地銀の国内債券含み損拡大とその影響
国内の金利が上昇する中で、地方銀行(地銀)が保有する国内債券の含み損が拡大しています。2024年12月末時点で、地銀全体の含み損は1兆9,000億円に達しました。その後も金利は上昇しており、含み損はさらに拡大していると見られます。こうした状況を受け、地銀の含み損の実態や影響について解説します。
金利上昇と債券価格の関係
債券の金利に関して、「発行時に決まってずっと変わらないのではないか」という質問を受けることがあります。確かに、債券の利率(クーポン) は発行時に決まり、その後変わることはありません。しかし、市場で取引される債券の利回りは変動します。
債券の利回りには、支払われる利息だけでなく、債券価格の変動による損益も含まれます。そのため、市場金利が上昇すると、新しく発行される債券の利率も上がり、相対的に既存の債券の価値は下がります。これが、現在地銀が抱えている含み損の主な原因です。

地銀の含み損の拡大状況
2024年12月末時点で、上場している地方銀行69行が保有する国内債券の含み損は1兆9,000億円 まで拡大しました。これは 2024年9月末の時点から約5,000億円増加しており、金利の上昇が含み損の拡大につながっていることが分かります。
金利の上昇
2024年9月末の10年国債の利回りは0.86%でしたが、12月末には約1.1% に上昇しました。単純計算で、金利が0.25%上昇すると、同じ債券ポートフォリオを持っていた場合、約5,000億円程度の含み損がさらに拡大すると考えられます。
含み損の影響
含み損が発生している状況を受けて、「地銀は大丈夫なのか」という疑問を持つ人もいるかもしれません。ただし、直ちに経営危機につながるわけではないというのが一般的な見方です。なぜなら、含み損は 売却しなければ実現損にならないからです。
金融機関の会計では、有価証券は以下の3つの目的で保有されます。
満期保有目的(満期まで保有するため、市場価格の変動は関係ない)
売買目的(短期的な売買を目的とし、時価評価の変動が損益に反映される)
その他(上記のいずれにも当てはまらず、評価損益は貸借対照表の純資産に計上)
地銀が保有する国内債券の多くは「その他有価証券」に分類されます。この場合、含み損は貸借対照表の純資産に計上されるため、損益計算書には影響しません。つまり、売却しなければ損失として確定しないという仕組みになっています。
現在、地銀の収益は貸出金利の上昇などにより堅調であり、含み損が拡大していても、それを売却しない限り経営に直接的な影響はないと考えられます。
含み損の問題
とはいえ、「債券を売らなければならない状況」になれば、含み損は実現損に変わり、経営に打撃を与えることになります。このような事態が起きたのが、2023年にアメリカで破綻したシリコンバレー銀行です。
シリコンバレー銀行はスタートアップ企業から預金を集め、それを長期債券や不動産担保証券(MBS)で運用していました。しかし、スタートアップ企業の資金繰りが悪化したため、預金の引き出しが急増。手元の資金が不足したシリコンバレー銀行は、含み損を抱えた債券を売却せざるを得なくなりました。これにより、大きな損失を計上し、経営が一気に悪化したのです。
日本の地銀のリスク
では、日本の地銀でも預金流出により債券を売却しなければならないリスクがあるのかというと、そこまで大きな懸念はないという見方が一般的です。
その理由としては、日本の政策金利はまだまだ低いという点が挙げられます。現在の政策金利は0.5%で、今後には1%程度に引き上げられる可能性 があると言われています。しかし、それでも劇的な金利上昇とは言えず、預金金利も急激には上がらないと見られます。
地銀の預金者
地銀の預金者の多くは、金利を理由に預金を移動しない層であることも重要なポイントです。すでに金利に敏感な個人はネット銀行などに移っており、地銀の顧客は中小企業経営者や高齢者が多いため、わずかな金利差で資金を移動させる可能性は低いと考えられます。
相続による預金流出
一方で、相続による預金流出は近年増加傾向にあります。しかし、これは比較的緩やかな動きであり、人口動態などをもとにある程度予測が可能です。そのため、急激な預金流出が起こり、地銀が慌てて含み損を抱えた債券を売却しなければならない状況に陥る可能性は低いと見られます。
今後の動向
地銀の国内債券含み損は、2024年12月末時点で1兆9,000億円に達し、その後も金利上昇に伴い拡大していると考えられます。しかし、含み損は 売却しなければ実現損にはならない ため、直ちに地銀の経営を揺るがすものではありません。
ただし、今後さらに金利が上昇し、預金流出が加速すると、地銀が保有する債券を売却せざるを得ない状況に陥る可能性もあります。日銀は利上げの姿勢を示しており、長期金利がさらに上昇すれば、地銀の経営環境に与えるストレスは徐々に大きくなっていくでしょう。今後の金利動向には引き続き注意が必要です。
補足
債権の含み損の影響
債券の含み損は、満期まで売却しなければ損失として確定しないのは間違いありません。
しかし、その他に分類される債券(売買目的にも満期保有目的にも分類されない債券)の含み損は純資産の部に直接反映されるため、自己資本比率の低下を招きます。特に金融機関のように自己資本比率を厳しく見られる業態では、含み損の発生は資本政策に大きな影響を与えることになるため、決して軽視はできません。
ご参考(金融機関と会計の基礎関係記事)
■ 銀行の貸借対照表とALMの解説(シリコンバレー銀行の件)
■ 債券投資の収益と会計の解説(農林中央金庫の件)
■ 今さら聞けない有価証券の会計処理
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