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ルコルニュ首相異例の辞任とフランス政治の迷走


 2025年10月6日、フランスのルコルニュ首相が辞任しました。就任からわずか26日、さらに閣僚を発表してから半日も経たないうちに辞任するという極めて異例の展開となり、フランス国内外に衝撃が広がりました。
 この出来事は、マクロン政権がもはや立ち行かなくなっていることを象徴するものであり、フランス政治の深刻な行き詰まりを示しています。今回の辞任を受けてフランス国債は再び売られる展開となり、マーケットでもマクロン政権への信頼低下が鮮明となりました。もはやマクロン大統領自身が辞任するしかないのではないかという見方も強まりつつあります。

 ルコルニュ氏就任直後の動画をnoteでまとめたものを同時にアップしています。これからもよろしくお願いいたします(TeamモハP)。

首相交代の連鎖

 今回の辞任で、2024年の総選挙以降わずか1年余りで3人の首相が辞任することになりました。マクロン政権2期目としては5人目、1期目から数えると辞任した首相は実に7人にのぼります。ルコルニュ氏はマクロン大統領の側近中の側近とされ、「最後の切り札」とも呼ばれていた人物です。その彼までもがわずか数週間で職を辞したことは、マクロン政権の求心力が完全に失われつつあることを明確に示しています。

少数与党の現実

 なぜこれほどまでに首相が次々と辞任に追い込まれているのか。

 その背景には、政権が「少数与党」になっているという深刻な構造的問題があります。2024年の総選挙で左派連合が最大勢力となり、マクロン氏を中心とする与党連合は第2勢力へと転落。国民連合も議席を伸ばして第3勢力となりました。
 国民連合が第1党になるかどうかが注目された選挙でしたが、結果として国民の多くが極右を避け、左派連合に票を流した形となりました。こうして誕生した分断された議会では、予算編成をはじめとする重要政策がまったく進まなくなっています。

出所)BBC

財政赤字の拡大と予算編成の迷走

 フランスは近年、慢性的な財政赤字に苦しんでいます。社会保障制度が手厚く、年金制度も充実している一方で、戦後のベビーブーマー世代の退職により財政負担は急増しました。マクロン政権は2017年の第1期目から年金制度改革に取り組み、支給開始年齢の引き上げを進めようとしましたが、そのたびに国民の激しい反発を受け、抜本的な改革を実現できずにきました。

財政規律の乱れ

 加えて、新型コロナウイルス対策、インフレ補助金、国防費の増加、さらにはウクライナ戦争などの影響が重なり、財政赤字は悪化の一途をたどっています。2024年には財政赤字がGDP比5.8%にまで拡大しました。EUでは財政赤字をGDP比3%以内に抑えることが義務づけられていますが、フランスはこの基準を大きく超過し、財政規律が完全に緩んでいます。かつて南欧諸国に厳しい財政規律を求めていたフランス自身が、そのルールを守れない状況に陥っているのです。

欧州は決して一枚岩ではありません。例えば、フランスのマクロン大統領は積極的に動いていますが、財政的に余裕のない国々も多く、それぞれの国内事情に追われているのが実情です。

市場の混乱と利回り上昇に見る世界の防衛費問題

 こうしたなかでマクロン政権は財政赤字の削減を急ごうとしましたが、野党の強い反発に直面。予算案が通らず、歴代首相が次々と辞任する事態となりました。2024年に就任したバルニエ首相は、結局予算をまとめられず同年12月に辞任。その後を継いだバイル首相は、野党に譲歩しながらようやく2025年度予算を成立させましたが、それも一時しのぎに過ぎませんでした。

ルコルニュ内閣の崩壊

 2026年度予算の編成をめぐって、再び政治的混乱が表面化しました。政府は財政赤字をGDP比4.6%まで削減する方針を掲げ、そのために厳しい歳出削減を打ち出しました。具体的には年金の物価スライド制を停止して実質的な年金削減を行うほか、高所得者への増税、さらに祝日を2日削減して税収を増やすといった案まで盛り込みました。これに野党が猛反発。9月には内閣不信任案が提出され、信任投票が否決されたことでバイル内閣は総辞職に追い込まれました。

祝日を減らし国民の労働日数を増やすといった国民に負担を強いる施策が含まれており、野党だけでなく国民からの反発も強く、受け入れられにくい状況となっています。

フランス国債格下げの背景と金融機関への影響

 その後を引き継いだのがルコルニュ氏です。彼は高所得者増税などを打ち出して左派の支持を得ようと試みましたが、閣僚名簿の発表が命取りとなりました。マクロン政権の緊縮財政を象徴するルメール元経済財務相らが起用され、左派が一斉に反発。結果としてルコルニュ氏の戦略は完全に崩壊しました。政権発足からわずか半日で辞任に追い込まれたのは、まさに行き場を失ったマクロン政権の象徴とも言える出来事でした。

マクロン辞任論の台頭とフランス政治の行方

 ルコルニュ氏の辞任を受けて、マクロン大統領は新たな首相を選任する必要があります。しかし、今の政治状況をまとめられる人物はほとんどいないと見られています。そのため、「マクロン大統領自身が身を引くべきだ」という声が政権内部からも上がり始めました。第1期目の首相だったフィリップ氏が「前倒しで大統領選挙を行うべきだ」と発言し注目を集めたほか、アタル前首相も同調しています。
 もっとも、マクロン大統領が実際に辞任する可能性は低いと見られ、現実的な選択肢としては「議会の解散・総選挙」が有力視されています。ただし、現状では与党連合が選挙で勝つ見込みは薄く、選挙を行えば左派が議席を減らし、国民連合がさらに勢力を拡大すると予想されています。どちらの選択を取っても混乱は避けられず、フランス政治の不透明感は一層深まるばかりです。

経済への影響と今後の展望

 首相辞任を受けてフランス国債は売られ、利回りは上昇しました。フランス10年国債とドイツ10年国債の利回り差は0.87%にまで拡大し、欧州債務危機以来の水準に達しています。財政赤字の拡大と政治の混迷が同時に進行しているなかで、投資家の信頼は揺らいでいます。たとえマクロン大統領が辞任したとしても、構造的な財政問題がすぐに解決する見込みはなく、国債売りの流れは続く可能性が高いでしょう。
 フランスは、政治も経済も袋小路に入り込んだ状態にあります。マクロン大統領のリーダーシップが試される局面ですが、今やその求心力は失われ、国内の分断も深まる一方です。今回のルコルニュ首相の異例の辞任は、その象徴的な出来事と言えるでしょう。


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