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15歳からの人生

オレが十五歳だった頃、世間では青春真っ只中と言うのだろうが、オレはオレなりのやり方で毎日を生きていた。

高校には通っていた。数学、現代国語、古典、英語、社会地理、理科などの授業にはそれなりに顔を出していた。しかし何故だかわからないが、音楽だけはまったく出る気がしなかった。今思えば音楽が嫌いだった訳ではない。ただ教室の中で大人しく椅子に座っているのが嫌だったのかもしれない。

オレの通っていた高校は少し変わった場所にあった。スキー場の中腹に建っていたのである。窓の外を見ればジャンプ台が見える。冬になれば辺り一面が雪景色になる。

あのジャンプ台は何メートル級だったのだろうか。五十メートル級くらいだったのかもしれない。今でも正確にはわからない。ただ当時のオレにはとても大きな建造物に見えた。

不思議なことに、そのジャンプ台で選手が飛んでいる姿は一度も見たことがなかった。冬になっても誰も飛んでいないのである。

今になって考えれば理由は簡単だ。

ジャンプ台にはエスカレーターもリフトもなかった。一度飛んだらスキーを担いで頂上まで登らなければならない。あれは相当な体力が必要だっただろう。

そんなジャンプ台の審査室がオレ達のたまり場だった。

音楽の授業になると仲間達と教室を抜け出す。男も女も混じって五、六人ほどいたと思う。音楽をサボりたい連中は意外と多かった。

そして誰かが器用に鍵をこじ開ける。

薄暗い審査室の中に入り、窓から外を眺めたり、他愛もない話をしたりする。タバコを吸うヤツもいた。

今なら決して褒められたことではない。

しかし十五歳のオレ達は、そんな小さな反抗がまるで大人になった証拠のような気がしていた。

将来のことなんて何も考えていなかった。

今日が楽しければそれで良かった。

明日のことなど知らなかった。

結局オレは十五歳で高校を退学になった。

当時のオレは強がっていた。

高校なんか辞めても平気だ。

後悔なんてない。

そんな風に言っていた。

若かったし、カッコつけていたのだろう。

だが歳を重ねた今なら正直に言える。

やはり悔いは残っている。

高校だけは卒業したかった。

出来ることなら大学にも行ってみたかった。

学歴が欲しい訳ではない。

卒業証書が欲しい訳でもない。

ただ最後までやり遂げたかったのである。

途中で終わったままの人生のページを、一度くらい閉じてみたかった。

実際、去年まではまだ夢を追いかけていた。

通信制高校の資料を取り寄せたり、専門学校の案内を読んだりしていた。

動物心理セラピスト。

福祉関係。

カウンセリング。

興味のある分野はいくらでもあった。

年齢なんて関係ない。

学ぶことに遅すぎることはない。

そんな気持ちで資料を眺めていた。

訪問看護師さんやヘルパーさん達も驚いていた。

「桃太郎さん、本当にやる気がありますね」

そう言われることもあった。

実際に出来るかどうかは別だった。

でもやる気だけは本当にあったのである。

玉川学園に住んでいた頃には仕事を探していた。

大学の夜間警備員。

交通指導員。

とにかく何か働きたかった。

面接に行くためスーツも買った。

ワイシャツも買った。

ネクタイも買った。

ベルトも買った。

本気だった。

面接を受けるつもりだった。

しかし身体が思うように動かなかった。

足が痛い。

腰が痛い。

立っているだけで辛い。

歩くだけで苦しい。

気持ちは前へ進もうとしているのに身体がついてこない。

それが何より悔しかった。

やる気だけではどうにもならない現実がそこにあった。

結局その面接には行けなかった。

スーツを着ることもなかった。

時間だけが過ぎていった。

そして今、オレは車椅子で生活している。

買い物へ行くのも車椅子。

病院へ行くのも車椅子。

静かな毎日である。

昔のように無茶をすることもなくなった。

それでも時々クローゼットを開ける。

するとそこには新品同然のスーツが掛かっている。

着るつもりだったワイシャツ。

締めるつもりだったネクタイ。

その姿を見るたびに思う。

あの頃のオレは本当に頑張ろうとしていたのだと。

結果は出なかった。

夢も叶わなかった。

面接にも行けなかった。

だけど挑戦しようとしたオレは確かに存在していた。

十五歳で高校を飛び出したオレ。

大人になってからもう一度学ぼうとしたオレ。

スーツを買って働こうとしたオレ。

その全部が今のオレなのである。

クローゼットの中には着られなかったスーツだけではない。

諦めた夢や、叶わなかった希望や、必死に生きようとしていたオレ自身が掛かっている。

だから時々眺める。

少し寂しい気持ちになる。

だけど同時に思うのである。

結果はどうあれ、オレはあの時、本気だったのだと。

そしてその本気だった自分だけは、今でも誇りに思っているのである。

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