【掌編】🕯手(I–III) 三つの接触の記録
言葉が届かない場所でも、手だけは嘘をつけない。
小さくなってしまった母の、遠慮がちな掌(てのひら)。愛されるために、見知らぬ私の指を握りしめた子どもの手。そして、去っていったあの人がキーボードに叩きつけた、暴力的なまでの指の跡。 これは、温もりと、打算と、消えない痕跡についての、三つの接触の記録です。
今夜、あなたの手は、誰かに触れましたか?
手 Ⅰ
皺だらけの手が、私に触れた
母の手が、私の手に触れた。
その触れ方は、驚くほど遠慮がちだった。
我が子なのに、と私は思った。
私はずっと母の子どもだった。
子どもの頃、母はいつだって「手をつないでいなさい」と言った。
私はよく動く子どもで、どこにでも出かけていって、そして怪我をした。
危ない、世の中は危険だらけ——だからお母さんと手をつなぐのよ、と母は言った。
だが、思春期になった頃、母とは手をつながなくなった。
母は「外に行きなさい」と言った。
どんな気持ちだったのだろう。
社会に出ていけと、母は手を離し、背中を押したのだ。
あれから、たくさんの時間が流れた。
母は小さくなり、皺だらけになった。
もう自分の力で起き上がることさえできない。
だから母は——皺だらけの手を伸ばして、私に触れたのだ。
母さん、手をつなごう。母さんが母さんでいてくれる間に、もっと、手をつなごうよ。
手 II
小さな手が、私の手の中に入ってきた。
私の子どもではなかった。
それなのに、その小さな手は、あまりにも無防備に、
私の手の中に入り、私の指を握った。
小さな目が私を見ていた。
何かを見透かすように。
私の目の奥に、真実があるかもしれないと——
そんなふうに探る、小さなまなざしだった。
その手は、私の指をぎゅっと握った。
絶対に離さないとでも言うように。
この手は、何を求めているのだろう。
私がこの小さな子に、何か与えられるものがあると思うのだろうか。
たぶん——
この小さな手は、願っていた。
信じたい、愛されたい、と。
そして、生きていきたいのだ、と。
だから、私にまで求めたのだ。
「誰でもいいから、手をつないでいてほしい」と。
ただ、それだけを。
手 III
彼の手のあとが残っていた
私たちの元を去った彼が残したコンピュータ。
そのキーボードには、彼の手のあと、指の跡が残っていた。
彼はここで、いくつもの文字を、言葉を紡いでいた。
厳しい言葉もあった。
ナイフのように、誰かの心を刻むような文もあった。
優しい文もあった。
一つのメッセージが、誰かの気持ちを救うこともあった。
今、彼の手は、どこにあるのだろうか。
誰かのために使われ続けているのだろうか。
それとも、やっとあの手は休んでいるのだろうか。
少なくとも、安らかであってほしい。
……いや、彼のことだ。
今もどこかで働いているのだろう。
誰かのために。
もしかしたら彼自身のために。
