【5分小説】今日も電話が鳴る⑤
こちらは一話完結型の小説なので、何話からでも読めます!
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僕のパパとママは仕事でいつも忙しい。
だから僕は小学校から帰ってくると、おとなしくお留守番をしてママの帰りを待つ。
その間に、お勉強をたくさんして時間を潰しているんだけど、たまに家にある固定電話が鳴ることがある。
僕はお利口さんだから、電話が鳴る度に出ることにしている。
さて、今日は誰からの電話だろう?
僕「はい、もしもし」
謎の声「あ、ユウタくん?」
聞き慣れない女性の声。
僕「…はい、そうですけど」
謎の声「久しぶりだね!元気にしてた!?」
僕「え、あ、まぁ…元気にしてましたけど…」
この人、誰だろう?
謎の声「おいおーい!なんでそんなに余所余所しいんだよー!
昔はもっとハイテンションだったじゃーん!」
僕「え?」
昔の僕はハイテンションだった?
割と僕はクールなタイプなんだけど…
謎の声「ほら、よくアタシの前でさ。
顔をゴシゴシと擦って、摩擦熱で顔を真っ赤にしながら『どっちが可愛いか勝負だ』ってアタシに迫ってきてたじゃん!?」
僕「へ?」
なんだそれ!
僕はそんな奇行に走ったことは、一度もないぞ!
謎の声「へいへーい!ユウタくーん!
久しぶりなんだから、もっとテンションぶち上げようよー!
一体全体、アタシら話すの何年ぶりだーい?」
僕「うーん?」
全くわからない…
いつぶりなんだろう…
謎の声「アタシらが最後に会ったのなんて、秦の始皇帝が『不老不死って無理じゃね?』って薄々気づき始めた紀元前から、
人類が『効率的な寿命の延ばし方』を動画で倍速再生しながら、そのストレスで寿命を縮めてるっていう最高にロックな現在までのどっかだよねー!?」
なんだよ、そのざっくり過ぎる期間は!?
僕と謎の声さんは、いつ会ったのか何もわからないじゃないか!
こうなったら、聞くしかない…
僕「…あのー」
謎の声「ん?なに?」
僕「すごくフレンドリーに話しかけてくるところ、大変申し訳ないんですけど…
あなたは誰ですか?」
僕は、恐る恐る聞いてみた。
謎の声「は!?はああああああああ!!」
やばい、めちゃくちゃ怒ってる。
謝らないと…
僕「ごめんなさい!!」
謎の声「はああああああああああああああああむにゅにゅにゅにゅちゅむららならなやまならなさらやたたたた!!!!」
ダメだ、もう聞く耳を持ってくれない…
でも、怒らせてしまったんだから、とにかく謝らないと…
僕「ごめんなさいごめんなさい!
奇声をあげて怒らないでください!」
謎の声「ヴァッ!ヴァッ!ヴォッ!ヴァッ!!」
僕「ごめんなさいごめんなさい!
唐突にカピバラの警戒している時の鳴き方で、怒らないでください!」
謎の声「ゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑゐゐゐゐゐゐゐゐゐ!!!」
僕「ごめんなさいごめんなさい!
特殊な平仮名を叫びながら、怒らないでください!」
謎の声「ㄅㄆㄇㄈㄉㄊㄋㄌㄍㄎㄏㄐㄑㄒㄓㄔㄕㄖㄗㄘㄙㄚㄛㄜㄞㄞㄟ!!!」
僕「ごめんなさいごめんなさい!
注音符号を叫びながら、怒らないでください!」
謎の声「ㄨㄚˋ! ㄨㄚˋ! ㄨㄛˋ! ㄨㄚˋ!!」
僕「ごめんなさいごめんなさい!
カピバラの警戒してる時の鳴き声を、注音符号にして怒らないでください!」
謎の声「…はぁはぁはぁ…まぁ、そろそろこのぐらいで許してやろう」
僕「良かった…」
僕は胸を撫で下ろす。
ようやく謎の声さんの怒りが静まってくれた。
僕「で?ところで、あなたは誰なんですか??」
謎の声「えーと、そのー、ア、アタシはアタシだよ!」
僕「え?アタシって名前の人ですか?」
謎の声「いや、そうじゃなくて…なんていうか…アタシは名前なんて拘らないって言うか…
ほら?よく美術館行ったりすると【無題】って作品が、たまにあるだろ?」
僕「ああ、まぁ、確かにありますね。
作品の解釈を固定しないために、あえてそういうタイトルをつける美術品もありますよね」
謎の声「要するにアタシは、そういう感じだ」
僕「いやいや!どういう感じですか!?
全然答えになってないですよ!」
謎の声「あ、えと、いや、その…」
なんかモゴモゴし始めた。
受話器越しに、相当焦っているのが伝わる。
僕「もしかして…自分の名前がわからないとか…?」
いやいや、さすがにそんなこと…
謎の声「…うん」
あったぁぁああああ!!
