トンネルの向こう側に❺
そのトンネルの門番の男は言った
あなたは、本当にこのトンネルの向こう側に
行きたいのか?
二度と戻って来られないこともある
後悔しないと誓うか?
ここは、人生に失望した者が
連れて来られるトンネル
そのトンネルの前に女はいた
長年連れ添ってきた夫に浮気を
されていたのです
夫は私のことを
全く理解してくれません
もう生きる望みもないのです
死んでしまった方がましです
浮気相手は
若い女性ではなく
私より年上でした
これほど辛いことが
あるでしょうか?
夫のことを許すことなど
とうていできません
門番は言った
あなたの人生だ
好きにするが良い
女はトンネルに足を踏み入れた
すると
夫が淋しそうに一人で動画を見る姿が
浮かんできた
長女が歩き始めた頃
一歩一歩、危なかしげに
歩む懐かしい姿が映っていた
その傍らには
若き日の夫と自分が
我が子を見守っていた
夫は幼かった我が子の動画を見ながら
一人で晩酌しつつ
仕事で帰りの遅い妻を待つ日々が
何年も続いていたのだ
女に
夫の心の叫びが聞こえてきた
仕事と子育てに精一杯で
夫のことを何ひとつ構わずに
過ごしてきてしまった
女は、後悔のあまり
その場に立ちすくんで涙した
理解していないのは夫ではなく
私だったのだ
門番さん
もう一度チャンスをください
あの頃のように
夫とやり直したいのです
門番は表情を変えずに言った
だから、後悔しないか聞いたのだ
次の瞬間、女は
一人寂しく晩酌をする夫の前にいて
子供のように泣いていた
