情報発信におけるキャリコンの倫理綱領と守秘義務について(弁護士監修記事)
キャリコンの皆さんへ。
X、note、YouTubeなど、キャリアコンサルタントが情報発信を行う場は、この数年で一気に広がりました。
一方で、発信が身近になったことから、
どこまで書いてよいのか
何が倫理的にアウトなのか
守秘義務との線引きはどこなのか
といった、不安や疑問を抱えている方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、
キャリアコンサルタントの情報発信に焦点を当て、「倫理綱領」と「守秘義務」の観点から、避けるべき・比較的安全な考え方を整理します。
なお、本記事は、日本キャリア法務協会理事長であり、弁護士かつキャリアコンサルタントである山田英樹氏の監修を受けています。
山田氏の著書であり、本記事の参考にしたのはコチラ☟
先に結論
以下は、「安全運転(自動車教習所並)」の整理です。
倫理綱領と守秘義務を厳格に守ろうとすると、
情報発信はどうしても「抽象度の高い、一般論」に終始する
ことになります。
その多くは厚生労働省が公式に示している、
「キャリアとは」
「キャリアコンサルティングとは」
という内容の範囲に収まるでしょう。
多少緩く解釈したとしても、私たちキャリコン自身の「実績・強み・お客様の声」といった要素は、極めて慎重な扱いが必要です。
倫理綱領と守秘義務は明確に切り分けられるものではありません。倫理綱領上も守秘が求められ、加えて法律上の守秘義務も課されています。
※キャリアコンサルタント倫理綱領より
危ない橋を渡らないためには、相応の慎重さが求められます。
最終的に「危ない橋を渡るか渡らないか」は、キャリアコンサルタント個々人の判断に委ねられます。
すべては、クライエントが、
「安心してこのキャリアコンサルタントには内心を話せる」
と感じられるかどうか、です。
本記事は、その判断材料を提供するための整理を目的としています。
どうしても曖昧さが残る部分があることを、あらかじめご理解ください。
そこが、キャリコンの情報発信における面白さであり、同時に悩ましさでもあります。
※あくまでも「情報発信」に限定した記事です、念のため。
避けるべき情報発信の方向性
まず、避けるべき方向性から整理します。
キャリアコンサルタントの情報発信は、実質的に「広告・宣伝」として受け取られやすい場面が多いのが実情です。
そのため、虚偽・誇大を控えるのは当然として、優良誤認を生みかねない表現(=キャリコン側の【主張】)も、原則として避けるべきです。
※ここで言う「優良誤認」は、実際以上に「良い成果が出る」と受け取られうる表示を指します。
なぜなら、国家資格だからです。
「あなたはキャリアコンサルタント有資格者である」と社会一般に認識されている限り、発信している内容がたとえキャリコンとしての仕事・ビジネス・商品に直接関係していなくても、倫理綱領と守秘義務の枠組みから完全に無関係ではいられません。
実績や強みを語る
たとえば、キャリアコンサルタントの実績として、
「キャリア面談導入企業において離職率を20%から5%以下に改善」
「転職支援で、非正規から正社員へ。年収100万円アップの実績」
「強みを活かした副業支援で、月5万円の副収入を実現」
といった表現は避けるべきです。
これらは、特に数字を含むことでキャリアコンサルタント側の【主張】として読まれやすくなります。事実かどうか以前に、第三者が検証できない形で成果を断定すると、誤認を招きやすいからです。
同様に、
「中高年のキャリア相談に強い」
「転職相談なら得意」
「就活支援は任せて」
といった評価語や断定的な表現も、キャリコン側の【主張】と捉えられやすく、職能倫理との関係で、慎重であるべき表現に該当します。
※実績や専門性を示すこと自体が、直ちに倫理・守秘義務違反となるわけではありません。ただし、グレーゾーンに近い表現である、という認識は必要です。
お客様の声を語る
実務上、特にリスクが高いのが「お客様の声」です。
キャリアコンサルティングの効果を「お客様の声」によって示す行為は、実質的に「広告・宣伝」として受け取られやすく、実務的には極めて慎重であるべきです。
逆に、クライエント側が、
「キャリコンの○○さんに相談して、悩みが解決しました!」
と発信した場合。
単なるリポストで済ませる、もし反応するなら「ありがとうございます(事実の確認や補足をしない)」までが安全運転です。
「○○さんの△△な悩みを解消できてよかったです」
といった内容を引用やコメントで補足すると、クライエントの内心を広く公開したとも解釈できるため、守秘義務違反と捉えられる可能性が高まります。
