ドル安進行化での中国の動きと書籍化のご報告
このところ「ドル離れ」や「ドルから別の通貨・資産へお金を移す動き」が注目され、ドル安が進む展開となっていますが、そうした中で中国がしたたかに人民元の国際化に向けて動き出している、そのような話が聞かれるようになってきています。この記事ではこの「人民元の国際化」について解説します。
日本でも、リベラルな思想を持つ経営陣が多い機関投資家の間で、「トランプ政権は不確実性が高く、投資しづらい」といった声がよく聞かれるようになっています。
ドル安進行の中で中国が見せる動き
2025年6月18日、上海で開かれた金融経済フォーラムにおいて、中国人民銀行の総裁が冒頭の演説で「米ドル一強の時代は終わった。これからは複数の通貨が競い合う体制になっていく」と見通しを示しました。このフォーラムは中国と親密な関係にある国や金融機関の関係者が集まる会合で、2008年から毎年開催されているものです。中国でビジネスを行っている日本の金融機関も多く参加しているということです。
今この「ドル離れ」が意識されているタイミングで、中国は「米ドルに対抗していくぞ」と、そうしたことを打ち出してきた格好になります。米ドル覇権の時代は終わって、複数の通貨が競い合う時代になっていく、それはつまり「人民元が米ドルと競い合う時代になっていく」という意味だろうと思います。
中国が発表した人民元国際化の8つの施策
中国は人民元を国際的な通貨にしていくための8つの施策を発表しています。その中身を見ますと、以下のようになります。
1.銀行間市場取引報告データバンクの設立
銀行の債券、通貨、デリバティブ取引などの高頻度のデータを収集し、分析する体制を整えるということです。
2.デジタル人民元国際運営センターの設置
デジタル人民元の国際化を推進するために新たに上海に拠点を設けるとしています。
3.個人信用情報機関の設置
より健全な社会信用情報体制を整備するとしていますが、これは要は「監視体制を強化する」ということだろうと思われます。
4.上海臨港新特区におけるオフショア貿易金融サービスの包括的改革試験の実施
この試験によって、上海でオフショアの金融サービスを提供するようになるということです。
5.自由貿易オフショア債券の拡大
これは、海外進出企業や一帯一路構想に関わる重要企業が中国で社債を発行しやすくするというものです。
6.自由貿易口座機能の適正化とアップグレード
これは移動が制限されている中国において、海外に投資を行う枠組みですが、国内投資家が海外に投資できる枠を拡大するとしています。
7.上海における構造的金融政策ツールの革新に向けた先行試験の実施
これにはCO2削減支援ツールの拡大などが含まれているそうです。
8.人民元為替先物取引の研究推進
これは中国証券監督委員会と協力してデリバティブ取引を拡充し、リスクヘッジなどをやりやすくしていくということになります。
米ドルへの対抗姿勢とその影響
こうした施策には実際どの程度の効果があるのかという点ですが、これは「そこまで大きなインパクトはない」というのが、世の中の大方の見方かと思います。とはいえ、全く効果がないというわけでもありません。
今の環境は、米国自身の要因、例えば貿易赤字の是正や国内製造業の保護といった政策が結果としてドルの存在感を相対的に低下させており、人民元にとっては追い風になっていることは間違いありません。
通貨の価値というのは、あくまで相対的なものです。どこかの通貨が弱くなれば、他の通貨のプレゼンスが高まる。つまり、ドル離れが進んでいるという今の環境は、それだけで人民元にとってポジティブに作用します。
だからこそ、中国当局はこのチャンスを逃すまいと、人民元の国際化に一気に取り組みを加速させているという構図です。
国内投資家の海外投資上限の拡大が最大の変化
8つの施策の中で、特に注目されているのが「国内投資家による海外投資の上限拡大」です。
中国は資本移動を制限している国で、人民元の相場を管理するために、資本の出入りをコントロールしてきました。特に「国内から外へ」という資金の流出に対しては非常に慎重でした。ですが、これが人民元の国際化を阻む大きな要因となっていたわけです。今回この規制が緩和される方向に動いたことは、小さくとも確実な一歩であり、人民元の国際化に向けて大きな意味を持ちます。
中国への投資
一方で、海外から中国への投資はすでに増加しています。たとえば「ボンドコネクト」などの制度により、海外の機関投資家が中国本土の債券を保有するケースが増えており、2025年1月末時点ではその規模は約4兆1,400億元、日本円で80兆円に達しています。
「ボンド・コネクト」は中国本土債券の投資を解放する仕組みですが、これも、香港の金融当局の監視のもと、海外から中国本土にお金が流れていく仕組みです。
これを見ると、緩やかではあるが、確実に人民元の国際化は進んでいると言えるでしょう。
私の考え
誤解のないように申し上げますが、私は別に「人民元すごい」と言いたいわけではありません。人民元が米ドルに取って代わるとは全く思っていません。しかし、現時点の環境が人民元にとってプラスに働いているということ、それはしっかり理解しておく必要があるでしょう。
書籍のご案内と感謝
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海外のメディアで流れている情報でも意外と日本人が知らないことが多い。そうした中、金融のプロの世界で流れている情報をなるべく専門用語を使わずに、分かりやすく解説するということを目指してきました。
情報との付き合い方、日本経済の置かれている状況、トランプ政権とアメリカ経済のこと、力を失っていくイギリス経済、中東経済のこと。今の時点での私の考えをまとめて本にしました。これまでの3年間を私と一緒に振り返って世界経済について考えたいという方に是非おすすめの1冊となっています。2025年7月16日に発売される予定で、Amazonや楽天で予約ができる状態になりました。
これまで3年間、本当にありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
ご参考
中国政府は財政出動による景気下支えを進めています。しかし、これがどこまで効果を発揮するのかは不透明です。特に、欧米の対中政策が厳しくなり、中国経済が外需の回復を見込めない状況であることが、大きな懸念材料となっています。
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