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ムーさんと平和。

尊敬している人は誰ですか。

そう問われたら、
ムーさんは迷うことなく答える。

祖父です、と。

祖父は、私にとって。
ヒーローだった。

それは文字通りの意味なのだが、
その話は、また今度。

今日はそんな祖父が、
何度も私にしてくれた話。

……戦争の話。

残念ながら、
私は記憶力が良くない。

大好きな祖父の話なのに、
ぽろぽろ崩れてしまって

わずかに残っている部分も
かなり、朧げだ。

苦手な数字に関する部分は、
特に怪しい。

それでも。

祖父がこの世を去り、
今年で15年。

覚えてることだけでも、
記しておこうと思う。

せっかく、
その機会を得たのだから。

昭和4年。
今から97年前。

東京の下町。

8人兄弟の長男として
生を受けた祖父は、

小学生の頃。
病気で母を亡くしている。

それ以来、庭師をしていた
祖父の父と共に、母親代わりとして
兄弟たちの面倒を見てきたらしい。

人一倍強い責任感と
全てを包み込むような安心感。

祖父のあたたかい人柄は、
幼くして大人にならざるを得なかったから。
そう考えると……悲しい。

生活は、
楽なものではなかったと思う。

学校へは行かず、
父の仕事の手伝いをしていたようだ。

そんな祖父に追い打ちをかけるように。

戦争が始まった。

17歳。
兵役が科される歳に、祖父は。

自ら志願して、兵隊となった。

戦闘機のパイロットになりたかった。

祖父はそう言っていたが、
その心境はどんなものだったのか。

物静かだった祖父は、
あまり多くは語らなかった。

家族が白い目で見られないように。
そんな思いもあったのではないか。

そんな気がする。

祖父は、そこから。
数奇な運命を辿ることになる。

兵隊となった祖父であったが、
結論から言うと。

空を飛ぶことは、なかった。

色んな偶然が、重なったのだ。

パイロットになるための身体検査を
受けた祖父であったが、

幸か不幸か。

祖父の視力は、
基準に満たなかった。

……祖父は、通信兵になった。

通信兵であっても、
戦闘機に乗る場合はある。

座席が二つ付いた複座機の
後部席で、通信を行うのだ。

モールス信号など、暗号の訓練を
受けたことを、祖父は語っていた。

祖父が配属されたのは、九九艦爆隊。

空母に乗る予定だったらしい。

しかし、祖父が乗るはずだった空母は
その直前で攻撃を受け、撃沈してしまった。

おそらく、「赤城」のことであると思われる。

それから祖父は、
北海道、千歳の基地へと送られた。

じわり、じわりと。

日本は追い詰められ、
残された兵力は、わずかだった。

そして、迎えた戦争の末期。

戦闘機の運用は、
誰もが想定していなかった
凄惨なものへと変貌していた。

……神風特攻隊。

ただ一つしかない命と引き換えに、
自ら爆弾となる。

燃料は片道分のみ。
文字通りの片道切符だ。

人の命を、使い捨てる。
悪魔の戦法。

敵国であったアメリカにすら、
Kamikazeで通じるほどに
世界を震撼させた。

しかし、皮肉にも。
この神風が、祖父の命を救うことになる。

出撃したきり戻ることはない決死隊。

その戦闘機に通信兵を乗せるのは、
無駄でしかない。

祖父は、基地での任務に従事した。

最後の方は、布団爆弾を背負って
上陸してきた米軍の装甲車の前に
飛び出し、轢かれる。

そんな訓練もしていたらしい。

そして迎えた、81年前の今日。

祖父はそのまま。
故郷から遠く離れた千歳の地で。

終戦を迎えた。

敗戦の知らせを聞くや否や、
威張り、偉ぶっていた将校たちは

一晩にして、
夜逃げしてしまったらしい。

残された祖父は、
心底、呆れ返ったと言っていた。

そして、このままだと
進駐してくる米軍に基地が接収された時
基地の備蓄も、全て奪われてしまう。

全て取られてしまうなら。
地元の人々へ配ろう。

祖父は、残された仲間たちと
トラックに備蓄品を目一杯詰めて、
配って回ったそうだ。

そして、進駐してきたアメリカ軍を
遠目に見た祖父は、愕然とする。

そこには、誰一人して
地面を歩くものはなく。

数多の軍用車両が、列をなしていた。

祖父は、力無くこぼした。

……勝てるはずが無かった、と。

残念ながら、私が覚えているのは、
これくらいしかない。

きっと、幼い私に語れないくらい
悲惨なこともあったはずだ。

プラモデルが大好きだった私を、
よく模型店に連れていってくれた祖父。

戦闘機のコーナーで、いつも呟いていた。
キュウキュウカンバクキは無いのか…。

当時の私には、
何のことかさっぱりわからなかった。

インターネットが普及した今、
祖父が探していたものが、
九九式艦爆機だったと知る。

祖父が乗るはずだった、爆撃機。

もし、祖父の目が良かったら。

もし、空母が無事だったら。

もし、神風が吹かなかったら。

私は、今日。
この世にいなかったかもしれない。


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