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メディアが報じた日本の対外純資産


 2025年5月27日、財務省が発表したデータにより、日本の対外純資産が533兆円に達し、6年連続で過去最高を更新したことが明らかになりました。しかし同時に、ドイツが日本を上回り、34年ぶりに日本が世界一の座を明け渡したことも判明し、メディアでも大きく報道されています。世間では「日本は衰退しているのではないか」、「日本の財政は危機的状況ではないか」といった声が広がっています。
 この記事では「対外純資産でドイツに抜かれた」ことについて、解説します。

対外純資産が471兆円になったというのは報道されていましたが、ただ「471兆円になりました」というだけで、その詳細な解説はほとんどされていません。マスメディアは相変わらずあまり深掘りしようとしていないと思います。

メディアが報じない日本の対外純資産

ドイツの逆転要因

 結論から述べると、ドイツによる逆転は、ある程度以前から予想されていたことです。ドイツの状況は特殊であり、日本と単純に比較するのは妥当ではない面があります。
 日本の対外純資産は今回も過去最高を更新しており、懸念すべき状況にはありません。「ドイツに抜かれた」ことが日本財政危機の兆候であるとか、日本が深刻な状況にあるというような解釈は、全く的外れだと考えています。

ドイツの特殊性と共通通貨ユーロの存在

 ドイツの対外純資産が増えた背景には、通貨「ユーロ」の存在があります。ドイツはユーロを採用しており、長らく「相対的に弱いユーロ」の恩恵を受けて、極めて大きな貿易黒字を出し続けてきました。
 
アメリカが巨額の貿易赤字に悩まされ、トランプ政権時代には貿易不均衡の是正を図る動きがあったのは記憶に新しいところですが、実はユーロ圏内にもこのような貿易不均衡は存在しています。
 
ユーロという共通通貨を用いている以上、財政状況が異なる国々の間で為替調整が効かず、ドイツのような好調な経済にとってはユーロは「弱すぎる」通貨であり、イタリアのような財政的に脆弱な国から見ると「強すぎる」通貨となってしまいます。そのため、ドイツは輸出競争力を維持でき、結果として常に大きな貿易黒字となる構造があるのです。

ドイツの対外純資産増加の構図

 ドイツはこの貿易黒字により、国内に大量の資金が流入し、それを海外に投資しています。特に同じユーロ圏内で経常収支赤字を抱える国々への投資が行われ、その結果としてドイツの対外純資産が増加する構図が形成されています。これはユーロ導入以来、一貫して続いている傾向です。
 したがって、ドイツの対外純資産が日本を抜いたことは、むしろ時間の問題であったといえるでしょう。

ドイツの数字が示すユーロ圏の歪み

 ドイツの対外純資産の増加は、ユーロ圏内における不均衡の現れでもあり、必ずしも良いこととは言い切れません。むしろ、ユーロやEUという枠組みの中に潜む危うさを象徴しているとも考えられます。
 日本がドイツに抜かれたこと自体を深刻に捉える必要はないというのが私の見解です。

出所)Bloomberg【2025/5/27】

数値の変動要因と日本の現状

 対外資産・負債の変動要因は様々です。例えば、海外投資家が日本に多く投資を行えば、対外負債は増加します。これは新たな投資がなされる場合だけでなく、既存の株式などの価格が上昇することによっても、対外負債の数値は増えることになります。
 一方で、日本人による海外投資が増えたり、海外の株式市場が好調だった場合にも、対外純資産は大きく増加します。
 このように、日本の対外純資産が世界一であったことや、日本の個人金融資産が2,200兆円あること、外国人による日本国債保有割合がわずか14%であることなどから見て、日本が財政悪化やハイパーインフレに陥る可能性は極めて低い、という考えはこれまでと変わりません。

財政政策のあり方と社会の持続性

 私は「いくらでも国債を発行していい」と主張する立場ではありませんが、一方で「緊縮財政こそが唯一の正解」という考え方にも賛同していません。そもそも、日本の対外純資産が大きい背景には、国内経済が伸び悩み、「失われた30年」と言われるような状況の中で、企業や個人が国内よりも海外に投資を行ってきたことが挙げられます。これを考えれば、日本国内での投資を促すような環境整備、すなわち可能な範囲での財政政策は必要だと考えます。
 
実際、ドイツのショルツ政権も財政政策を転換しつつあります。従来は緊縮財政を重視していたドイツも、今や違う方向性を模索しています。

次世代のために

 緊縮財政の支持者は、将来世代に「借金」を残すなとよく言います。しかし、財布がきれいでも、社会がボロボロであれば意味がありません。文化や社会そのものも、次の世代に残すべき重要な財産です。
 一度失われたものは、取り戻すのが非常に困難です。多くの国民が文化的で健康な生活を送り、毎日しっかり米を食べられ、子どもが一人で安全に通学できるような社会、こうした基盤を守ることこそが重要です。

数字よりも実質を

 今回の「日本の対外純資産がドイツに抜かれた」という報道は、数字としては確かに注目されるべきものです。しかし、その背景には構造的な国際経済の仕組みがあり、必ずしも日本の弱体化や財政の危機を意味するものではありません。むしろ、今後の日本には、国内に投資を呼び込むような政策、そして数字では測れない「持続可能な社会」を目指す視点が必要だと言えるでしょう。引き続きよろしくお願いいたします。


ご参考

最近、石破首相が「日本の財政状況はギリシャより悪い」と発言したと報じられましたが、私は、今回の超長期国債利回り上昇がそのような財政危機を意味しているとは考えていません。

超長期債の利回り急騰は財政危機の兆候か

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