〚お客をえらぶギター奏者の物語(仮題)〛通し番号61. 《人生うんぷてんぷ》(15)

巨匠は しきりに 三代目支配人や子どもたち、ギター工房の面々、
音楽関係者、馴染みのお客たちにも、遊びに来いと言い、
名残り惜しそうに 帰途についた。
師匠が 空港まで送って行った。

「君も 飛行機か せめて 船に乗れれば良かったのに」
巨匠は あきらめ悪く言った。
「オレが 一番そう思うよ」
師匠は 心から返す。
ロビーの大きな窓から、暗い空に映える 沢山の細かい灯りを眺め、出発を待つ。

「二人の兄が 海と空で散ったのだ」
「そうだったのか!それは…残念なことだ。
お悔やみ申し上げる」
「昔のことだ」
巨匠の娘も
「まぁ そんないきさつがあったのですね。
お兄さま方のご冥福を お祈りいたします」
「恐れ入ります、私の上の世代は 皆そうだったのです」
親友に 向き直り
「ばあさんが『おまえだけは』と言ってな。
若い頃、会社勤めをしていた時は そうもゆかなくて 飛行機にも乗ったが、
ばあさんに知られる度に 飯も食わずにオレの帰りを待つわ、
お百度を踏んだり 大騒ぎだ」
「うむ」
「知り合いの乗った旅客機が 事故にあったのをきっかけに 乗らないことにした。
ずいぶん 不便だったけどな」

「話してくれて ありがとう。仕方がない、私がまた来るよ」
「おう、そうしてくれ。こちらこそ 聞いてくれて ありがとう。
搭乗前に 事故の話なんかして悪かったな。くわばらくわばら」
「それも 君たちの祈りの言葉か。何事も unpu-tenpu だろ?」
「うん、まぁそうだ」
「このギターで練習して、またワールドツアーで来る」
「うん」
「ここの音楽堂のように 小さなホールで、
本当に 私の演奏を聴きたい人びとのために弾くのだ」
「それは良いな。録音の予定は?」
「ああ、それは帰ったら すぐに取り掛かる。な?」
「そうね、今のお父さんの音を ぜひ録っておきたいわ」
娘も 賛成する。
「できたら すぐに送る」
「うん、楽しみにしている」

搭乗のアナウンスが流れる。

「ではまたな。君も元気で」
「君もな」
いつもより長い握手を交わし、二人とひとりは 笑顔で別れた。

(この物語は おとぎ話です。登場する人びと、場所、出来ごと等 全て 架空の存在であり、モデルはありません。こんな人びとがいたら良いな、と願って書いているところはあります。)

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