【ブラック企業列伝3】 シゴデキ女性と藁の家
移籍後の話をしようと思う。
新しいチームメンバーは、ポケモンオヤジと舎弟だった。初日の昼に、どっかにランチでも行くのかなと思っていたら、弁当屋を紹介されて、自席で並んで食べた。
パコっパコって音がするなーと思っていたら、オヤジだった。こんな音、なかなか聞いたことのある人はいないだろう。
業務に関しては、保守だったので、不具合報告がメインだった。
仕事は全て、舎弟がやっていた。私は大好きな角席で、隣は舎弟。ラッキーである。
仕事は舎弟に教えてもらいつつ、たまに客先に行って、客先に潜伏しているこちら側の人間と最新情報の交換するくらい。
話し相手は舎弟くらいしかいなかったが、私はそこまで好みじゃなかった。
見た目がメチャクチャ怖いのである。
背は高いし、がっしりしてるし、スキンヘッドで、目が細い。フランケンシュタインに思えてしょうがなかった。
ただ、彼は心の優しいモンスターで、お客様に返すメールの言い回しに苦慮して、4時間くらい経過していたりする。私は、定時に帰る。翌日も悩んでいた。この手のタイプは次の会社でも見かけた。言葉を知らないと、言い回しなどググる事もできない。
読書経験は、役に立つのだ。
そして、ようやくメールを送ると、長時間相手と電話する。私はその間、質問があってもできない。
もう、
「先に電話すれば良いんじゃないですか?」
と言ってみたことがある。
「エビデンスエビデンス」
と、ものすごい気にしていたけど、確かにそれも大事なのだが、両方ともかなり時間短縮する余地がある。
一月もすると彼は敵のアジトに出向していき、そんなに人いらないでしょと言うことで欠員の補充もなく、ポケモンオヤジと2人きりになった。
私は働かないオジサンがあまり好きではない。報告ではすごいことを言っているが、成果をほとんど出していない人を、これまでに何人も見てきたからだ。 米 サボっていようが、成果を出す人はその限りではない。むしろ大好物である。
2人きりになると、実害が出る。毎月の部署の報告書は私が書かされていた上に、2ヶ月もすれば、オヤジが私に聞いてくる始末だった。
報告書チェック担当のオジサンは仕事熱心で、ポケモンオヤジのことを毛嫌いしていた。また、文章の表現にこだわりを持っており、一方の私は過去に国交省に提出するレポートの自社部分の執筆を担当し、マージしたレポート全体の校正担当もしていた経験がある。
提出しては、「ちょっと良いかな」と呼び出され、熱い火花を散らすのが毎月の恒例行事になっていた。
いつしか本当に花火が上がる季節になっていたのだが、その頃はもう喫煙所で顔を合わせればたわいもない会話をする仲になっていたし、私の転職が決まった時はどこで聞きつけたのか、「送別会に行けない代わりに」と言ってランチに誘ってもらい、激励を受けた。
話題の中心はポケモンオヤジのダメっぷりについてばかりだったけれど。
課の飲み会に誘われた事があった。
新卒で入った会社では、大学生みたいな飲み方を未だにしている人が多すぎて、入社歓迎会以来、会社の飲み会は避けていたが、暇だし、タダだし、オッサンと2人きりはあまりにもしんどかったので、参加してみた。
新卒だと言う多部未華子みたいなぴちぴちギャルに、年齢を聞かれ、多分◯◯歳だと思うと回答すると、私の生まれ年から計算してくれて、正確な年齢を教えてくれた。
私はもはや、自分の年齢などどうでも良いくらいキャリアプランは崩壊していたし、人生のロードマップなんか19歳の時に地元のドブ川に流してきている。
彼らは至って真面目に人生を全うしているので、まず自分の年齢を聞かれて「多分」とか言い出した時点で笑いがチラホラ、結局1つ間違ってたことが判明した時は、居酒屋が揺れた。
「そんな事あります?!」
