FOSS4Gの生みの親 - ラガワン先生最終講義に参加
はじめに
今日、QGISをはじめとして、FOSS4Gと呼ばれるオープンソースの地理情報ソフトウェアは、世界中で幅広く利用されている。OSGeo Foundationの元に、世界各地にOSGeoコミュニティが組織され、日本では一般社団法人OSGeo日本支部が活発に活動し、今年の8月末には日本で初めてのグローバルカンファレンス「FOSS4G Hiroshima」が開催される。
大阪公立大学のベンカテッシュ・ラガワン先生は、文字通りFOSS4Gを世界で初めて提唱し、コミュニティを立ち上げた人として、世界に広く知られている。今回、退任されるにあたり、3月20日に大阪公立大学杉本町キャンパスで開催された、最終講義に参加してきた。

この最終講義のためにFOSS4Gのレジェンド達が参集
今回のラガワン先生最終講義のために、欧州、北米、アジア各国から、数十名のFOSS4Gコミュニティへの貢献者が集った。
韓国からはGAIA3DのShinさん、イタリアのミラノからMaria先生、フランスからGeraldさん、MapTilerのNicolasさん、タイのPrasongさん、同じくPongsakornさん、Sarawut先生などなど、数え上げたらキリが無いほど。
もちろん、日本国内からもFOSS4Gの創成期から貢献してくださっている林さん(応用技術)をはじめとして、GRASSとMapServerの国際化プロジェクトで大阪市立大学院生として尽力していただいた根本さん(現:大阪公立大学准教授)、野々垣さん(現:産業技術総合研究所)、吉田さん(現:大阪公立大学准教授)、ロケージングの上田さん、福岡の田中さん、大阪市立大学出身の北島さん(現:エアロトヨタ)など、ラガワン先生の広範なネットワークをいかんなく発揮させるような集まりとなった。

ラガワン先生の歩み
最終講義は、ラガワン先生の歩みをたどる内容だった。以下にその一部を紹介する。
インドのご出身で大阪市立大学で博士号を取得
ラガワン先生はインドのご出身で、文科省の奨学金を得て大阪市立大学で博士号を取得されている(専攻は地質学)。大阪市立大学でリモートセンシングの衛星画像の解析による地滑り危険エリアの抽出という研究テーマを行う中で、GRASSという衛星画像解析ツールにたどり着き、日本でGRASS活用の第一人者となった。
GRASSの利用に留まらず、普及活動も
先生は、単にご自分の研究テーマにGRASSを活用するだけで無く、学生達にもGRASSの利用方法を習得するための講義を、同僚の升本眞二先生と共同で行い、その内容を当時まだ普及し始めたばかりのインターネットで公開した。


大阪市立大学大学院時代にベトナムから留学していた研究者の協力も得て、国際カンファレンスも開催されている。

私との繋がりのきっかけ
2003年、私が地理情報システムの普及を目的として、オークニーという会社(現UPWARD株式会社)を起業したのだが、商用のツールは高額で、そこが普及の一番の障害になっていた。
色々悩んだあげく、オープンソースの地理情報システムならば、普及しやすいと思って検索をしてたどり着いたのが、このラガワン先生と升本先生によるGRASSのインターネット講義だった。
そこから全ての歴史が始まった
2003年5月か6月だったと記憶している。当時会社のあった横浜から、大阪市立大学杉本町キャンパスのラガワン先生と升本先生を訪ね、GRASSと共に、MapServer(北米のコミュニティで開発されていたオープンソースのWebGISツール)の日本語化(国際化i18n)の共同プロジェクトを提案した。

当時、IPA(情報処理推進機構)は、オープンソース活用基盤整備事業を行っており、幸運にも2003年度の支援事業として採択され、株式会社イー・ソリューション・サービスの協力も得て、プロジェクトが実現する運びとなった。



ゲームチェンジャー
私とラガワン先生との出会いは、結果的にFOSS4Gの歴史の転換点になった。2004年9月にバンコクで最初のFOSS4Gカンファレンスが開催され、GRASSとMapServerコミュニティメンバーが交流し、2006年のOSGeo財団の設立に繋がった。
最終講義の後の懇親会で、ラガワン先生から「国際化プロジェクトはゲームチェンジャーとなりました。森さんからの話が無ければ、FOSS4GやOSGeoコミュニティは、今のようにはなっていなかったはず」と話された。
2003年の日本での、大阪市立大学での出会いが世界を変えていくという、とんでもないすごいことを自分がしていたのだと改めて思い返した。当時は、地理空間情報の世界はもっとオープンであるべきだという思いで、事業会社からの視点から、やれることを精一杯やっていただけだった。そうした動きをきっかけとして、ラガワン先生が世界を繋いでくださったことから、FOSS4Gの全てが始まった。


振り返って
3月20日の最終講義は、さながらFOSS4Gの創成期のプレーヤー達の同窓会のようでもあった。今、OSGeoコミュニティがこのようにあるのも、ラガワン先生が大阪市立大学(当時)杉本町キャンパスで研究の傍ら、GRASSの普及を始めたことがきっかけである。先生のネットワーク力(巻き込み力)は卓越していて、私はもちろんのこと、世界、日本問わず大きなうねりの中で力を尽くすことができてきた。
先生が、「Enjoy doing nothing」(何もしないことを楽しむ)とスライドの最後に書かれていたが、多分じっとしていられないだろうなと思うし、引きつづき、先生とFOSS4Gの活動を私も継続して行きたい。
そして、今回の最終講義と懇親会の手配を精力的にしていただいた、大阪公立大学大学院の植田さん、ありがとうございます!
参考記事
FOSS4Gの創成期の物語は、筆者が当時書いていたブログ「横浜スローライフ」に詳しいので、ぜひお読みください。