「では、お客様の声は一切使えないのか?」
という疑問はもっともですが、実務的には「使わない」が安全運転です。
なぜなら、キャリコンは国家資格だからです。
そこには、法的な義務と責任が発生します。
これが、一般的なコンサルタントやコーチ、カウンセラーとは決定的に異なる点です。
日々の行動を語る
次のような、何気ない日々の投稿も注意が必要です。
よくXで見かける投稿ですが。
「今日は〇〇な悩みを持った方の相談に乗りました」
「今日は○件のキャリア面談。皆さんの悩みが解決したようで一安心」
「今日は忙しかった。○件もキャリア面談するのは正直きつい」
クライエントが、
「これは自分のことでは?」
と気づいた時点で、守秘義務違反に該当する可能性があります。
たとえ個人が特定されなくても、内心に属する情報が外部に拡散されたとクライエントが受け取れば、倫理的な問題が生じます。
この場合、倫理綱領違反に問われる可能性を否定できません。
情報発信できることが少ないですね。これが国家資格の重みです。
比較的安全な情報発信の方向性
では、どのような発信であれば比較的安全なのか。
基本的な考え方は、
評価を入れない
事実にとどめる
ことです。
たとえば、
キャリアコンサルティングの一般的な効果
厚生労働省が公式に示している内容
これらを紹介・解説することは、問題になりにくいでしょう。
また、実績についても、表現次第では許容される場合があります。
「転職相談に注力している」
「中高年の相談を数多く実施している」
「キャリア面談〇〇件」
これなら、キャリコン側の【主張】ではなく、客観的事実の提示に留まります。優良誤認を生じにくいと考えられます。
同様に、
「最近、〇〇の相談が多い」
といった傾向の共有も、クライエント個人の情報ではなく、全体的な傾向であれば、守秘義務違反には該当しません。
まとめると、
評価を加えない事実の提示であり、
かつ、
優良誤認を生まない表現であること。
この原則を守ることが、情報発信における基本線となります。
語らない勇気
キャリコン側の【主張】と捉えられるような、
クライエントが「自分のことか?」と思わないような、
実績や強みを語らない
お客様の声を語らない
日々の行動を語らない
のであれば、リスクは低いと考えられます。
例えば、
キャリア相談実績:10,000件以上
キャリア相談領域:社会人、転職支援、学生支援など
経営者へのキャリア面談:50社
中学校でのキャリア教育に講師として参加
最近はDX関連やAI関連の相談も多い
であれば、事実と数字の羅列でしかないので、OKです。
まとめると、こちらです☟

主観や評価といった【主張】から、【事実】へ置き換えるのが安全です。
なんだか味気ないと思った人、その通り。
これが守秘義務を法的に課せられた国家資格の重みです。
守秘義務について
改めて、守秘義務について整理します。
守秘義務とは、一定の職業に従事する者が、職務上知り得た秘密を漏らさない義務です。
国家資格キャリアコンサルタントには、職業能力開発促進法第30条の27第2項により、「その業務に関して知り得た秘密」を漏らし、または盗用してはならない、という義務が課されています。
守秘義務の趣旨から考えると、重要なのは、
個人が特定されるか
内心に属する情報が外部に広がるか
という点です。
この観点から見ると、「お客様の声」は特にリスクが高い領域ですよね。
「お客様の声」も、法的には、本人の明確な同意があり、内容が抽象化され、誇大広告に該当しなければ、直ちに違法とまでは言えません。
しかし、
後から同意が撤回される可能性
デジタル上に情報が残り続けるデジタルタトゥーのリスク
を考慮すると、倫理的・実務的な危険性は非常に高いと言わざるを得ません。同意を取ったからOKではなく、後から撤回されても困らないか、がポイントです。
例としては、
「○○さんの支援のおかげで希望の職種△△に転職できました!」
というお客様の声があるとします。
数ヶ月後、
「自分には合わなかった。やりたかった仕事だと浮かれていた自分がバカだった。また転職するので、お客様の声は消してください。職種変えます」
と言われても、一度公開された感謝の言葉は、消せません。
また、
「○○さんのおかげで、上司との関係が改善できました!」
からの、
「異動で状況が変わりました。異動先の上司との折り合いが悪く、もう限界です。退職するので、消してください」
とかだと、さらにわかりやすいと思います。
なお、守秘義務が解除されるのは、クライエントや第三者の生命・身体に重大かつ差し迫った危険がある場合など、極めて限定的です。
たとえば、目の前で重大な危害が及ぼされようとしている場合には、躊躇なく関係機関に通報し、必要な情報提供を行うことが正当化されます。