僕「え?記憶喪失ってことですか?」
謎の声「うーん…たぶんそう…
なぜかユウタくんのことだけは覚えていたから、電話したのさ!ウェーイ!!」
僕「ウェーイ!!…じゃないですよ」
謎の声は開き直ったのか、テンションが戻ってきた。
僕「というか、さっき僕は、あなたに変な叫び声で怒られる必要なかったんじゃないですか!?」
謎の声「ああ、ごめん。
つい勢いで怒っちゃったけど、本当は怒る必要なかったなって、途中で気付いてた」
僕「いつから怒る必要なかったなって気づいてたんですか?」
謎の声「はああああああああ!!…の「は」の時かな?」
僕「めちゃくちゃ序盤中の序盤じゃないですか!!
あんな意味不明な叫び声を浴びされて、めちゃくちゃ怖かったですよ!!」
謎の声「ごめんごめん。
謝罪として、アタシの記憶が戻ったら、サラリーマンが三日三晩履き倒した革靴のつま先で、
体温と加齢臭にじっくり蒸らされながら、
最後は玄関の冷気で一気に焼き固められたカピカピのリンゴをあげるから許してちょ!」
僕「なんですかそれ!いらないですよ!
気持ち悪い!!」
謎の声「えー!すっごく美味しいのになぁ…ボリボリボリボリ」
僕「えっと…もしかして…
今…革靴の中で、カピカピに乾燥させたリンゴを食べてますか…?」
だとしたら、最悪のASMRだ…
謎の声「ボリボリボリボリ。
あー、違うよ。
今食べてるのは、お風呂の足拭きマットの繊維の隙間で、数年分の湿気と乾燥を交互に浴び続け、最後は誰かの強烈な踏み圧によって繊維と完全に同化したカピカピのバナナだよ。
ボリボリボリボリッ!!」
僕「オエエエエエエ!!!」
想像しただけでも、あまりの気色悪さに吐き気を催した。
謎の声「あははははっ!さすがに嘘だよ!ボリボリボリボリ
今食べてるのは、ただの乾燥させたミルワームの大群だよ、ボリボリボリボリボリボリッ」
僕「をゑゑゑゑゑゑゑゑゑ!!!」
僕は特殊な平仮名を叫びながら吐き気を催した。
僕「…もう、本当に、あなたは一体誰なんですか…?
早く記憶を取り戻してくださいよ」
謎の声「アタシだって知りたいよ!
ユウタくんなんとかしてくれよ!」
僕「いや…そう言われても、僕の知り合いに…こんな生理的に受け付けない人、心当たりなんてないですよ…!
何か他に覚えてることありませんか?」
謎の声「んーー!えーと!えーと!
……あっ!そうだそうだ!
ユウタくんは、アタシがお風呂に入ってるのを見るのが好きだったなー!」
僕「…は?」
僕は固まった。
謎の声「そうだよー!
ユウタくんは、アタシがお風呂で体を清潔にしているのを見て『可愛いなー可愛いなー』ってよく言ってくれただろ?」
僕「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!!!!
絶対ない絶対ない絶対ない絶対ない絶対ない絶対ない!!!
僕は、女性の入浴を覗き込んで、可愛い可愛いなんて言ったなんてことは!!!
断じてない!!」
謎の声「そっかー?
アタシがお風呂にウンチをしたら、よく捨ててくれただろ?」
僕「なんだそれ!!
僕はキレイ好きなんだ!!誰が人のウンチを捨てたりなんかするもんか!!」
マジでこの人めちゃくちゃだ!!
謎の声「まぁまぁ、そんな怒るなよー!
アタシは嬉しかったよー!」
僕「ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない…」
謎の声「…なんか、ユウタくん。ブツブツ言って、ちょっと変だから、アタシ走ってくるね」
僕「…はい、どうぞ。
僕が変だと、走るっていう選択肢になぜなるのかわかりませんが、もう勝手にしてください…」
僕は、頭を巡らせる。
本当にこんな変な知り合いに会ったことなどない。
そして、断じて僕は女性の入浴を覗いたことなどない。絶対に絶対に絶対だ。
30分ぐらいしてから、謎の声が戻ってきた。
謎の声「ゼェ…ゼェ…」
僕「随分疲れてますね?
走ってみて、見覚えのある景色とか、記憶を思い出せそうなヒントとかありましたか?」
それだけ息を荒げてるなら、相当な距離を走ってきたのかもしれない。
きっと1つぐらい、記憶の手掛かりとなる景色があるはずだ。
謎の声「ゼェ…ゼェ…
それが不思議なことに、走っても走っても全く前に進めなかったから、景色はずっと同じだったよ!」
僕「え??
どういうことですか??走っても走っても前に進めなかった??」
謎の声「ゼェ…ゼェ…
うん!緩やかな坂道を延々と走り続けてたつもりが、全く景色が変わらないという怪奇現象に遭遇しながらも、必死で走り続けてやったよ!」
僕「なぜ、その怪奇体験にあってきて、そんなに誇らしげなんですか?
