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NHKの国債発行チームに見る財務省IRの限界


 2025年4月13日にNHKで放送された「NHKスペシャル、新シリーズ未完のバトン、国債発行知られざる現場に密着」という番組をきっかけに、積極財政派と緊縮財政派の間で活発な議論が行われていたようです。この記事では、私なりの感想を説明したいと思います。
 まず最初にお断りしておくと、この番組、私は全部は見ていません。1分程度の予告編を見ただけです。居住設定の関係か、何らかの方法で見られるかもしれないとも思ったのですが、NHKのためにいろいろ試すのも面倒に感じてしまって、結局全部は見ていません。

 予告編や番組を実際にご覧になった方々のお話を聞いて、私としては「懐かしい」という感覚になりました。

さまざまな公共サービスを支える「国債」。2024年、日銀が金利の引き上げや国債買い入れの減額方針を示し、歴史的な岐路に立っている。国債の発行・立案を担う財務省国債企画課に密着。官僚たちは国内の機関投資家の動向を探るほか、中東に飛び、海外勢にも投資を呼びかけている。一方で財務省には「経済・財政の運営が間違っている」という不満も向けられている。国債をめぐる知られざる現場からこの国の未来を見つめていく。

NHKオンデマンド

ファンドマネージャー時代の思い出

 というのも、私が現役でファンドマネージャーをしていた頃、まさにこうした各国の財務省からプレゼンテーションを受ける側の立場だったからです。ヨーロッパやアジア、中東、中南米など、様々な国の財務省や債券の発行体と、番組で取り上げられていたようなミーティングをたくさん経験しました。

各国財務省とのミーティング

 動画の冒頭では、日本の財務省の職員がドバイを訪れている場面があったようですが、海外の財務省職員も毎年決まった時期に日本を訪れて、日本の機関投資家とミーティングを行っています。特に、日本の投資家が多く保有している新興国の財務省などは、欠かさず日本を訪問している印象です。

 ちなみに、こうしたミーティングは多くの場合、証券会社や欧米の投資銀行などが設定しています。個別のミーティングを1対1でアレンジすることもありますし、例えば中南米の財務省や発行体を一堂に集めて、日本向けのまとめイベントを開催することもあります。

財務省のミーティングの意図

 こうしたミーティングで何が話されるかというと、相手は債券投資家、つまりお金を貸してくれる側ですので、財務省の側は「安心してください、お金は返せますよ」、「財政状況は悪くなりませんよ」といったアピールをすることになります。

債券投資家の関心

 「これから財政拡大をします。お金をバンバン使います。国債の利回りも大幅に上がります」といったことを言えば、債券投資家からすれば「買った途端に価格が下がるじゃないか」となり、債券を買いたくなくなってしまいます。そのため、財務省はそういう話はしません。むしろ、「緊縮財政をしていきますよ」という風にアピールすることになります。

 しかし、こうしたミーティングは、特に日本を含む先進国の場合、正直なところあまり意味がないです。投資家は財務省の話だけを聞いて投資判断をするわけではありません。

国債投資で重視される要素

 新興国の場合は、国の信用リスクが大きなポイントになるため、財務省からの財政運営に関する説明は重要になります。
 しかし、先進国の自国通貨建て国債では、マクロ経済や金融政策の動向の方が重要です。財務省が「緊縮財政をやりますよ」と一生懸命アピールしても、投資家からすれば「そこまで重要視していない」と感じてしまうのです。

 例えば、今回の番組で日本の財務省がドバイを訪問して、いくら緊縮財政をアピールして「国債を買ってください」と言っても、ドバイの投資家からすれば「1.3%しか利回りがない日本の10年国債はリターンの観点で合わない」となるかもしれません。
 これは財務省がどうこうできる話ではなく、日本の物価、経済成長率、日銀の金融政策など、様々な要因によって利回りが決まっているからです。

海外投資家の視点

 日本の財政が「まずい」と考えている投資家は今やほとんどいないと思います。確かにGDP対比で見た政府債務の水準は高いですが、それを問題と見なしている投資家は、今の時代では少数派でしょう。20年、30年前ならそういう見方をしていた人もいたかもしれませんが、今の世界の機関投資家はもっと現実的です。

 むしろ日本は、対外純資産が世界最高水準です。そうした背景もあり、「日本の財政が不安だから投資を控える」というのは、もはや多数派の考え方ではありません。したがって、日本国債に投資する際に、「財政」が最も重要なリスクだと考える人はほとんどいません。
 
投資判断の基準は、期待収益率や為替動向、金利の見通し、そしてその投資期間中に期待通りのリターンが得られるかどうかといった点です。

財務省IRの限界と今後の課題

 要するに、投資家側から見れば、新興国のような信用力の低い国であれば、財務省と直接会って話すことにも意味がありますが、日本のような先進国では、財務省に会ってもあまり意味はない。もちろん「全く意味がない」というわけではないですが、正直そこまで重要ではない、というのが実情だと思います。
 今回の番組では、財務省の職員がドバイの投資家と会って、あまり感触が良くなかったような描写もあったようですが、そもそもそのミーティングがあまり意味を持っていないというのが実際のところでしょう。

財務省のIR方針と過去の政策の影響

 財務省は2000年代から「国債保有構造の多様化」を進めようとしてきました。もちろんこれには反対意見もあるのですが、財務省としてはそういう考えで動いてきたわけです。

保有者層の多様化
 現在、我が国は多額の国債残高を抱えており、幅広い投資家層が国債を保有することにより、国債の安定消化を図ることが重要な課題となっています。

財務省

 しかし2013年以降、日銀の異次元緩和政策が始まり、その結果、逆に海外勢の保有比率が下がってしまいました。そして今、日銀が利上げを進める中で、金利水準がある程度上がってきたことで、海外投資家の保有を再び増やし、「保有構造の多様化」を進めていこうというのが、今の財務省の考え方だと思われます。
 
投資家目線で見ると、財務省がIRに力を入れるかどうかはあまり関係がありません。新興国ならその努力も意味がありますが、日本のような先進国に投資する投資家は、そうした点を見ていないというのが実情でしょう。

おわりに

 財務省の職員の皆様が頑張ってIR活動をしていることを悪く言うのは心苦しいのですが、投資家の立場から見ると、正直「あまり意味がない」というのが率直な感想です。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。


ご参考

 新興国などを見ていく上では、デフォルトが心配される国もあったりします。しかし、国債の発行残高がどれぐらいあるかという債務の規模ではなく、むしろ対外純資産の方がより重要な指標だと考えている投資家が多いです。

メディアが報じない日本の対外純資産

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