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〜それでも、少しだけ立ち止まりたかった〜

サボっているわけではない。
誰かに迷惑をかけているわけでもない。

それなのに、ソファに深く腰掛けた瞬間。
あるいは、カフェで一杯のコーヒーを前にしたとき。

心のどこかで、小さな警告音が鳴る。

「こんなことをしていて、いいのだろうか」

本当は、少し疲れていただけ。
本当は、ただ息を整えたかっただけ。

それなのに僕は、
そのささやかな「ひと休み」に、
どこか背徳の匂いを感じてしまう。


泳ぎ続けてしまう僕たち

やりたいことが多い。

読みたい本もある。
書きたいこともある。
勉強したいこともある。
運動もしたい。

少しでも「昨日の自分」より、
前に進んでいたい。

だから、ついつい休むことを忘れてしまう。

まるで、見えない誰かと競い合っているように。


誰に急かされているわけでもない。
誰かに追い抜かれたわけでもない。

それなのに、立ち止まることが少し怖い。

止まったら遅れてしまう。
休んだら何かを失ってしまう。

そんなふうに、どこかで思い込んでいる。

けれど、よく考えてみれば、
僕たちはマグロでも、カツオでもない。

止まったからといって、
呼吸ができなくなるわけではないのだ。

立ち止まったからといって、
これまで必死に積み重ねてきたものが、
水に溶けて消えてしまうわけでもない。

ただ少し、息を整えるだけ。
ただ少し、自分の心に戻るだけ。

それなのに、その当たり前の休息にさえ、
僕はどこか後ろめたさを覚えてしまう。


自分を焦らせているもの

僕を焦らせているのは、
きっと他人ではない。

自分自身だ。

自分の最大の敵は、
いつだって自分の中にいる。

立ち止まったときに感じる不安。
このままでいいのだろうか、という焦り。
「もっとできるはずだ」という期待。

それは、誰かに押しつけられたものではなく、
将来の自分に対して、
今の自分が勝手に抱いている期待なのだろう。

だからこそ、苦しくなる。

まだ諦めていないから、急いでしまう。
もっと良くなりたいと願うから、
休むことが怖くなる。

そう考えると、
焦りの正体は、ただのネガティブな不安ではない。

その奥底には、
「まだ自分の人生に期待している自分」が、
確かに生きている。

それは決して悪いことではない。

けれど、その期待で自分を追い込みすぎると、
いつの間にか心が息切れしてしまう。

期待は、自分を責めるための刃ではなく、
今日を丁寧に生きるための「灯り」にしたい。

焦らせるためではなく、
自分を大切にするための力にしたいのだ。


見えない締め切り

もう、受験があるわけではない。
何かの資格試験が待っているわけでもない。

誰かに順位をつけられるわけでも、
合格か不合格かを突きつけられるわけでもない。

それなのに、なぜか急いでしまう。

最近、ぼんやりと、
「自分の人生の賞味期限」について考えることがある。

いまの生活。
仕事。
趣味。
老後のこと。
これからやってみたいこと。

普段は意識の隅に追いやっているけれど、
ふとした瞬間に思い出す。

人生には、必ず終わりの瞬間があるという事実を。

考えないようにしていても、
時間は確実に、平等に進んでいく。

限られているのは、
仕事の時間でも、勉強の時間でもない。

限られているのは、
「人生の時間」そのものだ。

そう思った瞬間、
心のどこかが急に走り出す。

あれもやりたい。
これもやっておきたい。

まだ間に合うだろうか。
今からでも遅くないだろうか。

そんなふうに思考を巡らせているうちに、
気づけばまた、休むことを忘れている。


人生を逆算する

少し重たい話に聞こえるかもしれないが、
最近、人生を逆算して考えるようになった。

たとえば、
もし100歳で人生のゴールを迎えるとしたら、
僕にはあと何年残されているのだろう。

その限られた時間の中で、
何をしたいのか。
誰と過ごしたいのか。
何を残したいのか。

そして、
何を、もう手放してもいいのか。

もちろん、人生は計画どおりには進まない。
予定どおりにいかないことのほうが、きっと多い。

それでも、
「時間は無限ではない」と強く意識するだけで、
生き方の純度が少しだけ変わる気がする。

やりたいことを、後回しにしすぎない。
会いたい人に、会えるうちに会う。
大切なものを、大切にできるうちに大切にする。

それは、人生を諦めるための引き算ではない。

「何をやらないか」を決め、
本当に愛するものだけを、
この手につかみ取るための仕分けなのだ。

そう思ったとき、
不思議と少し、心が楽になった。

終わりを考えることは、
暗いことばかりではない。

むしろ、今この瞬間を雑に扱わないための、
小さな灯りになる。


立ち止まることも、生きること


限られた時間だからこそ、
ずっと泳ぎ続けなくてもいい。

立ち止まることは、
人生を諦めることではなく、
人生をちゃんと味わうための時間だ。

焦ってばかりいると、
目の前の美しい景色を見落としてしまう。

急いでばかりいると、
自分の心の声が聞こえなくなってしまう。

本当は、何のために頑張っていたのか。
本当は、誰と笑いたかったのか。
本当は、どんな時間を大切にしたかったのか。

それを思い出すためにも、
ひと休みはきっと味方になってくれる。

それは、歩みを止めるための休みではない。

もう一度、自分の足で歩き出すために、
静かに息を整える時間なのだ。

だから、急ぎすぎずに生きたい。

やりたいことがあるからこそ、
一歩一歩を噛みしめる。

限られた人生だからこそ、
ときには立ち止まる時間を自分に許す。

少しだけ後ろめたくて、
少しだけやさしい、
そんな時間。

僕にはきっと、
この「背徳のひと休み」が必要なのだ。

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