2泊3日ゴルフ旅【妄想編⑤】#創作大賞2026/Netflix版!「ダボを叩くわよ!」/伝説のキャディー・黒木霊子の大殺界18番ホール
Netflixから、通知が届いた。
①Netflixさんがあなたの記事にスキしました
妄想編④(スチール・ウォーズ)を投稿した翌朝のことだった。
PCを開くと、通知のベルのアイコンに赤い印が光っていた。
「Netflixさんがあなたの記事にスキしました」
そして、メッセージが届いた。差出人はNetflix Japan、コンテンツ開発部だ。
「はじめまして。突然のご連絡、大変失礼いたします。私どもNetflixでは、現在『地獄に堕ちるわよ』(戸田恵梨香主演)が日本国内で大変ご好評をいただいております。本作は、強烈なキャラクターと『大殺界』という独自ワードが視聴者の心を掴み、話題をさらっております。さて、貴殿の2泊3日ゴルフ旅シリーズを拝読しておりますと、ひとつのキャラクターが私どもの脳裏に浮かんで参りました。ゴルフ場を舞台に、強烈な言霊でプレイヤーの運命を告げる——伝説のキャディー。『大OB界』『ダボを叩くわよ!』というワードを核に、Netflixオリジナルドラマとして制作したく存じます。つきましては、貴殿の脚本をベースに、シリーズ化を前提としたパイロット版の制作をご検討いただけますでしょうか。何卒よろしくお願い申し上げます。 Netflix Japan コンテンツ開発部」
壇る理由がなかった。
こうして、「ダボを叩くわよ!伝説のキャディー・黒木霊子」が誕生した。
②黒木霊子という女
彼女の本名を知る者は、もう誰もいない。
ゴルフ業界では、「黒木霊子」という名前だけが独り歩きしている。キャディー歴38年。関東圏のゴルフ場を渡り歩き、その言霊でプレイヤーの運命を変えてきた、伝説の女だ。
口癖は、たった3つ。
「大OB界に入ってますよ」
「ダボを叩くわよ!」
そして——「でも、2泊3日で来た人は別よ」
彼女がゴルフ場に現れる時、いつも同じ出で立ちだった。裾に金と朱の鳳凰が舞う黒留袖。どんな炎天下でも、どんな霧雨の朝でも、その正装は乱れない。ゴルフ場のフロントスタッフが「本日のお着替えは——」と申し出ると、黒木霊子は一言だけ答えた。「これが私のユニフォームよ」
プレーヤーは誰も信じなかった。最初は。黒留袖のキャディーなど、前代未聞だ。しかし彼女がティーグラウンドに立つと、どんな豪腕プレイヤーも手が震えた。体格も地位も関係なかった。黒地に金の鳳凰を纏った黒木霊子は、誰よりも大きく見えた。
「あなた、今日は大OB界ね」
その一言で、ティーショットは林へ消えた。
黒木霊子は予言したのではない。彼女の言霊が、ボールをそちらへ誘導したのだ——少なくとも、ゴルフ場に集まる人々はそう信じていた。
③六番アイアン占術
黒木霊子には、独自の占術があった。
その名も「六番アイアン占術」。
黒留袖の裏地に小さく印刷された星座早見表と、その日のピンポジション、そして風速を組み合わせて、18ホールそれぞれの「運命」を算出する。
プレイヤーは誰も信じなかった。最初は。
「1番ホール、あなたは絶好調界。ドライバーで思い切り振りなさい」
打った。フェアウェイど真ん中。
「5番ホール、大ショートアイアン界。番手を上げなさい」
上げた。ピン横1メートルにつけた。
「10番ホール——大OB界。ここで無理をすると、ダボを叩くわよ!」
無視した。林に消えた。
信じるか信じないかは、プレイヤー次第だ。しかし不思議なことに、黒木霊子の言霊に逆らったプレイヤーが、正しいスコアで上がった試しは——38年間、一度もなかった。
もうひとつ、黒木霊子には他のキャディーと決定的に違う点があった。
コース間の移動だ。
他のキャディーはカートに乗る。黒木霊子は乗らない。グリーンを上がった瞬間、フェアウェイの端に漆黒のセンチュリーが、すでに待機していた。運転手が白手袋でドアを開ける。黒留袖の裾をさばきながら後部座席に収まった黒木霊子は、次のホールのティーグラウンドまで、センチュリーで乗りつける。芝を踏む必要など、ない。
「先生……センチュリーで、コースの中を……」
ゴルフ場支配人が青ざめて駆け寄ったのは、初日のことだけだった。
黒木霊子はウィンドウをわずかに下ろし、静かに言った。
「芝は、私が傷つけるより、あなたたちのカートのほうがよほど痛めているわ。——それより、11番のピンポジションを変えなさい。大OB界が重なっている」
支配人は、翌朝ピンを移動させた。その日、11番ホールの池ポチャは、ゼロだった。
以来、ゴルフ場の芝の上をセンチュリーが走ることを、誰も止めなかった。
ゴルフ場に大殺界などない。あるのは、
大OB界と——漆黒のセンチュリーと——2泊3日だけだ。
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