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社員に「辞めてもらいたい」と思った時に、立ち止まって考えたい5つの問い

「あの社員には、もう辞めてもらいたい」
経営者や人事担当者、管理職であれば、一度はそう感じたことがあるかもしれません。

何度伝えても行動が変わらない。周囲とのトラブルが続いている。
本人をフォローする上司や同僚ばかりが疲弊している。
一人の社員への対応に時間を取られ、チームの仕事や組織づくりに集中できない。

その状態が長く続けば、「もう限界だ」と感じるのも無理はありません。
「辞めてもらいたい」という感情は、必ずしも冷酷さから生まれるものではありません。

むしろ、「他の社員を守りたい」「これ以上、現場を疲弊させたくない」
「チームを健全な状態に戻したい」という、組織を預かる立場としての責任感から生まれることも多いものです。

問題は、その感情を持つことではありません。
その感情を、どのような判断と行動に変えるかです。
感情のままに仕事を取り上げたり、本人が居づらくなる環境をつくったりすれば、問題は解決するどころか、さらに複雑になります。

今回は、「辞めてもらいたい」と感じた経営者、人事、管理職が考えたい5つの問いを、人事と組織の観点から整理します。


問1 「本当に"あの社員"だけが問題なのか?」

組織の中で問題が続くと、私たちは原因を特定の人物に集約したくなります。
「あの人がいなければ、チームはうまく回る」
「あの人が入ってから、職場の雰囲気が悪くなった」
もちろん、実際に本人の行動や姿勢に大きな問題があるケースもあります。ただし、人の行動は、本人の性格や能力だけで決まるものではありません。仕事の内容、上司との関係、評価制度、役割の曖昧さ、業務量など、周囲の環境からも強い影響を受けます。

例えば、次のような状況はないでしょうか。

  • 採用時に説明した仕事と、実際の仕事が違う

  • 上司によって指示や評価基準が変わる

  • 本人に求める役割が曖昧になっている

  • 業務量に対して、人員や時間が足りていない

  • 問題が起きても、その場しのぎの対応を繰り返している

  • 改善を求めながら、具体的に何を変えるべきか伝えていない

  • 管理職が一人で問題を抱え、人事や経営に共有できていない

これらを確認せず、「本人の性格が悪い」「能力が足りない」と判断すると、原因を見誤る可能性があります。
一人の社員が退職しても、組織側の問題が残っていれば、次に入った社員も同じようにつまずきます。

「問題社員」が繰り返し生まれる職場では、本人だけでなく、業務の設計やマネジメントのあり方にも目を向ける必要があります。

人物評価ではなく、行動を見る

人事対応では、「協調性がない」「態度が悪い」といった抽象的な表現を、具体的な行動に置き換えることが重要です。

例えば、
「協調性がない」ではなく、「会議で他の人の発言を繰り返し遮った」
「仕事ができない」ではなく、「合意した期限を過ぎても報告がなく、後工程に遅れが出た」
「態度が悪い」ではなく、「上司からの指示に大声で反論し、面談を途中で退席した」という形です。

人物そのものを評価するのではなく、

  • 何が起きたのか

  • どの程度繰り返されているのか

  • 業務や周囲にどのような影響があったのか

  • 本人にはどのような説明をしてきたのか

を整理します。
これにより、好き嫌いや印象と、実際の問題を分けて考えられるようになります。

問2 「辞めないのではなく、"動けない状態"なのではないか?」

「あの社員は、何があっても辞めないと思う」
そう感じることがあります。

しかし、本人の側から見ると、積極的に会社に居座っているとは限りません。

  • 転職先が見つかる自信がない

  • 収入が途絶えることが不安

  • 家族を養わなければならない

  • 自分の市場価値が分からない

  • 心身が疲れ、転職活動を始める気力がない

  • 今の職場に合っていないとは感じるが、決断できない

  • 会社から何を求められているのか、十分に理解できていない

こうした不安によって、動けなくなっている場合があります。

外から見ると「辞める気がない」ように見えても、本人の中では、「このままではいけない」という不安と、「それでも動けない」という迷いが、同時に存在していることがあります。

社員が会社に不満を持った時、必ず退職を選ぶわけではありません。
上司や人事に改善を求める人もいれば、状況が変わるのを待つ人もいます。仕事への関与を下げ、最低限の業務だけを続ける人もいます。

そのため、「辞めない=満足している」「辞めない=居座っている」と単純に考えることはできません。

本人が現在地を理解できるようにする

必要なのは、本人が自分の状況を客観的に理解できるフィードバックです。

例えば、次のように伝えます。
「現在の役割で会社が期待している状態と、実際の状況には差があります」「これまでお伝えしてきた点について、現時点では十分な改善が確認できていません」
「現在の仕事や環境が、あなたの能力や希望に合っているかも含めて、今後について考える必要があります」

ここで大切なのは、人格を否定しないことです。
「あなたはダメだ」「周囲から嫌われている」「会社に必要とされていない」このような言葉は、本人を防衛的にするだけです。

