【30秒小説】あなたが泣いてる夢を見ました
あなたが泣いてる夢を見ました。
僕は夢の中でも、何もしてあげられませんでした。
あなたと初めて会ったのは、小学4年生の夏休み前でしたね。
突然、あなたは転校生としてこの何もない田舎の学校にやってきました。
あなたは男の僕より勇敢で、何もない世界から救ってくれました。
あなたは朝でも明るく挨拶をしてくれる人でした。
あなたは沈みゆく夕日を笑って見送れる人でした。
あなたは月面で踊るウサギが視える人でした。
僕の冷たい手とあなたの冷たくない手が重なり、ススキと数々の思い出を散らしました。
下駄箱に入れた運動靴が革靴に変わってしまうように
僕とあなたはいつの間にか大人になってしまいました。
いえ、社会が僕達を勝手に大人にしたのかもしれません。
曖昧にしか抱けなかった僕を、最終電車はあなただけを連れていき灰色の影と白い息だけが駅のホームに残りました。
ずっと子どもでいたかったわけではありません。
でも大人になるのが怖かったのです。
僕はその日からあなたが泣く夢を見ます。
悪夢にうなされて目覚め、もう一度寝てみると夢に近づいていく夢を見るのです。
夏の夜、大学の友人達に誘われてあなたと河原の土手に集まって花火を見に行きました。
遠くで祭り囃子が微かに聞こえて
あなたの水色の浴衣が夏風に揺れる情景に酔いしれました。
チューハイをせがむ友人達に頼まれて
僕は1万円札を握りしめました。
あなたは僕の知らない顔で、優しく見送りました。
クラゲのような花火が、僕を一人ぼっちだと水面に照らします。
そして、
あなたはあの男がつけたタバコの煙とともにユラユラと夜の海へと消えていきました。
ユラユラと深く深く、いつかの美しすぎた日々を忘れながら灯りを消して目を閉じます。
あなたの夢の中で僕は
どんな顔をしていますか?
今も笑えていますか?
【解説】
田舎でいじめられる「僕」を救った転校生の「あなた」。
「あなた」は誰よりも純粋で「僕」の冷めきった心を救い、たくさんの思い出を共に作っていく。
ところが、「僕」と「あなた」は時の流れとともに大人になり心の変化が生まれる。
ある日の冬、大人の関係を求める「あなた」を拒んでしまう「僕」。それ以来、2人の距離は離れていき、「僕」は毎晩「あなた」が泣いている夢を見ることになる。
微妙な関係を続ける2人を大学の友人達が花火大会に誘う。そして、「僕」を仲間外れにして買い出しに行かせる。昔の「あなた」なら助けてくれるはずが、作り笑いをするだけで助けてくれない。
買い出しに帰ってくると、すでに誰もいなく、遠目で「あなた」が自分を仲間外れにした男と仲良く夜へと消えていくのを見る。
そのまま帰宅し眠りにつく「僕」。
あの男と夜をともにする「あなた」を考えながら、「あなた」の夢の中では「僕」のことを忘れないでいてくれていることを期待する情けない「僕」で話が終わる。
【あとがき】
たまにはこんな話も…夏ですからね…
後味が悪い話ですみません…
思えば大学生の頃って報われない恋ばっかりしてたなぁ…って。
いいなと思ったら応援しよう!
チップをくださった方のユーザー名を心の中で大叫びして感謝します。本当にいつもありがとうございます。