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Pearl Jam特集③アルバムレビュー(12)『Dark Matter』(2024年) ~ 破壊と再生


目下最新作となる2024年発表の12作目『Dark Matter』。

話は2年前に遡る。2022年2月にエディ・ヴェダーが11年ぶりとなるソロ・アルバム『Earthling』を発表。演奏のサポートにRed Hot Chili Peppersのチャド・スミスとジョシュ・クリングホッファーが脇を固め、エルトン・ジョンやスティーヴィー・ワンダー、リンゴ・スターがゲスト参加した超豪華布陣。そして内容も事前情報で高まった期待を裏切らない快作でした。

その『Earthling』のプロデューサーを務めたのがアンドリュー・ワット。まだ30代前半の若さながら、すでに音楽業界では引く手あまたの売れっ子。ジャスティン・ビーバーやマイリー・サイラスの作品を手掛けた実績の持ち主で、どちらかというとポップ畑の人というイメージが強い。

ただ実はこの人、根っからのロック・フリークであり、とりわけPearl Jamのハードコアなファン。その彼が憧れの人物であるエディのソロ・アルバムのプロデューサーに抜擢され、さらにソングライター&マルチプレイヤーとしても貢献するなど獅子奮迅の活躍。

『Earthling』の充実した内容が大きな反響を呼び、自分を含むPearl Jamのファンはワットの名前を心に刻んだはず。この若者、なかなかやるやないかと。『Earthling』の制作とその後のツアーに帯同したことが縁となり、ワットは晴れてPearl Jamの次作のプロデューサーという大役を任されます。

カリフォルニア州マリブのスタジオに集結し、その場のセッションで自然発生的に浮かんだアイデアを元に曲を作り上げたという。制作期間は3週間。『Earthling』の時と同様、ワットは曲作りにも深く関わります。

そうして完成した12作目となるニュー・アルバム『Dark Matter』。リリース前にLAで行われた試聴パーティーの壇上で、エディは「これは俺たちの最高傑作だと思う」と語ったという。めったにそんな発言はしない人だけに、よほどの自信作であることが窺えます。

期待に胸を膨らませながら聴いた1曲目"Scar Of Fear"。始まってものの数秒で、このアルバムが傑作であることを確信しました。長いこと音楽聴いてると、そんな魔法がかかった瞬間がたまにあるんです。

なんというか、近作と比べると勢いがまるで違う。歌や演奏はダイナミックに躍動し、エッジもたっぷり効いていて、なにより自信に満ち溢れています。そこかしこで聴かせるマイク・マクレディのギターソロも圧巻。ここまで一切の迷いがなく突き進むPearl Jamの姿を見るのはいつ以来だろう。

ワットが作曲陣に加わったことでソングラインティングにも新風が吹き込む。ハードな曲はよりハードに、メロウな曲は味わい深い哀愁で。硬軟織り交ぜた楽曲は粒より。なにより強力なフックがどの曲にも備わっているため、無骨で飾り気のなさが売りのバンドのイメージを覆す親しみやすさがあります。

そしてサウンド・プロダクションにおいても新しい試み。これまでのライヴ感を強調したドライで生々しい音像とは違う。バンドが持つ骨太でしなやかなグルーヴは存分に生かしつつ、適度なウェットさを加えた重厚なウォール・オブ・サウンドは聴きごたえ十分。

これは原点回帰というよりは新境地と呼ぶ方が相応しい。日本でいうと還暦の世代のベテランが、ここまで瑞々しいロックンロールを鳴らすとは一体どういうことか。その点についても、やはりワットの助力が大きく関係していると思います。

ワットは前年にThe Rolling Stonesの18年ぶりのオリジナル・アルバム『Hackney Diamonds』を手掛けています。還暦どころじゃない、齢80の伝説のバンドを蘇らせた功績が彼にはあるんです。

そして『Dark Matter』においても超一流のリブート職人としての手腕を如何なく発揮。30年以上に及ぶキャリアで築いたバンドのやや固定化したイメージ、手癖やルーティーンまでをことごとく破壊。まっさらな新しい姿にリフレッシュ=再生させることに成功しました。

エディは「俺たちの最高傑作だと思う」と語っていましたが、完成度という点においてはたしかに初期3作にも匹敵するかもしれない。ここへきてこれほどの傑作をものにするとは、長くファンやってた自分も想像してなかった。間違いない、Pearl Jamはこれからますますおもしろくなる。

Pearl Jam "Dark Matter"


Pearl Jam "Won't Tell"


Pearl Jam "Running"


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