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観光通訳に求められるスキル

「通訳」という職業があります。外国語を日本語に訳す専門家のことです。

皆様にとって通訳の存在をもっとも身近に感じるのは、スポ―ツの場面ではないでしょうか?野球のヒーローインタビューや、サッカーの記者会見などで通訳を目にする機会が多いです。

一言で「通訳」と言っても、通訳には様々な分野があります。

たとえば、私は外国人向けの観光ガイドをしているので、ジャンルとしては「観光通訳」になります。スポーツの通訳は「スポーツ通訳」ですし、医療分野の通訳は「医療通訳」、司法分野の通訳は「司法通訳」となります。

そして、分野によって通訳に求められるスキルが異なります。そのため、通訳という肩書を持っていたとしても、「この分野の通訳はできるけど、あの分野の通訳をできない」といった状況が発生することがあります。

今回は、私の畑である「観光通訳」に求められるスキル・能力を紹介します。


🍀🍀🍀

通訳別の難易度

観光通訳というのは、他の分野の通訳に比べてどのくらいの難易度でしょうか?

まず、もっとも難易度の高い通訳は「医療通訳」と「司法通訳」です。

理由は2つあります。

1つ目が、尋常ではない責任感を背負わなければならないという点です。裁判であれば判決につながり、医療であれば生命につながります。1語たりとも翻訳ミスや翻訳漏れをしてはいけません。通訳のミスが、その人の人生を、もしかしたらその人の生命を左右することになるかもしれません。ミスが許されない環境に置かれるため、極めて難易度が高いです。

2つ目が、とてもたくさんの専門用語や決まった言い回しを覚えなければならないという点です。「尿管結石」「潰瘍性大腸炎」「器物損壊罪」「危険運転致死傷罪」など、通常の語学の勉強では絶対に出てこない単語を学ばなければなりません。

「医療通訳」と「司法通訳」ほどではないですが、「スポーツ通訳」も特殊で難しい分野です。

医療や司法と同様に、スポーツで使われる単語も特殊です。専門用語を1つ1つを正確に覚える必要があります。

また、通訳の瞬発力も求められます。記者会見などの場において、事前に記者が何を質問するのか、選手が何と回答するのかを知ることができません。事前に準備することができないので、質問をすぐに訳し、回答をすぐに訳すという瞬時の判断が求められます。

もしかしたら、スポーツ通訳でもっとも重要なのが度胸かもしれません。

たとえば、スタジアムでのヒーローインタビューを想像してみてください。何万人ものファンに囲まれ、何台ものカメラで全国に放送されている状況で通訳をしなければなりません。しかも、少しでも言葉に詰まれば「あの通訳イマイチだった」とネットで叩かれます。強い精神力がなければ務まりません。

「医療通訳」「司法通訳」「スポーツ通訳」と比べると、「観光通訳」は比較的楽な分野だと思います。つまり、通訳の中ではなりやすい職業だと言えます。



観光通訳に必要なスキル

通訳と聞くと、誰も最高レベルの語学力を保有しているように思ってしまいます。

たしかに、「医療通訳」と「司法通訳」に携わっている方は、翻訳ロボットになれるほどの語学力を有しています。同じ通訳として尊敬に値する存在ですし、個人的には天上人のように崇めています。

しかし、観光通訳では語学力をそこまで求められません。もちろん語学力は必要ですが、完璧である必要はありません。発音が滑らかでなくても、文法が正しくなくても、少し言い間違えてしまっても、仕事に大きな問題が生じることがありません。

観光通訳の最終目的はお客様に楽しんでもらうことです。

この目的を実現するため、語学力以上に観光通訳に求められるスキルが3つあります。

1つ目は体力です。

観光ガイドは基本的に肉体労働です。歩きます。相手の行きたい場所ならどこへでもついて行きます。こちらがお客様に「NO」と言える場面は滅多に訪れないので、相手に合わせて動く体力が必要です。

40度近い真夏の炎天下で、お客様のペースに合わせて歩きながら外国語を話すというシチュエーションを想像してみてください。どんなに完璧な語学力を持っていても、体力がなければ仕事をできません。

2つ目はコミュ力です。

たまに「語学力=コミュニケーション能力」と勘違いしている方がいます。ですが、語学力とコミュニケーション能力はまったくの別物です。英検1級を持っている人よりも、英検3級しか持っていない人のほうが外国人の友達が多いという状況は普通にありえます。

私は「コミュニケーション能力=雑談力」だと思っています。相手に話題を振ってあげる。相手から振られた話題を広げる。冗談を言って笑いを取る。そんなことをできる人が、コミュニケーション能力の高い人ではないでしょうか。

観光通訳は、歴史や文化や建物を説明するだけの存在ではありません。むしろ、一日中行動を共にするので、説明のシーンよりも日常会話のシーンのほうが圧倒的に多くなります。そのため、雑談力が非常に重要になります。

医療通訳と司法通訳ではコミュニケーション能力は不要です。自分の感情を入れたり出したりしてはいけない場であるため、むしろコミュニケーション能力は邪魔になります。

具体的に言うと、警察の取り調べに協力する通訳が、容疑者とコミュニケーションを取ったり、その場を和ませるようなユーモアを発揮する必要はまったくありません。

3つ目は発見力です。

私が観光ガイドをしているときは、言葉は非常に悪いですが、自分がお客様の忠実な奴隷だと思うようにしています。

重たいバッグを持っていないか。お客様が何を求めているのか。どんな説明をしたら喜んでくれるのか。疲れていないか。飽きていないか。無言の時間を作らないためにどんな話題を振ればいいか。母国に関する雑談はどんなテーマにするか。

1にも2にもお客様のことを考えて、日本旅行を快適に楽しんでもらうために何が必要かを常に探す力が大事になります。



スキルを磨くために

では、こうしたスキルを磨くために何をすればいいでしょうか?

私は「同業他社と比較しない」ことを重視しています。

もちろん、他の観光ガイドから学ぶべきところはたくさんあります。私よりも優れている観光ガイドは五万といます。

だったら他の観光ガイドから学べばいいじゃないかと思うのですが、私の性格上、他人と比較すると自分の悪いところ・出来ていないところばかりに目がいって落ち込んでしまいます。

落ち込むのは精神衛生上良くないです。また、他人から学ぶことは大事ですが、他人から学び始めたらキリがなくなります。そのため、私は他の観光ガイドと自分を比較することを止めました。

ではどうやってスキルを磨いているかというと、私はお客様から直接フィードバックをもらうことにしています。

食事の時間や移動の時間で、「説明不足だったことはないか?」「自分の外国語がちゃんと通じているか?」「何かしてほしいことはないか?」などをさりげなく聞き出し、それをスマホのメモに残して後で振り返れるようにしています。

あとは、「この話題はウケた」「この場面や会話は興味深かった」といった記録も簡単に残すようにしています。

これはどの職種にも言えることだと思いますが、他人から学ぶよりも、自分で実際に体験して学んだほうが身になります。


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