バナナ
私が四歳の頃。
おじいちゃんの家へ
遊びに行った夏のこと。
親戚中が集まり、宴会で賑わっている中、従兄弟たちと私は、おじいちゃんの部屋へ呼ばれた。
おじいちゃんは一枚の古い写真を見せてくれた。
軍服を着て、ちょび髭を生やした若い頃のおじいちゃん。
どこか誇らしげだった。
「この髭はな、
ちょっとでも偉そうに見せるために生やしたんだ」
そう言って笑った。
子どもの私たちも笑った。
そしておじいちゃんは、昔の話を始めた。
「フィリピンに行ったときはな、
毎日バナナを食べて贅沢してたんだ」
当時の私には、それが何の話なのか分からなかった。
太平洋戦争中、フィリピンへ行ったときの出来事を、まだ幼い孫たちに聞かせたかったのだろう。
不思議なことに、
おじいちゃんの戦争の話に恐怖はなかった。
兵長に目をかけられ、可愛がられたこと。
現地の人に日本語を教えたこと。
そして、バナナ。
「腹いっぱい食べた。
帰るときには、箱いっぱい土産にしたんだ」
戦争の話をしているはずなのに、
おじいちゃんは楽しそうだった。
やがて話を終えると、
私たちにアイスクリームを配ってくれた。
私たちは冷たいアイスを頬張りながら、
おじいちゃんを見ていた。
そのときだった。
一瞬だけ、
おじいちゃんの顔色が変わった。
何がきっかけだったのかは覚えていない。
なぜそんな顔をしたのかも、四歳の私には分からなかった。
ただ、その表情だけは今でも覚えている。
子ども心にも、
その一瞬の違和感が少し怖かった。
それから何十年も経った。
戦争について知るようになり、
あのときのおじいちゃんの話を思い出すことがある。
あの一瞬、
おじいちゃんは何を思い出していたのだろう。
戦地で何を見て、
何を聞き、
何を胸の奥にしまって帰ってきたのだろう。
今となっては
もう知るすべはない……。
