38. Yシャツ犬
吾輩は犬でない。主人はとても立派な人間だ。だが、憧れと服従は違う。吾輩の辞書に「ペット」とか「飼われる」といった言葉はない。あくまで対等でいたいものだ。
その意思表明としてのYシャツである。「変なYシャツ犬がいる」近所で話題になっているのも知っている。しかし人間の、何かを愛することにすがりたいという想いを身に纏わされる方が変なのだ。
吾輩はボタンを上まで留め、主人の真横を背筋を伸ばして歩く。真っ直ぐ前を見、芸事などせずに。主人に恥ずかしい思いはさせたくない、どころかきっと吾輩を誇りに思ってくれてることだろう。今日も立派に務めを果たした、ゆっくり寝るとしよう。
夜中、主人の声で目が覚めた。何事だろう?少し開いた主人の寝室の引き戸から、知らない女性の声が漏れ聞こえてくる。「どうして欲しいんだい?」「私を女王様の犬にして下さい!」「もっと大きな声で!」「私を女王様の...ぅうっ!!」
吾輩は両耳をパタンと折った。