彼らからしたら、未知との遭遇だったろう。
私は1年得したと思って、お礼の気持ちを込めて、
「好きなもんなんでも頼んでください!」
と大見得をきった。
その飲み会の後は、執務室で若手男子達によく声をかけられるようになったし、喫煙所で会うメンツとも雑談をするようになり、お互いに暇な時はランチに行って時間目一杯おしゃべりをしていた。
高いし、決しておいしくはなかったけど、この楽しい時間に対してかかっている対価と思えばむしろ安いくらいだった。
この若手と、前の現場のシゴデキさんと、後に合コンに行くことになる。
報告書を書く絡みで、他の派遣さんと話す機会もあったのだが、彼がある時、猫を子供のように愛でてると漏らした。私も猫を飼ってますよと言うと、食いついてきて、仕事終わりにトンカツ屋で写真の見せ合いが始まった。
以来、ランチ仲間となりうまい店を探し歩き、寂れた焼肉屋にたどり着いたり、ランチをかけてW杯の試合結果を予想したり、それで3連勝してtotoの才能に気づいたり、新宿二丁目で新世界への扉の場所を教えてくれたりもした。
事務のお姉さんは、派遣の勤務時間の取りまとめをしており、席が真後ろだった。
よくお菓子を食べていたので、
「私、これ好きなんですよね」
と、当時ハマっていた煎餅を渡すと、お返しに甘いものをくれた。
お菓子交換会のはじまりである。私はあまり間食しないのだが、袖机の1番下の段は、お姉さんへの贈答品で溢れかえっていた。
話を聞いていると、彼女の派遣元は交通費が出ないらしく、羨ましがられた。
私は派遣が初めてで、交通費なんて出るのが当たり前だと思っていた。(最初の派遣元がケチなのだと思っていた)
そのこともあって、移籍する際に「交通費下さい」と交渉をしたのだが、快諾してくれた新しい派遣元には感謝である。交通費は意外と馬鹿にならない。スニーカーが1足買える。よく、確認しておいた方がいい。
ちなみにポケモンオヤジは隣の席だが、カポカポうるさいので、餌は一切与えていない。旅行のお土産などは別だが。
シゴデキ女性の事は、実は移籍前から知っていた。U課長から、次のチームには、大声で部長に噛み付くイカれた社員の、新婚の奥さんがいるとは聞いていたのだ。名前は失念していた。
私は、顔を覚えるのは得意だが、名前を覚えるのは苦手である。
U課長やシゴデキさんが本社に寄るたびに、声をかけてくれていて、職場に女性社員は少ないし、ランチに誘われた際に、もしかしてあの人ですか?と確認をとり、ようやく一致した。
彼女は何故か部下をつけてもらえておらず、1人でPJをこなしていたのだが、遅延もなく回していた。
一緒に作業をした日も、テキパキ動き、めちゃくちゃ効率的だった。
ちょっとショコタンを想起させるオタクチックな、そして、とても綺麗な人だった。
社内イベントに派遣も参加できると聞き、業務が忙しくて行けなそうだなーと渋っていた派遣の猫好きさんも強引に誘って参加した。
客船での立食パーティーなんか初体験で、猫好きさんとグルグル回りながらたらふく飲み食いした。
最後の記念撮影は、前の人が大きかったし、社員じゃない自分が無理矢理写るのはおこがましいし、魂抜かれるって聞いてるから、後ろに隠れて映っていない。
証拠は残さない主義なのである。
解散してみんなで帰りの駅へ向かう道すがら、乗るべき電車を調べていると
「どこまで行くの?」
シゴデキ人妻が声をかけてくれた。
彼女は私が降りる1つ手前まで行くとのことだったので、ご一緒させてもらった。
道中は仕事の話と、旦那の話。
奇しくも、私は数ヶ月前、旦那の元で働いていたからだ。
「アイツ、意味わかんないとこですぐキレるよね」
どうやら、家でも外でも同じらしい。
確かに打ち合わせ中も、意味わからないところでキレていたし、執務室でもキレていたし、部長にも2回くらいキレていた。
