〚お客をえらぶギター奏者の物語(仮題)〛通し番号179. 《歩み出す》(103)

それからの慶三は 町で ギター教育に邁進した。
自宅の稽古場で 心を込めてレッスンをするのみならず、音楽を通して 人々の間を取り持つような仕事も 面倒がらずに、身に引き受けた。
それには 音楽堂の初代支配人の薫陶も 大いに影響している。
具体的に ああしろ、こうすると良い 等の指示が無くとも、彼の背中が 姿勢が そうさせた。
恩を受ければ 恩で返す、本人にお返しできないほどの大きな恩は その他の人々へと向かい、
受け取った人は また次の人々へ、そうして 思いは  循環し続ける。
音楽、そして教育というものは そういう点で まことに都合が良かった。

はじめの頃は 県庁所在地の C楽器店へ挨拶に行き、ギター用品の取り扱いを 充実させてもらうよう頼んだ。
恩師の T先生に紹介していただいた 首都の楽器店との間を慶三が取り持ち、それは ギター人気の時代を先取りする結果となり、双方に 大いに喜ばれた。
売り上げに 寄与した分、きちんと注文もつける。
自身の弟子を C楽器店へ伴い、楽器選びに付き合う際も 店員に遠慮なく質問をし、納得のいく助言と 品揃えを求めるため、店員も 必死で勉強をするようになった。
その結果「ギターと言えば C楽器」近県からも お客が目指して訪れるような、ギターファンの心に火を灯すような 名店へと成長を遂げた。

慶三の住む町には 楽器店が無かったため、弦や お手入れ用品、楽譜等を C楽器店から仕入れて 道場に常備、弟子達の便宜を図らった。
弦の交換や ちょっとした不具合の手直しぐらいは慶三がするが、
それ以上の修理や調整は ギター工房に持ち込み、いつも多忙な工房も 道場の仕事は優先的に受けてやってくれる。
もちろん 道場で学ぶ弟子達は、いつか我れ等がギター工房のギターを弾きこなしたい、というのが夢であり 究極の目標であるからして、
こぞって注文を入れ、完成して手元に届く数年後までに 腕を磨こうと精進する。

(この物語は おとぎ話です。登場する人びと、場所、出来ごと等 全て 架空の存在であり、モデルはありません。こんな人びとがいたら良いな、と願って書いているところはあります。)

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