もっと怖がってくださいよ」
謎の声「初めて自分で自分を褒めたいと思ったよ」
僕「自分を褒めてないで、自分のこと思い出してくださいよ!」
謎の声「ふーっ!一汗かいたとこだし!
失われた記憶を思い出す前に、いつもみたいに砂風呂に入って、さっぱりしたいとこだなー!
ユウタくん、また覗いてもいいんだよ!」
僕「だ、誰が覗きますか!!」
僕は顔を真っ赤にして怒鳴った。
…ん?
…あれ?…ちょっと待てよ。
僕「今、砂風呂って言いました?
僕があなたの入浴を覗いてたって言うのは、お湯の風呂じゃなくて砂の風呂なんですか?」
謎の声「当たり前だろー!
アタシはお湯の風呂は苦手なんだよ」
砂の…風呂…?
僕は今までの会話で得た、謎の声さんのセリフを少しずつ思い起こしていった。
昔、僕は謎の声さんの前で顔をゴシゴシ擦って「僕のほうが可愛い」と対抗心を燃やしていた…ということは、謎の声さんの見た目は可愛い系だったってこと…?
中国語の発音記号である注音符号…秦の始皇帝…中国に関連したセリフ…
カピバラの鳴きマネ…カピバラは最大のげっ歯類と呼ばれている…
乾燥させたリンゴやバナナが好き…砂の風呂で体を清潔にしたりウンチをしていた…同じところをずっと走っていた…
僕「はっ!!」
頭の中で閃く音がした。
僕「あああああああ!!!
わかったぞーーー!!」
謎の声「おお!?なんだなんだ??
なぜ私の手の指は4本で、足の指は5本なのか、その謎が解けたのか!?」
僕「ええ!?そうだったの!?
いやいや、そんなこと今はどうだっていいから!
わかったんだ!君の名前が!」
謎の声「……」
あれだけ騒がしかった謎の声が、急に黙り始めた。
僕「君は…」
謎の声「……」
僕「昔僕が飼っていたチャイニーズハムスターのハム美ちゃんだね!!」
謎の声「……」
反応がない。
もしかして間違えてしまったか?
謎の声「…やっと…」
僕「え?」
ハム美「…やっと…ユウタくん、思い出してくれたか…」
小さな声だけど、嬉しそうなのが伝わってくる。
僕「…やっぱり、ハム美ちゃんだったんだね」
ハム美「…うん」
僕「もしかして、記憶を失っていたなんて嘘?」
ハム美「…うん」
僕「なんですぐハム美ちゃんだって、教えてくれなかったの?」
ハム美「…だって、ユウタくん。
アタシが死んでからすごい落ち込んでたから。
だから、急に電話なんかかけたら、びっくりしちゃうかなって思って…」
僕「…そうだったんだ。ありがとう…
何よりもハムスターの君が喋れてることに一番驚いているけど…」
ハム美「神様にお願いしたら、今日だけ特別にユウタくんに電話させてくれたんだ。
……改めて聞くけど、久しぶりだね、元気にしてた?」
なんだかハム美ちゃんとの思い出が、どんどん頭から溢れてきて、涙がポロポロと溢れてきた。
僕「…うん…すごく寂しかったけど、元気だったよ」
ハム美「そっか、なら良かった。
本当はもっとたくさん話したかったけど、そろそろ時間だから天国に帰るね」
僕「うん…ありがとう…
たぶん、ハム美ちゃんがさっき突然30分も走らなければ、もっとたくさん話せたと思うけど…」
ハム美「ハムスターの本能だから仕方ないの。じゃあね、ユウタくん」
僕「うん…じゃあね…」
ガチャン……
電話が切れた。
大好きだったハム美ちゃんが死んだ時、辛くて辛くて仕方なかったから、もう一度ハム美ちゃんと話せて本当によかった…
しばらくしてから、パパが帰ってきた。
パパ「おいユウタ!聞いてくれ!!
今日すごい不思議なことがあったんだ!」
パパはすごく慌てた顔をしている。
僕「え?どうしたの?
僕もさっき不思議なことが起きたばかりだけど…」
パパ「今日ずっと、足元に違和感があっておかしいな、おかしいなって思ってたんだよ。
それで、革靴の中を確認してみたら、カピカピに乾燥したリンゴが入っていたんだ」
パパがカピカピのリンゴを取り出して、僕に見せてきた。
僕はハム美ちゃんが言ってたセリフを思い出す。
『サラリーマンが三日三晩履き倒した革靴のつま先で、体温と加齢臭にじっくり蒸らされながら、最後は玄関の冷気で一気に焼き固められたカピカピのリンゴをあげるから許してちょ!』
僕「をゑゑゑゑゑゑゑゑゑ!!!」
僕は特殊な平仮名を叫びながら吐き気を催した。
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