そうした例外的状況を除けば、守秘義務は原則として厳守されるべきものです。
守秘義務違反の罰則
守秘義務違反には、明確な法的リスクがあります。
1.刑事責任
「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する」(職業能力開発促進法第99条の2)
2.民事責任
「債務不履行に基づく損害賠償請求」(民法415条)、または、「不法行為に基づく損害賠償請求」(民法709条)
3.行政処分
厚生労働大臣より「その登録を取り消し、又は期間を定めたキャリアコンサルタントの名称の使用の停止を命じることができる」(職業能力開発促進法第30条の22第2項)
国家資格である以上、上記は「知らなかった」「ついうっかり」は通用しません。
※民事責任については「キャリアコンサルティング賠償責任保険制度」というものがあります。実際に使われた例があるのか、知りたいところ。
特に企業領域では、多重関係が生じやすく、守秘義務違反のリスクが高まります。
経営者や管理職からの情報共有要求に対しては、事前に守秘義務の範囲を説明し、理解を得たうえで関与することが不可欠です。
よくある守秘義務違反の例(参考)
情報発信そのものとは直接関係しませんが、守秘義務の理解を深めるため、企業領域でよくある例を挙げておきます。
例えば、人事部に勤務するキャリアコンサルタントが、従業員のキャリア相談を担当し、相談者の明確な同意がないまま、その内容を社内で共有してしまうケース。
いわゆる「多重関係」に起因する問題です。
経営者に「キャリア面談で従業員の悩みを聞いて欲しい」と依頼される
従業員にキャリアコンサルティング。「もうこの会社辞めたいです」と言われる
経営者から「あいつ、どうだった?なんか言っていた?」と聞かれる
この場合の正しい選択肢は、
×:「辞めたいとのことです」→「あいつ、冷遇したろ。仕事奪わなきゃ」
×:「いろいろ悩んでいるみたいです」→「細かく教えろ、じゃなきゃ依頼した意味ないだろ」
△:「守秘義務があるから、細かく言えません」→「わかった、仕方ないね」(最低限の対応)
◎:「あらかじめ伝えていたとおり、守秘義務があるため、詳細は共有できません」→「わかった、これからもよろしく」(事前説明がなされている)
経営者や管理職の理解と事前確認は、本当に重要です。しかし、守秘義務の制約上、共有できる情報はどうしても限定的になります。
この構造が、企業領域においてキャリアコンサルタントの活用が進みにくい、一つの要因になっているのも事実でしょう。
お金を払って依頼したのだから、内容を知りたくなるのが人間ですしね。
そして当然ながら、ここで挙げたような内容を、情報発信として外部に出すことは、慎重であるべき領域です。
キャリコン個々人の倫理にかかっている
ここまでお伝えした通り、倫理綱領と守秘義務は、明確に切り離せるものではありません。
そのため、最終的な判断は、キャリアコンサルタント一人ひとりに委ねられています。
情報発信において、実績や強み、お客様の声を出したくなる気持ちは、理解できます。それがマーケティングであり、ブランディングだ、という考えもあるでしょう。
私も過去、そう思っていました。
何が悪いのか理解もできていませんでしたし、考えてもいなかった。
避けるべき情報発信の方向性、すべてやってしまっていました。
しかし、このような情報発信を行うことは、国家資格保持者として、相応のリスクを引き受ける覚悟が必要です。
「倫理や守秘義務を軽視している」と評価される可能性を、クライエントだけでなく、同業者であるキャリアコンサルタントからも引き受ける覚悟が。
リスクを少なくする、発信前のセルフチェック・フローはコチラ☟

本記事は、誰かを批判するためのものではありません。
キャリコン同士で、
「それは倫理違反だ」
「守秘義務違反だ」
「だから削除しろ、取り消せ、なかったことにしろ」
と、断罪し合うことを本記事は意図していません。あくまで、情報発信における倫理綱領と守秘義務を考えるための整理です。
繰り返しますが、最終的な線引きは各キャリコンの判断です。
しかし、その判断にはクライエントの信頼と、関係法令・倫理綱領の要請が常に伴います。
本記事が、キャリコンの皆さんにとって、情報発信と倫理綱領・守秘義務の関係を一度立ち止まって考えるきっかけになれば幸いです。
※本記事は、キャリアコンサルタントの情報発信に関する一般的な考え方を整理したものであり、個別具体的な事案についての法的判断を示すものではありません。実際の判断にあたっては、関係法令および倫理綱領を確認のうえ、必要に応じて専門家に相談してください。
