その後の金利上昇

 しかし、その後の金利上昇により、超長期国債の価格は大幅に下落しました。超長期国債は金利が上がると価格が大きく下落する特性があります。そのため、現在のような金利上昇局面では、自治体が保有する超長期国債の評価額が大幅に下がり、含み損が発生するわけです。

対応策

 宗像市を含め、含み損を抱えている自治体は少なくありません。しかし、今すぐに慌てて売る必要はないと考えられます。なぜなら、これらの基金はもともと満期保有を前提とした運用であり、途中で売却しなければ最終的には額面通りに償還されるからです。
 ただし、今後も金利が高止まりすれば、含み損の状態は長期間続く可能性があります。特に、30年債や40年債の価格が回復するには10年以上かかる可能性があるため、長期的な視点での対応が必要になります。

 宗像市の含み損問題は、決して特異なケースではなく、全国の自治体、企業、学校法人、地方金融機関など多くの機関が同じ問題を抱えています

 今後の対応としては、

  • 長期的な視点で保有を続ける

  • 金利シナリオをシミュレーションし、関係者に説明を行う

  • 一部の債券を売却して資産の分散を図る

などの方法が考えられます。

 ただし、市民の間で不安が広がり、政治的な圧力が強まれば、「含み損を確定させても早く売却すべきだ」という意見が出る可能性もあります。その場合、自治体がどのように説明責任を果たすかが重要になるでしょう。いずれにせよ、今回の問題は自治体の運用担当者だけの責任ではなく、過去の日銀の金融政策によって生じた構造的な問題です。焦らず、冷静に対応することが求められるでしょう。

動画公開後に指摘を受けて

 福岡県宗像市などが抱える債券の含み損について、上記のとおり「慌てる必要はない」との見解を示しました。しかし、その後すぐに宗像市の議員の方からX(旧Twitter)で「その議論はすでに終わっており、現在は別の論点に移っている」とのご指摘をいただきました。

 現在、宗像市で議論になっているのは、「そもそも市の運用基準では、これらの債券は売却しないことになっている」という点です。そのため、46億円の含み損に関して「損切りするかどうか」は論点になっていません。むしろ問題視されているのは、過去に満期前に売却されたケースがあったことのようです。
 報道によると、1億円を超える規模の債券売却が行われており、しかも購入からわずか2日後に売却されたケースもあったとのこと。市の運用ルールでは満期保有が前提だったはずですが、この原則が実際には守られていなかった可能性が指摘されています。また、市側の説明として「売却後により高利回りの債券を購入しており、損失にはなっていない」という主張もあるようですが、果たして適切な判断だったのか、という議論が起こっています。

運用ルールの明確化と徹底が課題

 この問題の本質は、運用担当者がどの程度の裁量を持ち、どのような基準で売買を判断していたのかが不透明であった点にあります。もし運用ルールが形骸化し、事実上、担当者の裁量で自由に売買できる状況になっていたのであれば、透明性の確保や適切な監督が必要です。市民の資産を運用する以上、「誰が」、「どのような判断基準で」運用しているのかを明確にし、不信感を生まないような仕組みを作ることが重要です。

宗像市の魅力

 宗像市について、YouTubeのコメント欄でも「良いところですよ」と多くの方が教えてくださいました。私自身はまだ訪れたことがありませんが、今回の件とは別に、地域の魅力にも注目していきたいです。

出所)宗像市

ご参考

債券投資の収益と会計の解説(農林中央金庫の件)

サイトマップ(目的別)はこちら

いいなと思ったら応援しよう!

この記事は noteマネー にピックアップされました

noteマネーのバナー