伝えるべきなのは、次の4点です。

  1. どの行動が問題になっているのか

  2. その行動がどのような影響を与えたのか

  3. 組織はどのような状態を期待しているのか

  4. いつまでに何が変われば、改善と判断するのか

管理職が日常的な行動を伝え、人事が表現や進め方を支援することで、本人にとっても理解しやすいフィードバックになります。

配置や役割を変えることで、力を発揮できないか

現在の部署で成果を出せないからといって、組織のどこでも活躍できないとは限りません。
業務内容、上司、役割を変えることで、本人の強みが生きる場合もあります。

例えば、

  • 顧客対応から社内業務へ移す

  • 管理職から専門職へ変更する

  • 複数業務を担当する役割から、範囲の明確な仕事へ移す

  • 上司や指導担当者を変える

  • 必要な知識やスキルを学ぶ機会を設ける

といった方法です。

配置転換や役割変更は、単なる温情ではありません。
本人の能力と、仕事が求めるものとの組み合わせを見直す、人材配置上の判断です。
その可能性を検討した上で、なお適した役割が見つからない場合には、雇用関係の見直しが現実的な選択肢になります。

問3 「"追い出し"を始めたら、組織に何が起きるか?」

対応に疲れ切ると、
「仕事を与えなければ、自然に辞めるだろう」
「本人が嫌がる部署に異動させればいい」
「退職すると言うまで、繰り返し面談すればいい」
と考えたくなることがあります。
しかし、いわゆる「追い出し」の対応は、本人だけでなく、組織全体に影響します。

例えば、

  • 必要な仕事を与えない

  • 会議や情報共有から外す

  • 業務上の必要性が乏しい異動を行う

  • 根拠を説明せずに評価を下げる

  • 給与や待遇を不利益に変更する

  • 周囲との接触を制限する

  • 本人が拒否しても、繰り返し退職を迫る

といった対応です。
こうした行為は、会社側には「自分から辞めてもらう方法」に見えるかもしれません。
しかし、本人から見れば、「会社から不当に扱われている」という根拠になります。
直接解雇しなければ問題がない、というわけではありません。

周囲の社員は、結論よりもプロセスを見ている

対象となっている社員以外の人も、経営者や人事の対応を見ています。
「あの人に問題があったとしても、あそこまでやるのか」
「自分も上司と意見が合わなければ、同じように扱われるのではないか」
「失敗したら、会社に居られなくなるかもしれない」
このような不安が広がると、社員は本音を言わなくなります。

問題を報告せず、失敗を隠し、経営者や上司の顔色をうかがう組織になります。
特に、転職という選択肢を持っている優秀な社員ほど、会社の危険な兆候に早く気づきます。

一人の社員を辞めさせるために、残ってほしい社員まで失う。
それでは、組織を守るための対応が、組織を弱くする結果になってしまいます。
人は、判断の結果だけでなく、その判断に至るまでの扱われ方を見ています。

本人に説明する機会があったか。判断基準は一貫していたか。
人格を尊重した対応が行われたか。会社は判断の理由を説明したか。

厳しい判断であっても、こうしたプロセスが公正であれば、周囲の受け止め方は大きく変わります。

問4 「合意による解決の可能性は、本当に尽きたのか?」

追い出しのリスクを理解した上で、改めて検討したいのが、対話と合意による解決です。
「話し合って解決できるなら、苦労していない」
そう感じる経営者もいるでしょう。

もちろん、すべてのケースで円満な合意が成立するわけではありません。
ただし、合意形成が難しくなる理由の一つは、会社が最初から「辞めさせること」だけを目的にしていることです。

その意図は、本人にも伝わります。
すると本人は、生活や収入、立場を守るために防衛的になります。
会社の発言を細かく記録し、専門家に相談し、一つひとつの対応に抵抗するようになります。

結果として、「早く辞めてもらいたい」という会社の思いとは反対に、解決までの時間が長くなっていきます。

対話では「事実・影響・期待・支援」を伝える

面談では、次の4つを分けて伝えます。

事実:何が起きたのか。
「〇月〇日の会議で、他の参加者の発言を複数回遮りました」

影響:その行動によって、何が起きたのか。
「会議が中断し、他の参加者から意見を言いにくいという声がありました」

期待:今後、どのような行動を求めるのか。
「他の人が話し終えた後に、自分の意見を伝えてください」

支援:会社として、何を提供するのか。
「上司との定期的な振り返りを行い、会議での行動を一緒に確認します」「もっと協調性を持ってほしい」とだけ伝えても、本人は何を変えればよいのか分かりません。
期待する行動、確認する期間、評価する方法を具体化する必要があります。

改善計画を、退職させるための形式にしない

改善計画を作成する場合は、本当に改善の機会になっているかを確認します。
達成がほぼ不可能な目標を設定し、形式的に面談記録だけを積み重ねれば、本人には「退職させるための準備」と見えます。

