【みねのさんの足利遠征記】石段をヒイコラ上って十割の更科そばを食べたはなし。
本発明は、上記実情に鑑み提案され、表面にひびが入らないように生地をのすことが簡単になる生地のし具及び、その製造方法を提供することを目的とする。
上記は「とある究極の麺」のための道具に関する特許からの引用です。
その麺とは「更科粉十割の更科そば」。
蕎麦の実の中心の白い部分のみを挽いた更科粉はタンパク質を含みません。これが意味するのは、粘り気が無いため生地が繋がらず、麺を打つのが非常に難しいということ。
つなぎの小麦粉を加えない蕎麦粉オンリーで打ったそばを「生一本」とも呼びますが、更科粉で生一本を打つために道具から発明してしまったのが足利市は織姫神社の石段わきにあるそば処「蕎遊庵」です。
このお店、実はNHKで放送している『美の壺』の蕎麦回に登場しており、映像で見た瞬間「織姫神社のそば屋だ!」と叫んだ記憶が。
とはいえこのお店、営業時間が11:00〜13:00と極めて短いのです。織姫神社はスタンプラリーのチェックポイントに必ず選ばれていますが、過去の遠征でお店に入れたことはありませんでした。
なので今回の足利遠征ではゼッタイに蕎遊庵で『さらしな生一本』を食べたい!
そんなわけで、レンタル自転車転がしてやってきました織姫神社。一の鳥居から境内まで続く石段は229段!

蕎遊庵は手水舎の少し手前にあります。正確に数えたわけではないものの、恐らく200段は上らないと辿り着かないはず。
織姫神社の石段には毎度苦しめられておりますが、体力は年々低下してますんで今回がいちばんキツい。
手すりに取りすがってヒイコラ言いながら石段を上がる私を見て、神社帰りのおばあさんが「大丈夫?」と声を掛けるありさま。
……普段からもっと足腰鍛えるべきですかね。

そして辿り着いた蕎遊庵は既に入店待ちが発生していましたが、この日は天気もよく待つのはさほど苦にはなりませんでした。
待ち時間も10分ちょっとぐらい。

通されたのは座敷席。高台からの景色が臨める窓際席でなかったのは多少残念なれど、凝った障子やそこかしこに飾られた蕎麦打ち道具を眺めて楽しめます。

例の特許取得済み「エンボス麺棒」も見えるところにありました。全体に漆を塗った麺棒に乾漆粉(薄く塗った漆を乾かして砕いた粉末)をまぶして上から更に漆を塗り重ねることで不規則な凹凸を付けたもので、同じ処理を施したのし板とセットで用いることで更科粉十割の生地をひび割れさせることなく延ばせるのです。
季節限定メニューにも心惹かれましたが、ここは初志貫徹で「さらしな生一本」を注文。数量限定の「本日の玉子焼き」も付けました。そして出てきたのは――

うわぁ……! 白く透き通ってる……!

極細の更科そばは香りこそないですが、その色のごとく雑味一切なしの「透明な」味。そばつゆと薬味の風味をそのまま運んできます。
エンボス麺棒とのし板に挟まれた効果か、舌触りは意外にもざらっとした感じ。しかし啜ると喉の奥にスッと吸い込まれるのは麺の細さゆえでしょう。
これが……特許の果ての味……!
この「さらしな生一本」、ざるそばじゃないバージョンもたべてみたいし、変わり蕎麦にしたら混ぜ込んだ素材の味がどう際立つか気になるなぁ……!

玉子焼きもあまり甘さや出汁の味を付けず、混ぜ込んだ食材の風味や食感をしっかり味わえるものでした。島豆腐と玉子焼きの相性が良いだなんて、このお店に来なければ一生知らなかったでしょう。

織姫神社は縁結びの神社なので心憎い演出
ざるそばの後のお楽しみ・そばつゆも堪能しました。五円玉が出てきたのには思わずニッコリ。
過去に2度足利を訪れていながら蕎遊庵で食事をしなかったことを心底悔やみつつ身支度をしたのですが。
「え? あれ??? 自転車の鍵が無い!?」
――なんということでしょう。自転車を一の鳥居近くに停めた際、鍵を抜くのを忘れてしまったようです。
あとすこし石段を登れば織姫神社の境内。しかし万が一にもレンタル自転車を盗まれることがあってはいけません。
蕎遊庵を出た私はヒイコラ上ってきた石段を泣く泣く下るしかありませんでした。

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