考古学者は辛いよ~“知性”の危機?
今回は、私の大好きな古代エジプト考古学者の河江削剰(ゆきのり)さんの動画を「なんちゃって」したいと思います。
私、最近はすっかり地上波はご無沙汰なんですね。その代わりに、ブルータスお前もか、ってな具合でYouTubeのお世話になってます。私が好んで見る番組は基本的に学術系(知識得られる系)ですね。試聴数目的の奇をてらった物は見ないです。見ている動画の中でも、とりわけ古代エジプト考古学者の河江削剰さんの番組は、大好きで欠かさず見ております。この人はかつて「世界ふしぎ発見!」のミステリーハンター?として出演したことも何度もあるので、姿をご覧になった方もおられるでしょう。
※学者になる前はツアーガイドのバイトをしていた…
本当に学者ですか?とツッコミを入れたくなるほどです。ジムのインストラクターですと言わんばかりの筋骨隆々な方です。どうやら格闘技が趣味なんだとか…。文武両道といった塩梅ですね。エジプトで発掘してますから、盗掘者を背負い投げ、なんてこともあるんですかねえ。(そんなのねえよ)
そんな河江さんですが、困ったことがあるようです。どうやら地上波で古代エジプトに関する怪しげな情報が放送されたようです。↓
私はこの「やりすぎ…」は単なるエンタメ番組以外の何物でもないと思っているんですが、世の中にはそれを「真実」と受け取る人たちが一定数いるようですね。
「信じるか信じないかはあなた次第です」
まあその通りですね。私は信じませんけど…。
いつもながら、番組のファンタスティックな結論に導く手腕には恐れ入り谷の鬼子母神です。この番組の、そういうところをエンタメとして楽しんでいます。つまり割り切って見ているということですね。大河ドラマを史実としてではなく、フィクションとして面白いかつまらないか、で私は見ます。それと同じスタンスです。大河ドラマはあくまでも「物語」なので。
この動画の中で、河江さんは半ばあきれ顔で、この番組で放送された内容を丁寧に否定されています。学者にとって、この手のことをイチイチ否定するのは労力の無駄ですから、河江さんも正直やりたくないようです。動画の中で述べられていますが、この手の番組は巧妙に事実を捻じ曲げます。いくつかの事実と並べて、ほんの少しのフェイクを混ぜる。そうすることで、あまり深く考えずに番組を見ている視聴者を、ファンタジーの世界へと誘うのです。番組制作者は、普段から番組を「作っている」ので、こうしたことはお手の物ですね。ですから、受け手は番組を真実として受け止めるのではなく、制作者の努力を愛でる姿勢で臨むことが肝要です。
「まあ、よく強引にくっつけたな。大したものだ」
その発想力に敬意を払う。そんな感じですね。
3大ピラミッドの建っているギザ大地は「海」だったと。だからピラミッドは浮力を使って作られた可能性がある、と番組では仰っているようです。これが実に賢いんですね。「ギザ大地は海だった」とだけ文字を切り取れば正解。ところがそれには条件がある。クフ王達がピラミッドを建設した当時、既にギザは海では無かったんです。この地が海だったのはもっとずっと前、5500万年前。ピラミッドが建設されたのは4500年ほど前です。桁が違いますね。情報を切り取って繋げることで、一つの「物語」を作る。番組制作者の苦心の創意工夫がここにあります。
ピラミッドが王の墓ではない、とする意見に対して、河江さんは以前動画で反証されていました。墓ではないとする根拠の一つは、クフ王の玄室(葬られた場所)がツタンカーメン王のそれと違って無機質で貧相なことでした。
※王の墓のイメージはこれ…
が、これも実は時代が違い過ぎる。日本で言うなら古墳時代と安土桃山時代程違う。クフ王の墓とツタンカーメンの墓を同列に考えることは、織田信長の墓を古墳で作るようなものですね。死生観が全く違うんです。クフ王の時代は、まだ玄室に「死者の書」などを描く習慣や発想が無かったんです。だから質素。それが当時(クフ王時代)のスタンダードなんです。私が思うには、玄室の豪華さではなく、墓そのものの大きさを比べたら、クフ王の方が圧倒的ですよね。だって、ピラミッド全体が墓なんですから。ツタンカーメンの墓は、王家の谷の一角でしかありません。申し訳ありませんが、ツタンカーメンは即位後ほどなくして亡くなってしまいますので、当時はさほど有名な王ではありません。その玄室の豪華さに目が眩んでしまい、思考が停止してしまうのだと思います。
※偉大な王の墓はこの規模で…
古代エジプトの死生観は、学者が数々の発掘や研究によって明らかにしたものです。それを単純なイメージで一瞬で否定してしまうのが、情報の渦の中にある現代です。情報が発信者によって簡単に「作られる」時代なのです。河江さんはこうした「トンデモ説」をイチイチ否定するのは面倒だ、というスタンスですが、私はそれはいけないと思います。この手の説が飛び交った時には、ちゃんと学者は否定しないといけません。放置すると、河江さんたちは仕事でエジプトへ行けなくなりますよ、と言いたいですね。それはなぜでしょうか?