改善計画には、少なくとも次の内容が必要です。

  • 問題となっている具体的な行動

  • 求める改善状態

  • 評価に使う基準

  • 会社が提供する支援

  • 改善を確認する期間

  • 定期的な振り返り

  • 改善しなかった場合の対応

改善の可能性を実質的に提供した上で、それでも変化がなければ、次の判断に進みます。
退職という選択肢を伝える場合も、その場で即答を求めず、本人が家族や専門家に相談する時間を確保することが重要です。
退職時期、条件、引き継ぎ、再就職支援などを整理し、本人が退職後を具体的に考えられる状態をつくります。
合意を目指すことは、会社がすべて譲ることではありません。
会社の方針を明確に伝えた上で、双方が受け入れられる着地点を探ることです。

問5 「それでも解雇に進むなら、準備は整っているか?」

組織側の問題を見直した。本人に具体的なフィードバックを行った。
改善の機会や支援を提供した。配置転換や役割変更も検討した。
合意による解決も試みた。
それでも状況が変わらず、雇用関係を継続することが難しい。
その場合には、解雇を検討せざるを得ないこともあります。

ただし、解雇は「社長が限界だと感じた」という理由だけで進められるものではありません。
感情ではなく、客観的な事実と手続きによって判断する必要があります。

少なくとも、次の点を確認します。

  • 問題となった行動が、日時と内容を含めて記録されているか

  • その行動が業務に与えた影響を説明できるか

  • 本人に問題点を具体的に伝えているか

  • 改善内容と期限を示しているか

  • 指導や面談の内容が記録されているか

  • 本人の説明や反論も記録されているか

  • 必要な支援や改善機会を提供しているか

  • 配置転換や役割変更を検討したか

  • 過去の類似事例と比べて、対応に一貫性があるか

  • 弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談しているか

ここで重要なのは、本人に不利な情報だけを集めないことです。
本人の説明、改善した点、会社側の不備、上司の対応上の問題なども含めて記録します。
記録は、本人を辞めさせるための証拠ではありません。

会社の判断が本当に妥当なのかを確認するための材料です。

「みんな知っている」は、記録にはならない

社内で問題が共有されていたとしても、
「本人には何度も伝えた」「みんな困っていた」「前から有名な問題だった」というだけでは、会社の対応を客観的に説明できません。

また、同じ程度の問題に対して、ある社員には注意だけで済ませ、別の社員には退職を求めるような対応では、人事判断への信頼が失われます。
問題社員への対応を、上司個人の感情や経験だけに任せないことが重要です。
組織として一定の基準を持ち、誰が、どの情報をもとに、どのように判断したのかを残す必要があります。

そして、実際に解雇や退職勧奨を検討する段階では、必ず専門家に相談してください。
個別の事情によって、適切な対応は大きく異なります。

「追い出す」をやめると、選択肢が増える

ここまでお伝えしたかったのは、「どのような社員でも雇い続けるべきだ」ということではありません。
本人と組織の間に根本的なミスマッチがあり、雇用関係を終わらせることが必要なケースはあります。
ただし、「辞めさせる」「追い出す」という言葉だけで状況を見ると、経営者の選択肢は狭くなります。
相手を敵として見れば、相手も会社を敵として見ます。
会社が追い出そうとするほど、本人は現在の立場を守ろうとします。
その結果、会社が最も避けたいはずの、長期的な対立や紛争に発展します。

一方で、問いを変えると、見える選択肢も変わります。
「どう辞めさせるか」ではなく、「何が問題なのかを、事実として整理できているか」
「なぜ辞めないのか」ではなく、「本人はなぜ動けなくなっているのか」
「どう追い込むか」ではなく、「どのような改善機会や選択肢を示せるか」「誰が悪いのか」ではなく、「本人と組織のどこにミスマッチがあるのか」「会社の判断は正しいか」だけではなく、「判断に至るプロセスは公正だったか」
こうして考えることは、本人に甘くすることではありません。

感情的な対応を避け、必要な指導や判断を着実に進めるための、経営上の規律です。

まとめ

「辞めさせたい」という感情を抱いた瞬間は、人事に関する判断を担う人にとって、最も冷静さを失いやすいタイミングでもあります。
しかし、その時の判断が、会社の数年後を左右することがあります。
立ち止まることは、問題を先延ばしにすることではありません。必要な事実を集め、原因を見極め、本人と組織にとって最も損失の少ない道を選ぶための、重要な人事判断です。

その判断を支えるのが、日々の対話と記録です。

何が起きたのか。本人に何を伝えたのか。本人はどのように説明したのか。組織として、どのような支援や改善の機会を提供したのか。
こうした経緯が整理されていれば、印象や感情だけに頼らず、事実をもとに次の対応を考えることができます。

社員に「辞めてもらいたい」と思った時こそ、一度立ち止まる。
人物への評価だけで結論を急がず、何が起きているのかを事実から捉え直す。その積み重ねが、本人だけでなく、周囲の社員と組織そのものを守ることにつながります。

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