香りの散歩道|夜のくちなし
夜道を歩いていて、
ふと甘い香りに気がついた。
香りに誘われるように横道へ入ると、
背丈を超えるほどの
立派なくちなしの樹が、
静かにたたずんでいた。
——
今日の香り:夜の寄り道
記憶の中のくちなしとは少し違う。
けれど確かに甘く、
思わず花に顔を寄せた。
どこかココナッツを思わせるような、
濃厚な甘さも混じっている。
湿り気を帯びた夜の空気と重なると、
その香りはどこか妖艶にも感じられた。
見上げると、
枝先にはまだ硬い蕾が並んでいる。
きゅっと閉じた姿は、
まるで口を結んでいるようだ。
少しずつ膨らみ、ねじれた先が
ゆるやかにほどけていく頃には、
どんな花を見せてくれるのだろう。
そんなことを考えながら、
しばらく香りを楽しんでいた。
学生時代を過ごした街にも、
くちなしの生垣があったことを
思い出す。
美術館や図書館、
音楽ホールが並ぶ静かな場所だった。
文化の香りが漂うようなその街で、
この季節になると、
くちなしの甘い香りが
ほっと心を和らげてくれた。
ふと周りを見る。
この街では、香りに気づいて
足を止める人は見かけない。
仕事帰りの時間だったから、
みんな家路を急いでいたのだろうか。
道を一本曲がるだけで、
こんな豊かな時間が
待っていることもある。
それでも、
夜の空気の中で、
くちなしは静かに香っていた。
