盛岡雑感 さわや書店本店がすごい!

書店の衰退

ここ30年でもっとも少なくなった商店の一つが、街の本屋さんだと思う。
自分は一時期、版元(出版社)の営業をやっていたので、全国のいろいろな書店を回っていた時がある。もう20年以上前の話だ。

その頃はまだまだ書店も元気があり、個性的な書店も数多くあった。
こだわりを持った書店もあるが、そんなに専門的な知識がなくてもできる商売が書店だった。

まず本(書籍・雑誌・コミック)は委託販売で、売れないときには返品もできるということで、昔は箱(店舗)さえあれば倒産しない商売などとも言われていた。要は売れなかったら返品すれば、お金も返ってくるということだ。儲けも少ないが、リスクも少ないということで、商売をこれから始めようという人にとっては、ハードルの低い業種でもあった。さらに本に詳しくなくても品揃えは、仲介業者である取次が見繕ってくれるので、まあやってみようか的な感覚で始めることができる業種だったのだ。

特に私が小学生の頃(昭和40年代後半)は、お手軽な娯楽と言えば、テレビを見ること、その次くらいには漫画を読んだり、雑誌を読んだりすることだったと思う。家の近くにも小さな本屋が2つあり、よく漫画や雑誌を立ち読みしていたものだ。同級生には漫画を立ち読みするため、弁当まで持ち込む猛者もいた。今では考えられない感覚だが、大きな問題になることもなく、おさまっていたのどかな時代だった。
品揃えだって大したものじゃなかったけど、それでも長年存在していたので、それなりに成り立つ商売だった。

もちろん今その2つの本屋はなくなっている。いまや読書はマイナーな趣味である。コミックだって、アニメになるほど人気が出れば、誰でも知っているのだろうが、少年ジャンプを毎週買う人が、今はどれくらいいるのだろうといった感じである。

盛岡三大書店とジュンク堂書店の進出

盛岡の昔からの大型書店と言えば、肴町の東山堂書店、大通りの第一書店、さわや書店の3つだった。

現在、第一書店はなくなってしまった。第一書店の2階には洋書なども置いていた。3つの中でも、もっともアカデミックな感じの書店で、高校生の頃は一番好きな書店だった。

東山堂書店は、総合書店という感じだったが、川徳が菜園に移転して、店舗のある肴町は一気に衰退してしまうのに伴って、お店も衰退してしまった。ただ今でも営業は続けていて、肴町に行くと気になる書店である。

さわや書店もいまだに営業中である。昔のさわやは上記の2書店と比べると個性が少ないような気がしていたが、自分が書店営業をしていた頃は、コミックに詳しい方が担当していて、コミックに関しては追随を許さないマニアックな売り場を展開していた。

しかし、現在大通りの書店と言えば、ジュンク堂書店である。
ジュンク堂はもともと関西の書店で、私が版元の営業をしていた90年代に大きく業績を伸ばし、店舗を拡大していった。いまでも書店業界の巨人として君臨している。
盛岡のジュンク堂もできた当初はMOSSビルの3階に書籍と雑誌、4階にコミック、とほかの書店では到底太刀打ちできない在庫を持っていた。さらに文具は2階の丸善で販売していた。しかしそんなジュンク堂も現在は3階のワンフロアにすべて集約され売り場は大きく縮小されてしまっている。

それでも、盛岡市内では一番品揃えがしっかりしていて、本を探そうとなったらジュンク堂に行くことは多い。

タイムスリップする書店

さて、やっと今日の本題、さわや書店である。
縮小したとはいえ、書店界の巨人ジュンク堂に、さわや書店はどうやって対抗しているのだろうか?

