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僕らを見てる #ピリカ文庫

何もかも消えてしまった、まっくらな足元を、懐中電灯で照らされながら外に出る。

父さんの手を、さらにぎゅっと握った。

黒いはずの空が、光っていた。
数えきれないほどの光の点が輝いていた。

周囲に立つ人たちのように、父さんは懐中電灯を消す。

小さな小さなガラスを撒き散らした、想像もしていない夜の空が広がっていた。

こんなに・・こんなに、星が見えるなんて。


満天の星空が、僕たちを見ていた。

急にこみ上げてきた気持ちが、目からこぼれてしまう、そう思った瞬間、星空の中に、ひとつの大きな星が流れていった。

ぎゅっと目を閉じた。

流れ星なんて嘘だ、こんなに星が見える夜なんて、嘘だ。

・・・嘘だ、嘘だ、嘘だ。

目を開けたら泣いてしまいそうだったから、両手で顔を覆い、その場に座り込んだ。

「きれいだな・・・、カズ、大丈夫か?」

父の、穏やかだけれど不安そうな問いかけに応えるように、目をゆっくりと開ける。

星々の光が指の間からこぼれ落ちてくる。

やっぱり、現実だった。


いつかやってくる、と言われていた地震が、突然この地を襲ったのは今朝のことだ。

ひろくて豊かな自然とたくさんの人々の生活を奪った。

地震大国ニッポンとはいえ、暮らしている場所が、いつもの景色が、見たことのない、見たくもない景色になるのは、信じられないことだった。

かつて東北地方を襲った地震は、僕や家族に地震への備えを訴えかけた。津波や火災よりも、まず逃げることが何よりも大切であることを、知った。自分は大丈夫・・そんな異常な判断すら、脳が自分自身を守るために出している指令らしい。

幸い、家族は誰も怪我をしていなかったけれど、近所に住んでいた人が、何人か行方が分からなくなっていると、聞くとはなしに聞こえてしまった。

山間やまあいに住む人たちは土砂崩れを目の当たりにして、着の身着のまま転がるように逃げてきていた。目の前で見た恐ろしい光景を、誰かに話すことで忘れようとしているかのように、よく喋っていた。

でも、そういう大人でも僕たち子どもにはその話をしないようにしてくれていた。

小学校の体育館はたくさんの人が逃げてきて、いくつものつまらない色のテントが張られ、それぞれのテントは家族で使って、なんとか時間をやり過ごしていた。

まだ時々揺れもあって、建物がミシリと揺れるたびに体がドキリとこわばり、あちこちから小さな悲鳴が聞こえた。小さい子どもは、泣いてしまう子もいた。

そして、初めての不安な夜を迎えた。


どこからか届けられたおにぎりを食べてしまうと、何もすることがなくなってしまった。兄ちゃんは、疲れたのか寝ていた。

ふだんは、晩御飯を食べてしまうと、ピアノの時間だった。兄ちゃんは、テレビを観たり、ゲームをしていたりしたけれど、僕にはピアノが何よりも楽しいものだった。

聞いたことのある曲が自分で弾けるようになるのは楽しいし、難しい楽譜を間違えずに弾けるようになるのは、ゲームをクリアするのと似ている気がする。

「ちょっと、外にでようか。停電だから、怖いかも知れないけど、ちょっと外の風に当たろう」

父さんだって怖いだろうに、変に明るい声がおかしくて、ちょっと笑ってしまう。兄ちゃんを起こさないように、ゆっくりと立ち上がって、外に向かう。

停電・・「くらくてあかるいよる」という絵本で読んだことがあった。町中の明かりが消えてしまう話。町が暗くなった分、空の星たちがよく見えるようになった・・なんて書いてあった。


流れ星が見てみたい・・なんていつか父さんに言ったけれど、こんなふうに見るなんて、想像もしていなかった。

もっと楽しく見たかった。

父さんも、泣いているみたいだった。

泣いても何も変わらないのは知ってるけれど、くやしいな。

流れ星を見つけた時に言う、願い事だって決めていたのに・・。


しばらく、その場でぼーっと星を眺めていたけれど、首が痛くなってきて、父さんと一緒に体育館に戻った。

僕を見つけた母さんが、ちょっと泣きそうな顔で聞いてきた。

「カズ、こんな時だけれど、ピアノ、弾けるかしら。・・いいえ、いつもの練習曲じゃなくてね、好きな・・曲でいいの。そう言ってくれた人がいたの。」

体育館の正面にはステージがあって、ピアノがすみっこに置いてあった。

小学校の音楽の先生は、僕のピアノのことも知っていて、いつでも弾いていいよと言ってくれていた。体育館のピアノの鍵の隠し場所も、こっそり教えてくれていたんだ。

ピアノのそばにある引き出しの下から3段目、引っ張り出してみると、銀色の鍵が入っていた。

カチャリと回して、ゆっくり蓋を開ける。

両手でいつものドレミファソを弾くと、体育館の中にいた人たちが、こちらを向いた気がした。「お、カズのピアノ久しぶりだなぁ」近くに立っていた町会のおじさんが笑う。

発表会の時のように、ゆっくりと息を吐いて、ゆっくりと吸い込む。

10本の指が、冷たい鍵盤に触れて、僕はピアノと手をつなぐ。

じゃあいくよ。


モーツァルト「きらきら星変奏曲」


おわり


見慣れないメールに「ピリカ文庫」の文字を見つけて、ハッとしました。久しぶりに創作の機会を与えてくださって、感謝しています。

読んでくださって、ありがとうございました。




#ピリカ文庫 #流れ星 #ピアノ #創作 #ショートショート





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