一般の視聴者は、自分で積極的に正しい情報を取りに行く、ということをしません。与えられる情報の中から、自分たちの好きな物を選択しているに過ぎませんから。情報はオートメーション化されているのです。ベルトコンベアに乗せられたお気に入りの情報が機械的に流されて来るのです。能動的に情報を取得して分析することはしません。そういう人たちは、この手の番組で流される情報を「事実」だと認識してしまいます。エンタメだと割り切ることが中々出来ません。レポーターの迫真の演技と迫力ある音楽によって、「その気」になってしまいます。さらに番組として、ちゃんと免罪符を用意してある。それが「信じるか信じないかは…」という迷文句なわけです。情報がフェイクだった場合、信じたアナタが悪いのよ、となる。まあ、そのように意図的に誘導している番組製作者もどうかと思いますけどね。情報という物は、悲しいかな取得した者がどう理解するか、それが一番重要なんです。だから情報にかく乱されないためには、自分の頭を鍛えて情報リテラシーを高める以外に無いわけです。
もし、学者がこの手のトンデモ説をスルーしてしまったらどうなるでしょう?誰も否定しないのだから、それが真実だとして「流通」してしまいますね。そうなれば、誰も学者の研究に敬意を払わなくなります。むしろ、学者の仕事を嫌悪するようになるでしょう。そういう人が政府の偉い人になったらどうなるか?
「学術研究なんて意味無いから、補助金カットね。だってさあ、社会保障費を捻出しないといけないじゃんね。財政赤字なんで」
ということで、やがて、河江さんたちはエジプトへ行って発掘出来なくなるかも知れません。こうしたことが他の学術分野にも広がれば、日本から知性が喪失して行きます。知性が喪失するとどうなるか?きっと人間は先祖返りするでしょうね。サル化するってことです。↓
※真面目な話、ヤバいなあと思ってます…
だから河江さんには申し訳ないのですが、こうした眉唾物の説が流行した際には、しっかりとそれを検証して反論して欲しいのです。学者はただ自身の研究を推し進めるだけでは不十分だと思います。そこで得た情報を一般に還元しなければなりません。それが社会の知性の向上に役立ちます。同時に、誤りがあれば正すのも学者の努めだと思いますね。そうでなければ、社会意識の変容によって、やりたい研究が出来なくなる可能性があると思います。
もう一つ。ピラミッドのような建築物を宇宙人の仕業と考える人がいます。
※壮大なファンタジーの世界…
まあ結局、何をどう信じるのかはその人次第なんですけどね。
もし、あなたのやった辛い仕事を上司の手柄にされたら、どう思いますか?あなたの仕事の成果を、全て転属して来て間もない無能な上司が奪い去り、その上司が、有能なアナタを尻目にどんどん出世していく。そんなの嫌でしょ。私は絶対に嫌ですね。古代エジプト人だってそう思ってるでしょうね。ピラミッドに石を運ぶ最中に、事故で死んでしまう人も大勢いたでしょう。怪我をして一生を棒に振った人もいるでしょう。そんな人たちの血と汗と涙の結晶がピラミッドです。それを宇宙人の仕業にしてしまったら、人類の先祖たちは死んでも死にきれないでしょう。河江さんは「オカルトにはその先が無いからつまらない」とよく言っています。その河江さん自身も、最初はオカルトに興味があってこの世界に入ったそうです。でも、ピラミッドを実際に調べると「なぜ?もっと知りたい」という探求心が湧いて来たそうです。石には削った跡がある。どうやって削ったのか?テコを使った跡が残っている。どうやって道具を使って石を積んだのか?ピラミッドには、人間の営為が確実に刻まれているんです。それを無視して一刀両断で宇宙人の手柄にしてしまうのは、いくら事実が全て解明されていないからといっても、乱暴なやりようだと思います。
私は宇宙人は確実に存在すると思っています。だって、私たちがいますから。私たちも宇宙の住人です。つまり宇宙人です。この銀河や宇宙には岩石惑星が至る所に存在しています。地球のように、偶然生命が誕生する環境(ハビタブルゾーン)にある惑星も枚挙に暇が無いでしょう。我々だけが独りぼっちということはありません。どこかには必ずいるに違いありません。でも、どうかなあ、いたとしても、彼らが地球をそんなに特別視しているとは思えないんですけど。そりゃあ、宇宙戦艦ヤマトみたいに、自分たちの星の危機を乗り越えるために誰かがやって来ることだってあるだろうけど。
※遥かイスカンダルへ…
こんなに面倒くさい星にワザワザ来るかなあ。もっと住みやすい星はいくらでもあるだろうに。それに、光年単位の時空の旅を難なくこなす超ハイスペックなテクノロジーを持ってる宇宙人ですからね。地球に来たらアッという間に人類を滅ぼしちゃうかも。信長が武田家を滅ぼしたみたいにね。宇宙人だって征服欲求は普通にあるでしょ。地球人の感覚を相手が持っているとも限りません。そもそも、地球人同士でさえ争っているんですから、星が違えば尚更ですね。
※宇宙人に「常識」は通じない…
それはさておき、過去への敬意を払えないと、その場限りの刹那的な社会が当たり前になっていくような気がしますね。古代エジプト人たちの努力や知性を無視してしまうことは、私たちの日々の営為に対する軽視にも繋がりかねない重大事だと思います。歌にもあるでしょう。
「何でもないような事が幸せだったと思う」
と。私たちの何でもない営為の積み重ねが、現代の社会を形作っています。
分からなければAIに任せて何事も簡単に処理してしまう。デジタルは本来人間の生活を豊かにするために考えられたシステムだと私は思います。しかし、人間はデジタルの使い方を間違っているような気がしますね。豊かではなく楽をするために使ってしまっている。その先に待つ社会が、どれほど乾燥したものになるのか想像もしないで…。
楽に知識を得ようとするムーブメントに対して、私は今、この情報社会の渦の中で知性の喪失を感じています。が、
信じるか信じないかはアナタ次第です!
恐々謹言
