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100年と審美眼

鳥羽一郎?
にしては、ちょいともっちゃりしすぎている。
でも……。
と思ったら、
レジカウンターに座っていたそのひと、
本の棚と積みまくられた本に埋もれるようにして座っていたそのひとが
ラジオから流れる歌に合わせて歌い出した。
「おれと兄貴のヨ~~~~」
一節歌って、続けて言った。
「うまいッ!」
鐘が鳴った。
 
なんのことはない。
NHKのど自慢である。
とは、鐘でわかった。
日曜真っ昼間の古書店。
むかしから大好きで、
でもしばらく行っていなかったそこは、
演芸、演劇、江戸、美術、ジャズ、古典芸能に特化した有名店。
むかし、今の店舗にうつるまえは、
ずっと落語本と上方芸能本の前でずっと佇んでいた。
今よりお金がなかった頃。
レア本の中から財布と相談してどれを連れて帰るか真剣勝負。
今の店舗にうつってから、いや、うつらされてから、は、ご無沙汰。
あの一体が何年も前からお洒落できれいな感じに整備されて
あの一体にあったいい感じに古ぼけた妖怪通りチックな店たちが
妙に明るすぎるライティングをされ均一化された通りにまとめられて、
あまり行かなくなっていたのだ。
だから、それらの店の真向かいにある
デカい書店も利用していない。
 
午前中に年寄り絡みというか野暮用があった。
開放されてちょうどあのあたりに出たので寄った。
 
そこに、流れてきたのが、『兄弟船』。鐘が鳴る。
ラジオの向こうとこちらの歌声のあとに。
狭い、古い本たちの匂いがする中で。
「うまいッ!」
 
笑ろてもた。
ううん、笑ってない。
にやにやにたにたした。
嬉しくなった。
 
ラジオの向こうののど自慢では
その後も次々にいろんな曲が披露される。
御店主は無言だ。
わたしは聴くでもなく聴かないでもなく
「これ、レアやな」「この本も欲しいな」
なんてあれこれ目移りしながら関西小劇場だの
猿之助(猿翁)の若き若き日の本だの
江戸あれこれだのジャズだのの書を手に取り
「さあ、どれを連れて帰ろ」なんて、
決して長くはない時間、
でもたっぷりゆったりした時間の中に居た。
本棚と積んだ本の中に埋もれるようにレジカウンターに座っていた御店主は
本の中に埋もれすぎているのか気配も生気も消していて、
でもラジオからは賑やかに音楽と歌うひとの声が聞こえてきて、
静かなのがにぎやかなのかわからない。
めっちゃ本をみたり探したりしている間に、
ラジオの向こうでは出場者全組の歌の披露が終わり、
ゲスト歌手の歌のステージと相成った。
女性歌手と、そして鳥羽一郎。
 
女性歌手があの一時期猫も杓子も歌っていた
ミュージカル映画でお馴染みの一曲を歌う。
本の中に埋もれていた人はぽつりと言った。
本の中から声がした。
「うまいッ!」
さらに、言った。
「やっぱり、プロやな」
 
なんかね、なんかね、
痺れてしまった。嬉しくなった。
 
その後鳥羽一郎本人の際はなんの言葉も発してなかった。
 
客が来た。
 
「●●の本ありますー?」
賑やかなおばさまたちだ。
3名ほどきゃきゃっと来た。
ご店主は本の中から一言。
「謡い? そこ」
きゃっきゃした3人は覗くも見ずに帰って行った。
 
ラジオは消される。
 
痺れながら棚を覗きながら、
わたしが最後まで買うか迷っていたのは
『シナリオ傑作集 任侠男の映像』だった。
「レアだ」「欲しい」「高い」
「買えないことはないが今節約中だしな」
劇作家の本も歌舞伎本もジャズ本も皆欲しいまたにしようまた来よう。
選書さすがやなあ最高やなあ。だからまたね。
で、白水社の好きな劇作家たちの演劇論集を
ワンコインだったからレジに持って行ったら、
本に埋もれたその人は「お」みたいな顔をした。
でも何も余計なことは言わずに会計をし、
「おおきに」「ありがとう」
そのありがとう、には温度があった。
こちらも肚から礼を言った。
 
なんかなんだか嬉しかった。
だから帰宅して、
なんの気なくお店を検索した。
古ぼけすぎてはいず、
でも今風でもなすぎないHPが見つかる。

目に飛び込んできた。
 
〝何より大切なものは、「価値を見極める目」〟
 
〝100年以上ある歴史を守っています。
 本の価値は「新しい」「綺麗」「人気がある」・・・
 それだけではありません。
 古本は、骨董品のように「歴史的価値がある」
 「文化を伝える役割を担っている」ものこそ価値があるのです。
 そんな価値を見抜けるのは、
 しっかりとした審美眼を持っている当店だからできます〟

「うまいッ!」「やっぱりプロやな」

100年と審美眼。

よいものがわかること。
わかるということとその仕事。
プロの仕事。

ブレない。惚れる。格好いい。


街中で惚れるシリーズ(笑)


構成作家/ライター/エッセイスト
momoこと中村桃子(桃花舞台)と申します。
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momo|桃花舞台 いつも読んで下さりありがとうございます。 一人の物書きとして、日々思考し、綴ります。