60分かかります #創作大賞感想
「えー、うどん苦手ー。」
上の子が、まだ幼い頃に言った。こんなに食べやすくて、甘じょっぱい麺類、なんで苦手?と思ったが、そもそも離乳食でも与えていないし、食卓にもほとんど上らなかった。
僕が好きで、駅やら出先で食べていただけで、子も食べていると勘違いしていた。(妻もうどんが苦手なので、一緒に食べたことがほとんどなかった)
そんな子が、最近「待ってもいいから、うどんがいい」と言う。待ってもいいとは、うどんの調理時間なのだけれど、レシピ通りに作ると、それは60分だった。
もちろん、麺から作るわけではない。具を作るのに1時間かかるのだ。その具とは、きつね。甘く炊いた油揚げだ。
しみしみじゅわー、そんな写真をタップする指は止められなかった。ちるさんのエッセイ「おあげさんを炊きませんか」を読んだ。
きつねうどんに入っているおあげ、僕も好きだった。なんとも甘い味と、じゅわりとする食感。具の筆頭とも言える、天ぷらのサクサクが苦手で、つゆに浸して衣が溶けかけてきたのを食べるのが好きだった。その点、おあげは最初から食べることができた。
ちるさんのレシピも、きっと同じくらいの時間がかかるかもしれない。今世の中は、時短とかタイパなどと言われて久しい。それに抗うように、スローフードなんて言葉も使われている。
便利かそうじゃないかで分けてはならない問題もあるだろうに、いつの間にか、考える時間すらなくなってしまったのか、こういう昔ながらの手の掛け方が、当たり前から、価値あることになってしまった。
我が家のきつねうどんは、小林カツ代さんのものだ。妻が図書館で借りてきたレシピ本に載っていたのを「食べたい、作って」と子が言ったことから試したのだった。
それまで我が家ではきつねうどんを作ったことがなく、家族で行ったお店で食べた時にあまりに美味しくて、子が家でも食べたいと言ったのだった。
妻は、料理のレシピを見るのが苦手で、”しんなり”や”適宜”、”火が通ったら”など、微妙な書きっぷりが面倒くさくなって、適当にやってしまい、結果的にちょっと違うものになってしまうのだが、この時は違った。
僕は、その後何度かおあげを炊いている妻に、いっぱい作って冷凍したら?と聞いてみたのだけれど、いっぱい買った時に限って失敗するのが怖いから、とりあえずは必要な分だけ作る、と言っていた。
しかし、子どもたちの好きは止まらない。つい数日前に食べたのに、またきつねうどんがいいなどと言う。ほら冷凍しておけば…とも思うけれど、作りたての美味しさを知っているから、とりあえずは子どもたちを宥めて収めている。
作中、おあげの炊き方の紹介ののち、お父様の話が続く。きっと想像できないくらいの苦労と、諦めと、悲しみを経験されてきたのだろう。それでも、他人を悪く言うことなく子どもを育てていったその心意気が素晴らしいと思った。
甘く煮付けられたおあげを頬張るたびに、優しい記憶が蘇るようなエッセイだった。
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最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
いただいたチップは、モンブラン研究費用や子どものおやつ代にします(笑)