さわや書店は地元書店で、郷土関連は充実している。郷土コーナーには、たまに立ち寄っていたのだが、よく売り場を観察して、「むむむっ、これは」と改めて感動してしまった。

結論から言うと、ジュンク堂に対抗なんて、これっぽっちもしてないということである。

「ここは新刊書店なのか? 古本屋なのか?」
「昭和にタイプスリップしたのか?」

まずは書店の顔と言えば入り口近くの平台である。
しかし、新刊が見えない。いやあった。一番端に「成瀬は天下を取りに行く」の文庫がある。
横の棚は書籍ではなく、今はやりの食料品などの雑貨が販売されている。
その奥では小フェアでポップが立っている。
特集は中上健司と寺山修司。さらに文芸棚で一番最初に目に飛び込んできた作家名の仕切りが向田邦子。

郷土関連で、入ってきたポップは「さわやか旋風」。これは、私が小学生の時に甲子園に初出場した盛岡三高が活躍した時のフレーズである。これは絶対自主製作本だろう。この言葉に反応するのは60歳以上の人間か、三高関連の人だけである。

新書コーナーはほとんどが岩波新書で占められている。それも青版。背表紙が黄色くなり始めている。今の岩波新書と言えば、赤い表紙を思い浮かべる人がほとんどだろう。

岩波書店はもともと返品を受け付けていない書店泣かせの版元だったので、小さな本屋はほとんど岩波書店の本は置かないのだが、さすがさわや書店、ずっと返品しないで持っていたんだろうな。背表紙の黄ばみがそれを物語っている。

新書の奥の棚では、戦争関連の本が並んでいる。沖縄関連も一緒に置かれている。古きよきリベラルな品揃えである。今はやりのネトウヨ系は一切なし。ここまで思想がしっかり打ち出されているのも気持ちいい。担当者がしっかり選別していることがわかる棚つくりだ。

雑誌コーナーでは、棚の上に「レコードコレクターズ」のバックナンバーがビニールに包まれて何冊も置かれている。「ミュージックマガジン」ではなく、「レコードコレクターズ」というのがいい。女性雑誌の棚の上には「anan」のバックナンバー。宝塚関連雑誌のバックナンバーもひと棚使ってしっかり揃えている。

文庫棚では上段のほうで、小フェア的な展開で能町みね子の文庫が並べられている。能町は夏は青森在住らしいので、郷土関連と言えばそうかもしれない。能町くらいだとここでは新しい作家である。

そんなこんなで、さわや書店を見てみたが、これはもう新しい情報を置く書店ではなく、本という趣味を持った人に向けて、さわやの担当者が「趣味が合ったら買ってください」的な「我が道を行く」書店である。

情報を売るジュンク堂とはまったく向かうベクトルが違っている。

品揃えがいいわけでもなく、平台でも1冊とか2冊とか、少ない冊数しかないけれど、やっぱりたまには来て、じっくり見ていきたい書店である。

出版業界は本当に厳しいけれど、これからもがんばってほしい。

この日に購入した本 (2025年11月27日)


『高橋竹山に聴くー津軽から世界へー』佐藤貞樹 津軽書房 《未発表ライブ音源CD付》 
 ※音楽棚の平台に一冊だけ置かれていたもの。竹山の自伝なども持っているが、未発表ライブ音源に惹かれてしまった。
『本屋、地元に生きる』さわや書店・現役書店員 栗澤順一 KADOKAWA
 ※作者の肩書が気になる。さわや外商部の著者の奮闘記
『この国のかたちを見つめ直す』加藤陽子 毎日文庫 毎日新聞出版
 ※これは2025年発行の新刊に近い。学術会議でも有名になった著者が文庫で読めるのはうれしい。この本も戦争棚の平台に置かれていた。それにしても毎日新聞出版でも文庫があることを知らなかった。
『正直申し上げて』能町みね子 文春文庫 文藝春秋
 棚の小フェアで表紙が楽しそうだったので、思わず買ってしまった。
『蝦夷の末裔 前九年・後三年の役の実像』 高橋崇 中公新書 中央公論新社
 ※1991年発行。郷土関連本でレジ脇で発見
『ものいわぬ農民』大牟羅良 岩波新書 岩波書店
 ※いわずと知れたロングセラー(1958年発行)。持っているような気もするが一応買っておく。


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