著作権法備忘録:著作権法第31条第1項第1号はどう変わったか

 数年前、著作権法第31条(図書館等における複製等)第1項第1号のなかに、図書館において著作物を全部複製できる場合として、「発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個々の著作物にあつては、その全部」が挙げられていた。つまり、この文言が含まれることで、最新号より前号の雑誌に掲載されている記事・論文を、図書館で全部複製(複写)できる法的根拠となっていた。

 しかし、現行法令(令和7年6月1日施行:令和5年法律第33号が最新改正)を確認したところ、それらの文言が第31条から消えていた。それだけでなく、条文の文言全体が大きく変わっている。
 では、2025年8月30日現在、「発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個々の著作物にあつては、その全部」という文言はどこへ行ってしまったのか。本稿は、備忘録的にそれを残しておくことが目的である。


 なお、本稿では下記について、特に断りがない場合、その右記に記載のものをさす。
「著作権法」→著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)
 ※最新改正は、著作権法の一部を改正する法律(令和五年法律第三十三号)令和7年6月1日 施行
「著作権法施行令」→著作権法施行令(昭和四十五年政令第三百三十五号) 
 ※最新改正は、著作権法施行令の一部を改正する政令(令和六年政令第二百四十六号)令和6年8月1日 施行

結論

 いきなりだが、結論から述べよう。「発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個々の著作物にあつては、その全部」は、著作権法施行令第1条の4第1項第2号「発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個々の著作物」として移行した。これは、著作権法第31条第1項第1号に認める「著作物の全部の複製物の提供が著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある著作物」に当てはまる。つまり、図書館実務において、最新号ではない雑誌の論文・記事はその全部複製(複写)が依然として可能であるということだ。
 この点だけ確認できれば十分だという人は、これ以降の文章は読まれる必要はないだろう。これ以降は、法律構成の変化について述べるので、その点に興味がある人は読まれるとよい。

いつ変わったのか

 そもそも著作権法第31条はいつ変わったのか。これは、令和5年6月1日 施行の著作権法の一部を改正する法律(令和三年法律第五十二号)によるものだ。

どう変わったのか

 現行法令では、第31条第1項の柱書および第1号は、次のとおりである。

(図書館等における複製等)
第三十一条
 国立国会図書館及び図書、記録その他の資料を公衆の利用に供することを目的とする図書館その他の施設で政令で定めるもの(以下この条及び第百四条の十の四第三項において「図書館等」という。)においては、次に掲げる場合には、その営利を目的としない事業として、図書館等の図書、記録その他の資料(次項及び第六項において「図書館資料」という。)を用いて著作物を複製することができる。
一 図書館等の利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分(国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が一般に周知させることを目的として作成し、その著作の名義の下に公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これらに類する著作物(次項及び次条第二項において「国等の周知目的資料」という。)その他の著作物の全部の複製物の提供が著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情があるものとして政令で定めるものにあつては、その全部)の複製物を一人につき一部提供する場合

 一方で、それ以前の著作権法では、同条第1項の柱書および第1号はどうだったか。たとえば最新改正が令和5年5月26日 施行著作権法の一部を改正する法律(令和五年法律第三十三号)の時点では、次のとおりだった。

(図書館等における複製等)
第三十一条 国立国会図書館及び図書、記録その他の資料を公衆の利用に供することを目的とする図書館その他の施設で政令で定めるもの(以下この項及び第三項において「図書館等」という。)においては、次に掲げる場合には、その営利を目的としない事業として、図書館等の図書、記録その他の資料(次項において「図書館資料」という。)を用いて著作物を複製することができる。
一 図書館等の利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分(発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個々の著作物にあつては、その全部)の複製物を一人につき一部提供する場合

 つまり、「発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個々の著作物」については、令和7年6月1日より前は、著作権法第31条第1項第1号において「全部複製が可能な場合」として規定されてた。
 しかし、令和7年6月1日以降は、同号の文言が変更され、「著作物の全部の複製物の提供が著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情があるものとして政令で定めるもの」とされた。これにより、全部複製が可能な場合は政令(著作権法施行令)によって定められることになり、その対象の一つとして、引き続き「発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個々の著作物」が挙げられることになったのだ。

余談:印象の薄さについて

 最後に余談だが、この変更点については公衆送信規定改正等の陰に隠れてしまったような印象を受ける。管見の限りでは、文化庁の説明資料で大きく取り上げられているものを見つけられなかった(※1)。この変更によって「最新号の論文記事は全部複製不可、前号までは複製可能」という原則が変わることはないため、実務上に大した影響はないからであろう。
 一方で、図書館のウェブページで、著作権法31条が古いまま引用・説明されているものが未だにある。31条の改正により、利用者向けの広報をどう変えなくてはならないのか。こういった点が、深く考えられていないことを示す事例であり、図書館界の今後の課題である。


脚注

※1 令和3年通常国会 著作権法改正について | 文化庁
2025年8月31日アクセス


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