唯一、喫煙所ではキレているところを見た事がない。タバコには精神を落ち着かせる作用もあるのではないか?中毒になっているから、シャブがキレて、獰猛になっていたという説も否めないが。。。
2ヶ月でこれだけ見ているのだ。一緒に暮らすなんて考えただけでもゾッとする。
仕事に関しては、「1人で大変じゃないですか?」と聞くと
「人いないから、やるしかないからねー。効率考えてやればなんとかなるもんだよ。」
あまりに忙しすぎて、いつしか効率化を常に考えるようになっていたらしい。そのせいでマクロとかも独自のものを使っていた。マグロが解体できるか、マグロなのかは知らない。
必要は発明の母という言葉を体現した女性である。
彼女が時にイカれた旦那の影響を受けて、座席で
「あーもう!」
と言っていたり、ボンボン仕事を振る課長に
「今、無理!」
と即答する姿は、面白かったし、話を聞いた後は尚更、面白かった。ずっと課長にタメ口で指示を出していたが、彼女にはその資格があるし、彼女の仕事量を知っている人は誰も咎めなかった。
方や1人で効率的に業務をつつがなくこなし、つらそうな感じもあまり出さない人だからサポートを受けられず、方やポケモンの収集に精を出し、タバコばかり吸って文句しか言わないオヤジには、多い時には2人もサポートがついている。
そう、このポケモンオヤジ、何か仕事を振られそうになると、「いや、でも、だって」が始まるのだ。のらりくらりと逃げ回るのはもはや日常であった。
これは流石になー。彼女も言えば良いんだけど、事実できちゃってるからなー。
優しい課長は少し抜けているので、できる彼女にどんどん仕事を振る。いや、1番デキる部下にきいているのだから抜け目がないのかもしれない。私もシステムでわからない事があったら、彼女に聞いていた。いつでも対応してくれていたし、実はこんなに大変な思いをしているなんて思いもしなかった。
彼女を公私共に支えたいとは思ったものの、残念ながらイカれた旦那とは新婚だったし、後に離婚して親会社のエリートと再婚したと聞いた。
次こそは幸せになってほしい。男を見る目だけはなかったとか言うオチは全く期待していない。
私はというと、「派遣の分際で!」とはイカれた旦那以外には言われてはいないが、発言力のある正社員というステータスが欲しくてたまらなくなり、
条件に挙げていた通り転職活動も進めていて、1次面接の時にとても素敵なイケおじと出会い、2次面接では後に私がボスと慕うイケおじに、渋るもう1匹(のちの社長)を説き伏せてもらい、性懲りも無くIT業界へ舞い戻ることになっていた。
業務内容は関係なくて、正社員というステータスと、2人と働きたいという判断基準だった。年収も上がるし。
珍しく円満退職だったので、忙しい中、送別会を開いてくれた。業務で来れない方もいたが、粗品を配ってご挨拶は済んでいる。猫好きさんとは、今度2丁目行きましょうと言って別れた。
ポケモンオヤジは、とうとう最後まで来なかった。
私が抜けた後は、私と同じ苗字の女子が舎弟になったらしいが、いつしかチームは解散して、ポケモンオヤジは退職したと、後に一緒に合コンに行った若手から聞いた。
2つのPJを抱えていたが、私も忙しい時はオヤジが帰っても1人で残業してはいた(ポケモンオヤジはいた方が邪魔)が、なんだかんだ毎日定時で帰る余裕があったし、専門でチームを作る必要なんか全くなくて、ポケモンオヤジが自分の居場所を作り上げるために周囲を騙して建てた藁葺きの家だった。
シゴデキ課長の元に移って、バレたのだろう。私の後任女子がやらかしまくって、家に火をつけたことも原因だとは思うが。。。
ちなみに、なんと偶然にも後任の女子は私と同じ苗字だったが、私の公認のスパイだった訳ではない。ポケモンオヤジの自業自得である。
