半分捏造日記 #1
この日記は半分フィクションであり、
実在の人物・団体とは半分関係ありません。
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12/2(水)
いよいよ現体制ラストとなるKIRINJIのライブが来週に迫っている。どうやらゲストとして鎮座DOPENESS氏が決まったらしい。実は来るのではと密かに思っていた。そろそろ配信チケットを買わねばと思うが、昨今は配信ライブが多くて金欠気味だ。先週末は鈴木慶一さんのライブがあったし、今週は髭と電気グルーヴがある。いくら金が無いとはいえ現体制ラストライブを見逃すことはありえないのだが、なんだか気おくれして買っていない。忘れないうちに買わなければ。
12/3(木)
ツイッターの相互の方からLINE。精神的疲労が溜まっているとのことで、気晴らしにでもと日曜に一緒に昼食を食べに行く約束をする。職場の状況とコロナ禍のストレスのダブルパンチを食らってしまっているとのこと。昨今は新型コロナのおかげで気軽に動けない世の中になってしまった。人と会って良いのかいけないのか、遊びにいって良いのかいけないのか、食事に行って良いのかいけないのか、優先すべきは健康なのか経済なのか……深淵なる自己判断の迷宮。人々の心がささくれだっているのがわかる。いままで出歩いたり、人と会うことを楽しみに生きていた者ほど辛い日々だ。気が重い。
12/4(金)
仕事帰りにThe Bandの映画を観に行く。金曜日ということもあってか、ミニシアターは思いのほか混雑している。いざ映画が始まると、巨漢の初老男性が駆け込んできた。ガツンと私の足を蹴飛ばしていったと思ったら、ドンと席に座ってゼーゼーと息を切らしている。どうやらマスクを着けていなかったらしい。女性職員が注意しに飛び込んできた。ところが男はやってきた職員を逆に罵倒。最終的には「おら。もう始まってるだろ。映画の邪魔だ」と言われて職員はすごすごと退室したが、男は十五分と経たないうちにデカい鼾をかいて眠りについた。映画の邪魔であった。
作品自体は興味深い内容で、主にバンドのデビューとその崩壊にスポットライトを当てており、”あくまでロビー視点”という但し書きはつくものの、意外と踏み込んでグループ分裂の実情を描いていた。ただStage Frightの話をしていたと思ったら急にThe Last Waltzまで時代が飛んでしまい、その間の出来事が「みんな薬と酒にどんどん依存していきました」の一言でうっちゃられていたのが残念。ロビー・ロバートソンの自伝を映画化しているので仕方ないとは思いつつ、元妻との出会いのシーンとかカットしてでも、そのあたりの話をもう少し広げてほしかった(確かに自慢したくなるのも理解できる美人だけども……)。
12/5(土)
起き抜けにスマホを見ると地元の友人からの不在着信。何事かと折り返し電話してみると、とにかくバスタオルと着替えを持って急いできてほしいと言う。このコロナ禍に俺なんかが家族のいるお前の自宅に出向いて大丈夫かと訊くと、「いいんだ。妻は温泉になった」と悲痛な声で訴えてくる。わけもわからず友人宅の居間にお邪魔してみると、驚くなかれ、巨大な屋根付きの檜風呂が部屋のほぼ全面積を占める形で鎮座していた。友人曰く、妻は近頃いつも「温泉に行きたい」とぼやいていたが、今朝起きると彼女の姿は消えており、代わりに豪華な源泉かけ流しが居間に現れていたとのこと。「ぜひ、ひとっ風呂浴びていってほしい」と涙ながらに言われたが、よく知っている仲とはいえ、昨日まで親友の妻だった温泉の前で裸になり、そのうえそこに身を浸すなどとてもできない。そう言って断ると、「温泉になってしまったうえ、その湯を誰にも楽しんでもらえないなんて不憫すぎる。俺と一緒にでもいいから入ってほしい」と泣き出す始末。こう頼まれては仕方ないので二人で服を脱ぎ、マスク一丁でいざ入浴。するとどうだろう。なめらかな肌触りのいい湯である。足を伸ばせる風呂など久しぶりだ。湯加減もちょうどよく、まさに極楽といった塩梅。「こういうことなら酒を買ってくればよかった」と私が言うと、友人は「いいものがある」と大はしゃぎで奥から二割三分の獺祭を持ってきた。ならばツマミも必要だ。そのまま二人でビチャビチャの身体で台所へ行き冷蔵庫を漁り、良さそうなものを見繕ってくる。そうだ、そういえばそろそろ電気グルーヴの配信ライブが始まる時間だぞ、見よう見よう、と酒とツマミを持って妻の湯にザブン。湯気で湿ったマスクも外し、いざ浮世を忘れる宴の始まり、と思ったのも束の間。いきなり浴室、もとい居間の戸が開き何者かが入ってきた。見ると、なんとそれは友人の妻。その手には”定山渓温泉に行ってきました”と書かれた包みを携えている。話を聞けば、どうしても温泉欲を我慢できなくなり、一人で浸かってきたという。友人は静かに立ち上がり、外したマスクを付け直すとこう言った。
「じゃあ、これはなんだろう」
12/6(日)
先日約束をした相互の方と昼食。聞けば聞くほど、いまの職場は大変なようだと感じる。少しは気分が晴れたのならば良いが。
夜、昨日は観れなかった電気グルーヴの配信ライブをアーカイブで観る。無観客にも関わらず、これでアガらずに何でアガる?と思うほどの熱量。早くみんな集まって電気の音で踊れる日が来ますように。なお、髭の配信チケットは購入が間に合わず未視聴。やってしまった。
12/7(月)
仕事終わり、先日悪ノリで冷蔵庫の食べ物を漁ってご迷惑をかけたお詫びに菓子折りを持って友人宅へ。すると、マンションの彼の部屋の前に短い行列が出来ている。最後尾にいるご婦人に話をきいたところ、どうやら友人夫妻は温泉を有料で開放し、近隣住民にチラシを配って宣伝しているらしい。商魂たくましいが、このコロナ禍でこんなことして揉めやしないのか。そう心配した矢先、部屋の中から怒鳴り声が聞こえた。
「マスクなどいるか。風呂の邪魔だ」
中に入ると、先日の巨漢オヤジが豊満な裸体を震わせ息巻いていた。
帰宅後、忘れずにKIRINJIの配信チケットを購入。
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