【西遊旅譚/司馬江漢】(11)長崎 阿蘭陀船(ヲランダふね)・スワルトヨンゴ・マタロス
『西遊旅譚』は、江戸時代後期、蘭学者で絵師の司馬江漢が記した長崎旅行記。行く先々の史跡名所、風土、なかでも長崎で見聞する支那船、オランダ船、出島、まぐろ漁、くじら漁などは挿絵も多くとても楽しい読み物です。天明八年(1788年)四月二十三日に芝門を出発。全五巻。
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出典:国立国会図書館デジタルコレクション『西遊旅譚 5巻 [3]』

支那、和蘭、其外、諸州の舩を日本に着。其、いにしいへは、伊勢國の大湊それより泉州堺に着、又、筑前博多にうつす。肥州平戸に渡海して、寛永辛巳の年、今の長崎となる。
扨、出島のうちカビタン(カビタンは日本にて呼つたへたる名也、彼國にてはヲツプルホウフドと云 ●●頭といへることばなり)居所二ヶ所に在。一ヶ所は外より階子にて登。樓上、四五間方なる所、欄間下、硝子額数十品を掲る。其画、人物山水花鳥の類、妙にして動くが如と也。又、椅子をかず/\ならべ、いろ/\の飾おほしと聞り。
※ 「寛永辛巳」は、寛永十八年辛巳(1641年)。
※ 「扨」は、さて。
※ 「ヲツプルホウフド」の「ヲツプル」は、英語の「Upper」でしょうか。参考:『和訳英辞書(Upper)』(国立国会図書館デジタルコレクション)
阿蘭陀人
日本長崎より本國まで、日本里数にて一萬三千里と云。さしわたしにはかるときは、二千四五百里に過ず。此、日本よりは西に當て、北によりたる國也。故に、寒月おほく米を生せず。パン(麦にてつくる)、或は、牛肉を以て食とす。故に、印度亜諸国に舩をめぐらし、交易を以て第一の國務とす。

崑崙奴
彼國の詞にては「スワルトヨンゴ」と呼。ジャガタラの人なり(ジヤガタラは赤道直下の国故に甚の熱国なり)。阿蘭陀人の下奴となり来る。其色、真黒にあらずといへども、まことに黒を斑にぬりたる如し。又、黒からざるもあり。夏月は躶にして、袈裟の如きものを纏。赤きベンガラ縞なり。冬月は和蘭より衣服をあたふる。これは紅毛の衣服のごとし。羅紗、花布にて作る。頭に巾あり。世に「クロンボウさらさ」と云もの、是なり。
※ 「スワルトヨンゴ」の「スワルト」は、オランダ語の「zwart(黒い)」、「ヨンゴ」は「jong(若者)」という単語から来ているそうです。参考:『広文庫 第6冊(スワルトヨンゴ)』(国立国会図書館デジタルコレクション)

崑崙奴 スワルトヨンゴの圖夏月は躶 冬は如 圖
マタロスの圖
出典:国立国会図書館デジタルコレクション『西遊旅譚 5巻 [3]』
「マタロス」といふものあり。これは、舩中の水主のものにて申。舩の中のはたらきをす(水練をよくするものは、クロンボウにあらず、此マタロスなり)。此もの、阿蘭陀本國の人にて、言語も和蘭の辞なり。顔色は白く、髪は茶色、眼の眸赤し。十五六歳のもの散髪衣服阿蘭陀の如し。此マタロス、帆はしらにのぼり、身のかろき事、鳥のごとし。
※ 「マタロス」は、オランダ語の「Matros(まどろす、水夫)」という単語から来ているようです。参考:『日本大辞書 第10巻補遺(まどろす)』(国立国会図書館デジタルコレクション)
※ 「にて申」は、誤読しているかもしれません。
※ 「圖」は、図。
和蘭舩は、大さ四十間、表の方獅をつくる。總てチヤン塗にして黒し。艫のかた 家形作、内に入。皆、玻■(■は王+棃)障子、前に天幕をはり、地毬、天毬を置。半に楫を廻す車有。その左右に水壷を置。帆はしら三所に建。はしごにて下より入。
拂郎機二十五、左右にあり。朝暮一ツ宛はなつ。又、十二三もはなつ事あり。是は祝事にはなつ事にて、彼國風なり(舩をうごかすためにはなつなど云は、長崎者の杜撰なるはなしなり)。又、洋中に出ては、要害にはなつことも有べし。おほくは穢を散じしめる事にて、此國にて火をうちて浄る如し。其音、山々に響く霹靂のごとし。
※ 「チヤン塗」は、松脂と油を煉り合せた黒い顔料による塗装。参考:『新撰和漢洋薬品異名全集 上(チヤン繪)』『英和対訳辞書(Pitchy)』『海上夜話』『唐人お吉:長篇 4版』(国立国会図書館デジタルコレクション)
※ 「玻■(■は王+棃)障子」は、ビードロ障子。ガラス張りの障子のこと。

和蘭船の圖
大はとより一里 海上高崎にかゝり荷積の圖
万力車 長崎にてはセビと云。ヲランダにてはカツトロルと云
錠
如 圖 日本の錠も此やうにつくりたきもの也。

荷物は船の底に積、竈も下にありて、うへに𤇆を出す所あり。其下に入、㷔硝を貯所有。總て、舩をチヤンにて塗たるにや。其ばんをするもの寿命を減ず。又、燈も消、火もおこらず。是は氣の通ぜさればなり。故に、ウヱンドルと云具を製して、氣を通ぜしむ。支那の舩の粗なると、阿蘭舩の精のちがひなり。
※ 「㷔硝」は、硝酸カリウムのこと。

ウヱントルの圖
㷔硝守人
海底に沈たる物を取あげる器也。是もウヱントルを付て氣を通ず
※ 「ウヱンドル」は、「vent(通気口)」「ventilator(換気装置)」に近い単語から来ている言葉かな… と思います。
参考:『西遊日記』『凡品雑録 第1輯』『長崎紀聞 乾』(国立国会図書館デジタルコレクション)
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