見出し画像

Pearl Jam特集③アルバムレビュー(3)『Vitalogy』(1994年) ~ 激情と虚無のあいだ


1994年に発表した3作目『Vitalogy』。僕が初めて手にしたPearl Jamのアルバムです。ここで得た音楽体験が後の自分の人生に小さくない影響を及ぼしたので、思い入れの強さという意味では桁違いの一作。

本作の逸話ですが、CD全盛時代にアナログで先行リリースしてビルボードで初登場55位にランクイン(当時の歴代記録を更新したそうです)。また本作からアルバムはずっと紙ジャケを採用。だから収納しづらくて困るんですけど、まぁそれはおいといて。

僕にとっては『Vitalogy』が初のPearl Jam体験だったので知る由もなかったんですが、古くからのファンは本作での路線変更に驚いたそうな。たしかに、僕も2nd→1stと遡るうちに『Vitalogy』の異質さに気づきました。

前2作の特徴だった重厚なハードロック的グルーヴを手放し、ラフで荒々しいパンキッシュなスタイルへ移行。一説には曲作りの主導権がストーン・ゴッサード(G)からエディ・ヴェダーに移ったのが要因とも囁かれています。

アルバム全編を覆う陰鬱なムード。ただ暗い曲は確かに多いんですけど、足元の軽さとドライな質感のせいか、後味が意外にさっぱりしてるのが特徴。Nirvanaの『In Utero』みたいな聴き手のメンタルにのしかかってくる重苦しさはない。このあたりは前作から続投のブレンダン・オブライエンのプロデュースワークによるものか。だから陰鬱ではあるんですけど、不思議と気分はそこまで重たくならずにずっと聴いてられる。

よく言われているのが、カート・コバーンの死が本作に強い影響を及ぼしたこと(カートの死は1994年4月、『Vitalogy』のリリースは同年11月)。カートとPearl Jamは敵対関係にありましたが、1992年頃に和解。後年のドキュメンタリー『PJ20』でストーンは「カートに批判されたからこそ、俺たちは道を踏み外さずに済んだ」とむしろ感謝していました。

X世代の代弁者としてヒーローに祭り上げられたエディ。同じ立場だったカートの末路にひどいショックを受けたそう。同時代でしのぎを削るライバルであり、シンパシーを感じていたからこそ揺さぶられる感情。その憤怒、混乱、虚無、激情を『Vitalogy』で洗いざらいぶちまけています。

そんな非常にエモーショナルなアルバムではありますが、要所に"Nothingman"や"Betterman"といったメロウでフォーキーな楽曲が配置されてアルバム全体の均衡が取れています。それゆえ不安定なんだけど安定してるというか、この妙なバランス感覚を言語化するのは難しいですが。

長きに渡ってファンに愛される"Corduroy"のような名曲もあるし、歌や演奏、ソングライティングの冴えには当時のバンドのコンディションの良さが窺えます。とりわけエディの歌唱は凄まじいの一言。「カートの悲劇はあったけど、俺たちは前に進むしかない」と腹を括った、その悲壮な決意、思いの強さこそが『Vitalogy』を名作たらしめているのでしょう。

このアルバムが放つ強力なエモーションに引き付けられ、よくも悪くも人生狂わされた人は世界中に大勢いるはず。自分もその一人なんですが、悔いはない。出会えてよかったと思います。

Pearl Jam "Spin the Black Circle"


Pearl Jam "Not For You"


Pearl Jam "Corduroy"

いいなと思ったら応援しよう!