〚お客をえらぶギター奏者の物語(仮題)〛通し番号245. 《飛び立つ》(59)

お世話になった病院の人々に 挨拶をし、
(「今井さんがいないと寂しくなるわ」
「あんた、よく W先生のお世話をしたね、先生も お喜びだったよ」
「もし仕事が無くなったら、いつでも戻っておいで」
「そんな事 言うもんじゃないよ、これから売れっ子になる人なんだから」
「そうよ、こんな良い男が売れないんなら 世の中の方が間違ってるのさ。ねぇ 専務さん」
「F先生、今井さんを よろしくお願いしますよ」
「首都までは 芝居を観に行かれないけど、巡業や何かで 近くに来る時は 知らせておくれ」
「テレビの時代劇に出てくれたら いいのにねぇ」
「とにかく元気でね、私たち ずうっと応援してるから」)
大応援団に見送られ、O社の車に乗り込み、
今井は、鷹木夫妻と F先生と 運転手と共に W先生のふるさとをあとにする。
専務と社員は 後仕舞いのために残った。

激しいまでに鮮やかな 夕焼けに彩られた内海を フェリーで渡り、
新幹線の駅前に 車を寄せた時は 既に辺りは暗くなっている。
鷹木夫妻が まず降り、F先生に手を貸して降ろした運転手へ 先生は手妻のごとく 心付を握らせる。
運転手は ありがたく黙礼する。
そして 今井の方を向き直り、
「あんたも ご苦労さんどしたな」
「お世話になりました」
ひと月と少し前までは お互い思ってもみなかった 濃く親しい時間を共にした 彼らの間には、温かな情けが生まれている。
「病院の看護師さん達が 言うからやないが…あんたは 偉くなりはるお人のような 気ィがします」
「そうでしょうか…精進します」
「芝居しに 旧都へ来はったら、今度は 酒でも呑みましょ」
「おぉ、それは良いですね!」

車が 旧都へ向けて走り出すのを見送り、今井は 改札口へと急ぐ。

(この物語は おとぎ話です。登場する人びと、場所、出来ごと等 全て 架空の存在であり、モデルはありません。こんな人びとがいたら良いな、と願って書いているところはあります。)

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