クウェートが外資に狙われる構造的背景
この記事では中東の国、クウェートを取り上げます。最近このクウェートに、世界最大の資産運用会社であるブラックロックが新たに拠点を設けることを決定しました。それに続いて、ゴールドマン・サックス、カーライル、ステート・ストリートといった大手資産運用会社も同様にクウェートに拠点を構える方向で検討していると、ブルームバーグなどが報じています。

クウェートという国で、今何が起きているのか。この国で起こっている変化について詳しく説明します。
湾岸戦争以降のクウェートと原油依存経済
クウェートと聞くと、1990年にイラクがクウェートに侵攻した、いわゆる湾岸戦争のイメージを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。この戦争の背景には、クウェートがOPEC(石油輸出国機構)の生産枠を超えて原油を増産したことがありました。当時からクウェートは、産油国の中でもそれなりに影響力を持つ国でした。
現在でもOPECの生産量ランキングでは、1位サウジアラビア、2位イラク、3位イラン、4位UAE、そして5位がクウェートです。つまり、今でも世界の原油市場において大きな影響力を持っています。
しかし、原油で潤ってきた国々、特にサウジアラビアなどは近年かなり財政的に厳しい状況にあります。社会保障費などが膨らみ、原油収益だけでは国家財政を支えきれなくなってきているのです。
サウジ財政と国外投資の矛盾
サウジ政府は財政赤字が続くなか、国内プロジェクトの資金をPIFに依存させ、「政府財政は健全」という体裁を保とうとしています。しかし、米国には過去に6,000億ドル規模の投資を約束しており、外貨準備だけでは足りないためPIF資金も投入せざるを得ません。
クウェートの財政状況と原油価格の関係
サウジアラビアの場合、原油価格が100ドルを超えていないと国家財政が赤字になると言われています。IMFの試算によると、2025年のサウジアラビアの財政均衡原油価格は80.2ドルとされています。
クウェートは国土が日本の四国ほどの広さで、人口はおよそ400万人程度。3,500万人のサウジアラビアに比べれば、財政負担はかなり軽いといえます。それでも現在の原油価格は60ドル前後で推移しており、決して余裕のある状況ではありません。
クウェート国(State of Kuwait):面積
17,818平方キロメートル(四国とほぼ同じ)
天然ガスで潤う国々
同じ中東の産油国でも、天然ガスの生産が多い国は潤っています。代表的なのがカタールです。近年は先進国を中心に、火力発電などでも環境負荷の少ないLNG(液化天然ガス)を使う国が増えており、原油よりもLNGの需要が高まっています。このようにエネルギー需要の変化が中東諸国の明暗を分けています。
私自身が最後にクウェートを訪れたのはコロナ前のことですが、その当時すでにドバイは中東の金融ハブとして発展しており、サウジアラビアは「ビジョン2030」を掲げて開発を進めていました。カタールはLNGで得た莫大な資金をもとに、2022年のサッカーワールドカップ開催に向けて開発ラッシュを迎えていました。一方、当時のクウェートは少しずつ開発が始まってはいたものの、ドバイやドーハと比べるとまだまだのどかな雰囲気が残っていました。
「ビジョン2035」で変革を進めるクウェート
そんなクウェートも、サウジアラビアに遅れる形で2017年に「ビジョン2035」を発表し、原油依存の社会構造を変える取り組みを進めています。背景には、「先進国が脱炭素を進め、原油需要が減る中で、このままでは将来が危うい」という危機感があります。こうした問題意識は、クウェートに限らず他の中東産油国でも共通しています。

ビジョン2035の中で最も大きな柱となっているのが「国営企業の民営化」です。もともとクウェートはあらゆるサービスが国営で、労働者の9割以上が公務員という非常に特殊な社会構造を持っていました。そのため、民営化を進めるといっても国内に民間企業がほとんどなく、実際に国営企業を民間へ売却するのは難しい。
そこで登場するのが外資です。外資の力を借りて、クウェート経済を再構築していこうという流れが生まれています。
欧米金融機関のビジネスチャンス
ここでブラックロックやゴールドマン・サックスなどの欧米系金融機関がビジネスチャンスを見出しています。クウェートを新たな投資・運用拠点として位置づける動きは、まさにこの流れと一致しています。また、こうした中東諸国の経済変革プロジェクトには、世界の大手コンサルティング会社も深く関与しており、巨額の利益を上げています。
近年では「出世したければ中東で稼げ」と言われるほど、金融機関やコンサルティング会社にとって中東は最も利益率の高い市場となっています。サウジアラビアが資金難で計画の見直しを進め、ドバイやアブダビの開発も成熟しつつある今、「次に稼げる国」として注目を集めているのがクウェートなのです。
中東開発ラッシュの裏側にある構図
日本でも大阪万博などでサウジの「ビジョン2030」に関心が集まりましたが、こうしたプロジェクトの多くは、欧米のコンサルティング会社が企画・設計しているものです。当然、そこでは莫大な資金が動くため、金融機関も大きく潤います。見方を変えれば、これらの中東諸国はコンサルティング会社や金融機関に踊らされているとも言えるでしょう。これが現実です。
コンサルティング会社の幹部が「サウジアラビアの件について言及すると社員や幹部が投獄される恐れがある」として発言を控えました。このことからも、欧米のコンサルティング会社とサウジアラビアの関係がいかに深いかが分かります。
クウェートと外資
こうした中で、ブラックロックやゴールドマン・サックスが今、クウェートに狙いを定めています。
中東の中でもまだ未開発の余地が大きく、外資にとっては新たな市場を開拓できる魅力的な国。クウェートが次の「金融ハブ」として注目されている背景には、まさにこの構造的な流れがあるのです。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
ご参考
最近、ブラックロックのAladdinというシステムのことを、業界で聞く機会が増えてきています。このAladdinを導入したという機関投資家の話やこれを活用して適切に資産運用ができたという記事もあります。
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