見出し画像

平均の周りにどれだけ散らばるか:分散・標準偏差・変動係数

「データ分析のための統計学」の第6回です。

この記事前半の「初心者向け本編」は無料で読めます。架空の業務データを使い、手計算、完全解答、確認リストまで丁寧に進みます。後半の「数学的にもう一歩」では、定義、導出、反例、再現計算まで掘り下げます。

初心者向け本編

この回で答える問い

平均処理時間が同じ二つの工程について、どちらが安定しているかをどう比べればよいのでしょうか。

先に結論

分散は平均との差を二乗して平均した量、標準偏差はその平方根です。標準偏差は元の単位に戻るため、「処理時間の散らばりが何分程度か」を読む入口になります。ただし平均的な誤差や全観測が収まる幅ではありません。変動係数CVは標準偏差を平均で割る相対尺度ですが、意味のある0がない尺度、負値、平均0付近には使いません。

同じ平均でも安定性が違う

平均14分の工程でも、すべて14分付近なら予測しやすく、2分と26分が混ざるなら待ち時間設計が難しくなります。平均だけではこの違いを表せません。

例は架空の注文処理時間です。実在する工程の測定値ではありません。

分散・標準偏差・CVの単位

分析単位は1注文、変数は processing_minutes、単位は分です。

  • 偏差:各値から平均を引いた量。単位は分。

  • 分散:二乗偏差の平均。単位は分の二乗。

  • 標準偏差SD:分散の平方根。単位は分。

  • 変動係数CV:SD/平均。無次元で、しばしば%表示する。

今回の5件を対象期間の全注文とみなす初心者計算では分母を5とする母分散を使います。継続工程から抽出した標本として母分散を推定する場合は、数学編の標本分散へ切り替えます。

最小データで手計算する

処理時間を 10,12,14,16,18分 とします。平均は14分です。

5件の処理時間について平均14分、偏差、二乗偏差、母標準偏差約2.83分を示す図

図から、偏差が平均の左右で相殺するため二乗する流れを読み取れます。将来の注文の範囲は示していません。

値:10
偏差:-4
二乗偏差:16

値:12
偏差:-2
二乗偏差:4

値:14
偏差:0
二乗偏差:0

値:16
偏差:2
二乗偏差:4

値:18
偏差:4
二乗偏差:16

二乗偏差和は40です。

母分散 = 40/5 = 8 分²
母標準偏差 = √8 = 2.828427...分
CV = 2.828427.../14 × 100 = 20.203...%

表示は最後に丸め、SDを2.83分、CVを20.2%とします。

結果をどう読むか

「この5注文の処理時間は平均14分で、母標準偏差は約2.83分」です。SDは元の分単位なので分散8分²より直感的ですが、「各値が平均から平均2.83分ずれる」という平均絶対偏差の意味ではありません。

また、平均±SDに必ず一定割合が入るとは限りません。分布形を確認せずに正規分布の経験則を当てはめません。

成立条件と確認する順番

  1. 分析単位、単位、対象が全数か標本かを決める。

  2. 平均と各偏差を計算し、偏差和が丸め前に0付近か確認する。

  3. 母分散ならn、標本分散ならn-1という分母を記録する。

  4. 平方根を取り、SDを元の単位で表示する。

  5. CVなら比例尺度、正の非ゼロ平均を確認する。

  6. 分布図、中央値、IQR、件数を併記する。

使わない条件、代替案、併記する指標

  • 満足度1〜5など順序尺度へ、間隔が等しい根拠なしにSDを適用しません。度数、中央値、分位点を使います。

  • 摂氏温度のように意味のある0がない尺度へCVを使いません。

  • 平均が0付近、または負値を含む損益差などにCVを使いません。SD、IQR、MADを元単位で示します。

  • 強い歪みや極端値がある場合は、中央値・IQR・MADと分布図を併記します。

  • SDを標準誤差SEと混同しません。SEは第14回で推定値の揺れとして扱います。

典型的な誤読と反例

「CVなら単位の違う何でも比較できる」は誤りです。-0.9,0.1,1.1 の平均は0.1、標本SDは1なのでCVは1,000%です。同じ散らばりの 9,10,11 は平均10、標本SD1、CV10%です。原点移動だけで100倍違うため、意味のある0がない尺度では不適切です。平均が0ならCVは定義できません。

初心者向け演習

全4注文の処理時間が 2,4,6,8分 でした。母平均、母分散、母SDを求め、結果を解釈してください。

解答

平均は (2+4+6+8)/4=5分 です。偏差は -3,-1,1,3、二乗偏差は 9,1,1,9、合計20です。

母分散 = 20/4 = 5分²
母SD = √5 = 2.236...分 ≈ 2.24分

「対象4注文の平均は5分、母SDは約2.24分」と言えます。4件が母集団を代表すること、平均±2.24分に将来値が一定割合で入ることは言えません。

実務で使う確認リスト

  • □ 母集団記述か標本推定かを決めた

  • □ 分母nまたはn-1を記録した

  • □ SDの単位を元変数とそろえた

  • □ SDを平均絶対偏差やSEと呼んでいない

  • □ CVの0・負値・比例尺度条件を確認した

  • □ 分布図、中央値、IQRの併記を検討した

  • □ 丸めを最終表示だけで行った

初心者向け参考情報

資料は改訂される場合があるため、最新の内容は出典先を確認してください。

この回のまとめと学習順

SDは平均周りの散らばりを元の単位で表します。CVは相対化に便利でも、比例尺度と安定した正の平均が必要です。

この連載の前後の記事

  • 前回:『真ん中半分はどこか:分位点・範囲・IQR』

  • 次回:『要約値の前に何を見るか:ヒストグラム・累積割合図・箱ひげ図』

  • 連載:『データ分析のための統計学』全31回

散らばりの指標選びに迷う方へ

集計で、
「SDとSEが混ざっている」
「母分散か標本分散か分からない」
「平均0付近でもCVを使っている」
と感じている方に向けて、
1つの指標に絞った簡易診断を受け付けています。

公式LINEで「診断」と送ると、5問の診断フォームが届きます。
回答内容を確認し、48時間以内に1指標に絞った簡易コメントをお返しします。

※社外秘データや個人情報は送らないでください。

公式LINEはこちら

ここから先は

1,560字 / 1画像
この記事のみ ¥ 400

無料部分は初心者向け、有料部分は数学的な理解を深めたい方向けの二層構造。 平均だけで判断せず、データの偏り・ばらつき・極端値まで読めるようになる全9本。

データ分析を始める前に必要な「データを正しく読む力」を、分析単位・割合・平均・中央値・ばらつき・可視化・外れ値・標準化まで順に学ぶマガジン…