【語源】日本釈名 (37) 文具(書、筆、墨、硯、机、几など)

書
ふみ。『神代直指抄』にふるきを見ると云義。一説に、百済国より表をたてまつりしに、其語不敬なりとて、兎道皇子、大にいかりて書を地になげ、足にてふみ給へり。故に「ふみ」といふ。
又、或説に「ふくみ」と云意。「く」の字を略せり。書には、萬の理をふくむ也。蒼頡が鳥のあとを見て作る故「ふみ」と云。
此等の説、いづれも通ず。しかれども、おそらくは皆、傳會せる鑿説なるべし。
篤信、ひそかにおもへらく、「ふみ」は「文」の字の音を用て、和語とせるなるべし。文字の音を用ひて、和訓とする例多し。頓、蝉、銭、鬼、紫菀、牽牛子、木瓜、蘇芳などの類なり。
いにしへ我国には文字なし。文字はもろこしより来れり。其時、文の字の「ふん」の音を用て、「む」と「み」と相通、ゆへに「ふみ」と訓ぜしなるべし。此例おほければ、何のうたがひかあらんや。
銭、鬼、紫菀などは、「む」の字を「に」の字にかへたり。蝉、文、頓の字は、「む」を「み」にかへたり。又、人の名に仲文、忠文など、「文」の字を「ふん」とよむは、音にはあらず。訓也。「神」の字、「上」の字、「守」の字を「かん」とよむ類なり。是「む」と「み」と相通する故也。
※ 「兎道皇子」は、応神天皇の皇子。菟道稚郎子。
※ 「蒼頡」は、黄帝の史官で、鳥の足跡から文字を創案したと伝えられる人物。
※ 「鑿説」は、 内容がとぼしく真実性が薄い説のこと。さくせつ。
※ 「篤信」は、『日本釈名』の著者の貝原益軒のこと。
※ 「紫菀」は、キク科の多年草。紫苑。しおに。
参考:『徒然草文段抄 : 校註』(国立国会図書館デジタルコレクション)
※ 「牽牛子」は、朝顔の別名。
※ 「もろこし」は、唐土。
※ 参考:『広文庫 第17冊』『国文学大講座 第2』(国立国会図書館デジタルコレクション)

筆
「ふで」は「ふみいで」也。又、是より出るなり。
墨
炭と云こと葉をかり用ゆ。黒ければなり。
※ 「こと葉」は、言葉。
硯
「すみすり」也。「み」を略せり。
机
「つきゑ」とも云。「ゑ」は「居」なり。ひちつきて居る意。「ゑ」と「ゐ」と通ず。一説「ゐ」は「板」也。
※ 「ひちつきて」は、肘つきて、と思われます。
几
「おし」は「押」也。手にておす也。「ま」は「まる」也。「つき」は「つきえ」也。「手にておすまるきつくえ」也。「几」は、けふそくの事也。一説「足まがるつくえ」也。けふそくのあしくりてまがれり。
※ 「けふそく」は、脇息。座側に置いて、ひじをかけて体を支えて休む道具のこと。参考:『大日本国語辞典 巻1(おしまづき)』『大日本国語辞典 巻2(脇息)』『広文庫 第4冊』(国立国会図書館デジタルコレクション)
巻
書はいにしへとち本はなくて、まき本とせし也。
紙
「かき見る」也。

暦
「こまかにかきたるをよむ」なり。
界筭
「界を引ク 算木」也。清少納言『枕草紙』にも出たり。和語にはあらず。又、文鎮と云。
※ 参考:『長崎市史 風俗編(ケサン)』(国立国会図書館デジタルコレクション)
界
書をうつす時、紙の間に入る経緯のすぢなり。「け」とは「界」の字の音也。もろこしの書に出たり。『源氏鈴虫』にも「界かけたるかねのすぢ」と有。
※ 「源氏鈴虫」は、源氏物語の鈴虫の段。
※ 「界かけたるかねのすぢ」 参考:『源氏物語活釈 後篇』『新釈日本文学叢書 中巻 源氏物語』(国立国会図書館デジタルコレクション)
※ 参考:『塩尻 : 随筆 上』(国立国会図書館デジタルコレクション)
水莖
筆を云。莖とは、草のくきの如く、内に水とほるを云。筆は水墨にそみて、其ぢくのうち、むなしく通るゆへにいへり。
※ 参考:『広文庫 第17冊』(国立国会図書館デジタルコレクション)
筆者注 ●は解読できなかった文字、□は欠字を意味しています。
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