見出し画像

家庭料理の目的は「ありがとう」なのだろうか

料理は得意なほうだった。
独身の頃は食べてくれる誰かのためにレシピ本を読んでは新しい料理に挑戦したり、普段買わない食材を買ってみたりと結構創意工夫していた方だと思う。新鮮な海鮮を求めて市場に行ったり、産地直送の野菜を求めて道の駅に馳せ参じたりしていた。

ランチョンマットとか敷いてるし
曲げわっぱのお弁当も作ってる

それが妊娠出産、乳幼児の育児であっという間に余裕がなくなり、私にとって料理は創意工夫するものではなく、なんとか時間に間に合わせるものになってしまった。しかも私は相手に「美味しい」と言ってもらうことにやりがいを感じてしまっていたため、平素より食事に対するリアクションがやや薄い夫と、イヤイヤ期に入って何を食べてくれるかそもそも食べてくれるかがハッキリしなかった乳幼児の組み合わせにかかれば、私から料理する意欲を失わせるのは容易かった。得意なことで家族に貢献する手段を失ってしまったような気持ちだった(もちろん気持ちなだけで毎日の食事作りは続いていく)。

話が変わってきたのは息子が5歳を過ぎたあたりだった。彼は少しずつ食に対する許容範囲が大きくなり、食べ物への興味も湧いてきたのだ。私が作るものを美味しいと食べるようになったり、テレビやYouTubeで未知の食べ物も食べてみたいと言うようになった。料理に対して以前のようには行かない迄も向き合ってみようと思えるようになってきた。

そんな時に有賀薫さんのエッセイ『こうして私は料理が得意になってしまった』を手に取った。

きっと私は家族に美味しい料理を提供する人でいたかったのだと思う。時間がないから余裕がないからと手をかけられない自分をずっと心のどこかで責めていたのだ。有賀さんのことを知ったのはXのポストだったと思う(もちろん当時はTwitterだ)有賀さんがポストで紹介していたスープは特別な食材や調味料を使うのではなくどの家庭にもあるようなもので、素材が活かされていて美味しそうだった。私が四苦八苦している家庭料理を職業に出来るほど続けられる人はどんな文章を書くのだろう。そんな興味もあった。

 本を開くとそこには技術や効率だけではない、料理との穏やかな対峙の様子が綴られていた。ずっと夫の好物だと思って食卓に出し続けていた料理が何年も経ったあと夫がさしてそこまで好きでもなかった件など夫婦の間ってそういう気遣いがすれ違っちゃうことってあるよねとホッコリした気持ちになった。

読み終えて改めて台所に立ってみる。特別なご馳走を作るわけではない。ただいつも通りにフライパンを熱し、卵を割り入れた。

それは自己犠牲というわけではなく、なんというか、料理を作る人間として、おいしいものを食べてほしいという気持ちが自分の食べたいに勝る、そんなようなことです。

こうして私は料理が得意になってしまった より

うまく焼けた目玉焼きを夫や息子に渡すとき、私はそれに感謝してことばを尽くしてほしいだなんて思ってなかったことに気がついた。家庭料理とは、感謝と引き換えにしなくても毎日そこにあるから安心するものであって、対価を殊更必要とするのはおかしかったのかもしれないと思った。もちろん作ってもらったことに感謝をする気持ちは大切だし、毎食ありがとうとまではいかなくても「美味しい」
「美味しかった」と伝えるのは家族間こそあると家庭の温度を保つための必要な礼儀であることは間違いないだろう。しかし、作る側がそれを「対価」としすぎるのは作る側のメンタルにとって良くない事なのではないか。家庭で料理を提供する目的は家族の健康に寄与することであり、家族が当たり前のように食事がとれることであり、家庭の外で上手くいかない日もそこにあり続けることではないだろうか。

では料理を提供する側にとっての糧はなんだろう。目的だけではなく、自分だけの楽しみも一緒に持つことだと思った。有賀さんがスープを作り続けたように。台所での実験と研究が他者を必要としない楽しみを産むのだろう。今日の食材の組み合わせはどんな味になるだろう?食感を足すには?この器に入れるとより美味しそう!

他者を必要としすぎないことで、趣向を凝らさなければいけないという呪縛から解き放たれ、肩の力をうまく抜けるきがするのだ。

親子遠足のためのお弁当
凝らなくても子供は大喜び

他者からの承認や感謝をやりがいにする料理ではなくて、淡々と生活の土台になるような料理をする自分になりたいと思った。食材や調理法や器、料理にまつわるものへの興味を大切に、少しの自分だけの研究心を引き連れて続けていきたい。

明日の朝も私はただ淡々とフライパンを熱して卵を割り入れるだろう。その静かな音が、私と家族の新しい一日を支える土台になっていくはずだ。



お仕事依頼はX(旧Twitter)のDMからお気軽にどうぞ。

いいなと思ったら応援しよう!

読書家アンナ 気に入っていただけましたらサポートで応援お願いしてくださると嬉しいです🥰 あなたのサポートが書籍に変わります🥰